第191話、EndingNo.8、『照らしていく、長いこの道の途中、迷わないように』⑫
ハナの父、万魔の王。
ハナの大好きなその人が抱えている、不思議、秘密、あるいは違和感。
どうやらハナの母は、その正体を知っているようで。
いつでもどこでも仲良しなふたりを見ていると、そんな謎をハナが解き明かしたとしても。
『厄呪』よりも不幸になるようなことはない気がして。
この幻想の世界に数多ある謎、あるいは『事件』を解決することが大好物であったハナは。
早速とばかりに推理を開始する。
やはり、一番の手がかりとなるものは、父がハナにくれた言葉であろう。
『困った時は、カムラルの魔法使いの少女が助けとなってくれるでしょう。
その名を呼べばきっとどこからともなく助けに来てくれるはずだよ。
得意の瞬間移動の魔法で。たとえハナちゃんがどこにいたとしてもね』
ハナは、そんな父の言葉を手がかりとして、【火】の魔法使いの少女を探すことにしたわけだが。
ナイト……マニカに会った時、『夜を駆けるもの』として、いろんな人の手助けをしていたから。
てっきりマニカがそうなのかと思いきや、どうも違うらしい。
本人が、カムラルの至宝と呼ばれてもいるらしいその魔法使いの少女ではないと否定したのもそうだが、
父からの謎かけ(いつの間にかそういう事になっている)の答えを聞いてみても、
わかりません、ごめんなさい、といった言葉が返ってきてしまって。
ハナの推理は、ふりだしに戻ってしまったかのように思えたが……
「……っ! ……っ!」
ぴすぴす、ぴすぴすと。
本来鳴かないはずの『ガイアット・アルミラージ』のルーミの大きな息遣いが聞こえてくる。
「がんばれ、ルーミぃっ! ぬぅっ、『厄呪』のこと失念してたわっ。
うちのお城の近くまで行けばお化け封じの結界が張られているはずなのだぁっ」
「……っ!」
(おぉ、一角うさぎって騎獣には向いてなさそうなのに、やるもんだぁね。ってかそれ以前にオクレイの豚ちゃんにあんな能力があったとは驚きだけども)
ハナが、バイに跨って逃げるように向かったのは、他国へ迎える『虹泉』がいくつも設えてある建物であった。
そのまま勢い込んで、12色の濡れない水の奔流の中へ飛び込んでいくのかと思いきや。
『クリア・ピッグ』のアピを呼び出して、彼、あるいは彼女が持っていた固有能力、『チェンジング・アーヴァ』……所謂ところの変身能力を発動してもらい、もうひとりのハナ(身代わり)を創り出したかと思うと、追ってくるであろうムロガを迎え撃つ……じゃなかった、引き付けるためにそのままバイに跨ってもらって、虹泉小屋付近で待機してもらっていて。
(ちょっとばかしムロガがもうらしい気もしなくもないが……向かってるのはサントスールの王城かな? なかなかのゴーストが集まってきてるじゃないか)
「……っ、もう少し、もう少しなのだぁっ。わかってたけど、わかってたけど! ミィカいないとみんなして寄ってくるんだもんなぁ!」
(ふむ? よくよく見ると人型をしてるな。足はないけど。……何だかヤロウどもが多くね? これって嫌ってるから襲いかかってきてるんじゃなくて、みんなもしかしなくともハナのファンなのでは? ……いやいやっ、ってかこのオレさまがいる以上指一本触れさせんよ? これは満を辞してオレの出番でしょう! さぁさぁさぁ! ハナよ、オレさまを呼び出すがいい!)
ハナが実家、故郷であるサントスールでは、召喚契約ができなかったとぼやいていたのはいつのことだったか。
マーズ自身、サントスール王国へやってきたのは地味に初めてであったが。
ハナの男嫌いはもしかしなくてもこのような特殊な環境にいたからなのかもしれなくて。
「……はっ。契約! そうなのだっ。ミィカを呼び出しちゃえばいいんじゃないか!
よっしさっそく。……みーいーかーっ!! たーすけてくれぇぇえい!」
そんなマーズのアピールが聞こえたからなのか。
ふと思い立ったらしいハナは、もはや簡略化と言ってしまうのも烏滸がましいノリと勢いで、
一番の友達にして頼れるメイドさんなミィカを呼び出すことに成功する。
「……おぉ、すごいです姫さま! バ上にて三点倒立とは! これからどうあがいても面白い未来しか……って、あらら?こっちにはノーマルなのに面白い姫さまじゃないですか。なるほど、道理で。あれほどまでの激しいリアクションをしなくては、いつものような面白さが出てこないというわけですね」
「ミィカっ! 色々言いたいことはあるけど召喚にこたえてくれてありがとー! もしかしなくとも呼んだら助けてくれる魔法使いさんてミィカだったりしちゃうのか! さがしていた青い鳥はすぐそこにいたってやつかぁ!?」
(ふむ。魔法使いさん、ね。その魔法使いさんがハナの探してる女の子なのかな)
「いえ、わたしは姫さまのメイドで時々偉大で黄金なドラゴンです。それ以上でもそれ以下でもありませんが……む? よくよく見たら何やら厭らしい気配がしますね。……邪魔です。散った散った!」
「(おおぉ~!)」
分かってはいたのだろうが。
ハナの希望めいた言葉をすぐさま否定しつつも、すぐさま周りの状況を理解したらしく。
集まってきているヤロウばかりなゴーストたちを、なぎ払う仕草をしつつ、ハナから滲み出続けていた『厄呪』の素もいえるよこしまな気を吸い取っていって。
「ぴふぅっ」
男しょうばかりなゴーストたちは、それにより興味をなくしてしまったかのように。
あるいは祭りは終わりだ、とばかりに三々五々散っていく……。
その時ばかりは、シンクロしてミィカの手腕に感嘆の声を上げていると。
ミィカはやれやれ、相変わらず姫さまは面白いことばかりに遭遇しますねとぼやきつつ一息ついて。
「後で、見てもらう機会もなく面白いめにあってるでしょうムロガいいんちょに謝りにいきますからね。
……といいますか、この様子ですと姫さまが求めるさいごの四天王さんは、これから向かうべき場所にいらっしゃる、ということでよろしいですか?」
「……お? う、うん。そうなのだ。さいごのさいきょーな四天王さんは、実は万魔の王さまな、おとーさんだったのだぁっ……!」
(ってか、四天王設定もう忘れかけてたくね?)
それは、答え合わせ。
恐らくきっと、ハナの父ならば直接聞いても笑ってこたえてくれるのだろう。
だけど、それじゃぁハナ自身の気がすまなかったから。
自分なりに答えを用意して、父に会いにいくことにしていて。
「成る程です。わかりました。久方ぶりの姫さまのご実家です。メイドとして、どこまでもついていきますよ」
「ぴすっ」
「ありがとう二人とも、とっても頼もしいのだっ」
(んん? 魔法使いの女の子を探してるんだよな? もう一度ハナパパにその彼女の特徴とか、得意魔法とか聞き直すのかな?)
そうして。
こんな時ばかり鈍感力を発揮するマーズは。
自身がその答えであることなど気づかないままに。
ハート型の杖の中に閉じ込められ、知らぬまま連行されていくのであった……。
(第192話につづく)
次回は、11月18日更新予定です。