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第192話、EndingNo.8、『照らしていく、長いこの道の途中、迷わないように』⑬





「ふぅ。ミィカのおかげでなんとかうちまで帰ってこれたのだぁ」

「ぴぴすっ!」

「って、姫さまっ。そのような悠長なことおっしゃってる場合ですかっ。あまりお目にかかったことのない魔物? 魔精霊? さんが、何だか凄そうな存在の方が、こちらを睥睨、凝視なされていますよっ」

(おぉ~。あれは。確かにめっちゃ強そうだぜ。これといって敵意みたいなのは感じないが……。まぁ、万魔の王のタイプじゃなさそうだな)



ルーミとミィカ、ついでにマーズのがやツッコミの甲斐もあって?

ハナたちはサントスール王城前へと辿り着くことができたわけだが。


入口……正しく門番の仕事を全うしているがごとくでゆらゆら浮きながらそこにいたのは。

時の狭間の怪物、その本人に出会うまでのイメージに近い、異界の生き物めいた存在であった。

黒い、つるりとした足のない肢体に、一度見たら忘れることはないであろう能面のごとき顔がついていて。


その威容に、ミィカとルーミは思わず身構えたが。

彼女がかつてそこにいた頼もしき門番さんの任を負っていた、『心も身体も多き者』の代わりにそこで城を守っているのが当たり前になっていたハナにとってみれば。

むしろここから先は、ハナと見るや襲いかかってこようとするお化けたちが入ってくることはないので、安心できる、正にホームでもあって。



「デロンさん、ご苦労様ですなのだ」

「……」

「お父さんは今お城内にいるのだ? あ、ボクが帰ってくるからって待ってるって? それはちょうどよかったのだ」

「……」

「あ、うん。そうなのだ。おかげさまでボクにもついに契約ができたのだっ」

(あぁ、デロンさんっていうのか。やっぱり万魔の王の契約者じゃなさそうだけど。会ったことは……ないよなぁ。一度会ったら忘れなさそうだし。だけど聞いたことあるな。ハナパパの方じゃなくて、サントスールの幽霊姫……ハナママことナナさんの親友さんだったっけ。しっかし、さすがだなハナ。オレにゃぁデロンさんの言葉、ぜんぜんわかんねぇんだけど)



一応、城内へ入るということで。

ここまで大活躍であったルーミはこれにてお役御免となった。

何でも、契約した魔物魔精霊たちの待機世界……『魔精球』の内なる世界にて、ミィカが用意した報酬のにんじんがたくさんあるとのことで。

ぴすぴす鳴きながら、勢い込んでかえっていったわけだが。


きっとルーミも、なんとはなしに予想していたのかもしれない。

門番のデロンさんですら隔絶した実力差を感じていたというのに。

万魔の王城内には、そんな門番さんすら軽く凌駕する、それこそその名に相応しき、音に聞く剛の者たちがおわすということを。



最もマーズにとってみればそれがここの普通であるのは確かであった。

ハナの両親には、小さい頃から格闘術を教わっていて。

(その際にもちろん召喚魔法も習ったのだが、どうもあまり向いていないようで、そちらはあまり身に付かなかった)

万魔のハレム王の契約者たちとは、それこそよくよく顔を付き合わせる機会があったからだ。



「『伏魔殿の住人パウンデモナー』ですかね、種族としましては。前回ここへ参った時にはお見かけしませんでしたが……姫さまは彼女と契約はなさらなかったのですか? 失礼かもしれませんが、門番という仕事をするには少々似つかわしくなさそうなお嬢様でしたが」

(えぇっ!? そ、そうだったのん? いやちょっとマジで、耳どころか目までおかしくなっちゃってるのかな。こんな外の様子を見ることしかできない狭くて暗いとこに閉じ込められちゃってるから……)

「うぇ? あ、うん。もちろん『げっと』したいって『ばとる』を申し込んだこともあったのだ。だけどデロンさんは、お母さんのあいぼーさんだから。申し訳ありませんお嬢様って断られたのだ」

「そうですか。よかったですね、姫さま。わたしの隣に誰もいなくて。……まぁ今は欲張りにも他の娘に気を向けられているようですけど?」

「えぇっ!? な、なな何いってるのだミィカってば。いいからとにかくお父さんのとこまでいくよ!」

「ふふふ。まぁいいですけれどね。姫さまの一番はもうわたしのものですから」

(うわぁ。ミィカめっちゃドヤ顔しとる。ってかここまでくるとその【カムラル】の魔法使いの女の子、滅茶苦茶気になってくるんですけど)



杖の中の世界から見ている感じ、マニカやマーズの母のような今まで会ったことのある人物ではないのだろう。

その時何故か、あまりよろしくない予感とともに思い出したのは。

ハナとミィカがユーライジア・スクールへとやってきた時に全校生徒の前で宣言していたフレーズで。




「もう、ミィカってば。……ええと、お城にいる時お父さんはたぶんお庭の手入れしているはずなのだ。とにかく行こう!」

「娘相手ですから必ずしもそうとは言えないのでしょうが、こういう時って玉座とかにふんぞり返っているわけじゃないのですね」

(あー、そういやここって玉座の間とかあったっけ? 何せここまで入ってくるのもだいぶ久しぶりだからなぁ)



ある意味お姫様らしいハナの母はともかくとして。

ハナの父は、なんて言えばいいのか万魔のハレム王などと呼ばれるのを嫌がっているとかそれ以前に。

あるいはマーズの父以上に、この世界から浮いている印象の強い人物であった。


それは、かつて男であると嘯いていたマーズの母とは同じようで別の意味で、男らしい部分がないこともないのに、オレは男だと宣言してぶんむくれていたマーズの母に負けないくらいの女らしさを持ち合わせていたからで。



(投げ槍師匠(ガイアット王)、ハナパパのこと親友だって言ってたけど、絶対好意的なものもってたよなぁ)


多分それは。

死に神の二つ名を持つ彼が、見かけでなくその魂まで見通していたからで。

マーズ自身が、心の臓の杖の中にいる状態で、ガイアット王と顔を合わせることがなかったのは。

運がいいのか、悪かったのか。


マーズがそんな下世話で益体もないことを考えていると。

やはりハナの言う通り、ハナたちが帰ってきていることに気づいていたようで。



(お、この一見存在感なさそうでめっちゃ自己主張バリバリな気配は……!)


万魔の王のそうそうたる顔ぶれなメンバーに邂逅するよりも早く。

あるいは空気を読んで席を外していてくれたのか。

そういった意味では唯一空気を読まなくても良いとも言える、この城の主のひとり。


サントスールの幽霊姫の冴えて冷たいのに熱血してい。

そんな魔力の波動が、内なる世界にいるマーズにも伝わってきて……。



  (第193話につづく)









次回は、11月26日更新予定です。

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