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第190話、EndingNo.8、『照らしていく、長いこの道の途中、迷わないように』⑪




「失礼しますっ。ヴルック商会のムロガです。毎度ありがとうございまーすっ」

「あら、ムーちゃんこんにちは~。今日はどうしたの? 竹刀も道着も足りていると思うけど」

「あ、はい。ハナ姫さまがこちらにいらっしゃるとご当主さまにお聞きしまして、お伺いしました」

「ハナちゃーん、ムーちゃんが来たよ~」

(……はっ。天からの助けかっ!? 穴があったら入りたいオレをたすけてくれぃ!

いや、ここは誰の声も届かない深い穴のようなものだから、別にこのままでいいのか、悩みどころだなぁ)

「……っ! おぉ、ムロガいいんちょ、どうしたのだ? ボクに何か用事なのだ?」

「あ、うん。この前ハート型の杖貸したでしょう? あ、それそれ今ハナ姫さまが持ってるやつ」

「びびくぅっ!?」

(む。わざわざ声に出してまで、中々に素晴らしいリアクション)



どうやら、マーズが勘違い? して先走っているうちに、宴もたけなわというか、新たに四天王に任命されてしまったママ二人とのお話もひと段落ついたらしい。


宿命のライバルめいたドンパチやりあって熱くなりすぎて見物客が半分いなくなってしまって。

慌てふためいてサロンへ向かっているはずのミィカやクルーシュトよりも早く、直でサロンに案内されたらしいムロガが顔を出したことで状況が一変する。


タクトに呼ばれて顔を出したハナは、肌身離さず持っていた心の臓型の杖(inマーズ)を、持ってこなければよかったと。

取り落としかねない勢いで、声に出てしまうくらい動揺していて。



「どっ、どどこの杖がどうしたのだ? ってか借りたんだっけ? クロさんだけじゃなくバイもつけるからそれでお買い上げおっけーじゃなかったのだ?」

「ヒヒィン!」

「きぃっ!」

(おいおい呼ばれたのかと思って出てきちゃったよ。……いや、クロは始めっからムロガにくっついてたけども)


しかし、いつの間にそんなことになっていたのだろう。

呼び出されて出てきた『バイコーン・エクゼ』のバイもそんな契約、やりとりがあったことなど知っているのか知らないのか。

それでもお構いなしにまるで純粋無垢なユニコーンのような大きく澄んだ瞳でハナというよりもムロガのことを見つめていた。

それで思い出したのは、元々バイが、ハナというよりもムロガを狙っていたのだったか、ということで。

  


「えぇっ!? そ、そうだったっけ? いや、バイさんって背中に乗せてもらえるの? 乗れる? だったら移動も楽になるし、いいのかなぁ」

「きぃっ!?」

「ヒヒィィーンっ!!」

「うわっ、圧がすごい! ……ってハナさん、やっぱりそんなはずはないって。一応商会の娘としてはそういった契約とかはちゃんとしなきゃって思ってるし」

「あれ? そそ、そうだったのだ? それじゃぁその、借りてるところ正式にお買い上げしたいと思うのだ。実はけっこう気に入っちゃって」

(もう、ちょっと! バイさんとのトレードは嘘だったってぇの!? オレが泣かない赤オニじゃなかったらプンプンなところですよ!)

「あ、やっぱり。そう言うと思ってたんだ。だから正式に売買契約しちゃおうと思って。実はうちの店舗の倉庫の奥に使われないまま仕舞われてたから念の為にと持ってくくらいならいいかなって思ってたんだけど、よくよく聞いてみたら、カムラル家に代々卸してた、『カムラルの杖』シリーズの一つだったみたいなんだ。他に、星型とか月型とかいろいろあるんだけど、ハート型ってカムラルのお姫様たちに何故だかあんまり人気なかったみたいでね。埃かぶっちゃう勢いだったんだけど、それこそ根源クラスの魔精霊だって快適に過ごせる代物らしくて。買ってもらうっていうか、僕としてはプレゼントしてもいいかなって思ってたんだけど、なんかその前に色々調べなくちゃいけないみたいなんだ。何せ、魔精霊の器としても良い物らしくてね。知らないうちに変なものとか良くないものとかが入り込んじゃう可能性もあるんだって」

(はーい、良識的な変態がここにいますよぉ! いい加減だしてくれぇっ)




畳み掛けるようにそう言い放った後、ちらりと心の臓の杖を、マーズの方を見てくるムロガ。

もしかしなくともムロガさんも気づいていらっしゃるのかと。

少なくとも、杖の中に何かが入り込んでしまっている可能性を指摘されただけでも前進だろう。


ムロガが言うように、よくよく調べてもらえればマーズがそこにいるのも分かるはず。

何だかんだで、目の前に訪れる幸運なとらぶるがとんとなかったことが心残りではあるけれど。

いよいよもって潮時か、ようやっと探していた青い鳥ならぬ赤いオニも見つかってしまうのかぁと、複雑な気持ちでいると。




「……ええい、ままよぉっ。バイさん! とりあえずここから脱出するのだぁ、ごぉーっ!!」

「ヒヒイーンっ!!」

「きぃっ!?」

「え、ちょっ。まっ」

「ふふ。あんなにも可愛いお馬さんがいたら乗せてもらいたくなるよねぇ」

「急に!? ちょ、食い逃げ……じゃなかった、ちょっと追いかけます! みんなにはその旨お伝えくださいぃっ」

(流れるような乗馬!? ま、まさかハナってばはじめからこれを見越してバイを召喚していたとでもいうのかぁっ……!)



まさか、それほどまでに心の臓(inマーズ)がお気に入りになってしまったのか。

恐らく、ムロガが顔を出した時点で、ハナは捕まる前? に逃げ出す算段をしていたのだろう。


杖を返したくないから、苦し紛れの嘘をついてまでバイをダシにして名前を呼んだのかと、一瞬でも思ってしまった自分を殴りたい。


そんな事を思いつつもマーズは。

あまりにも華麗にマーズだけでなくムロガたちも手玉にとってみせた? ハナに。

ますます惚れ直してしまったというか、今まで思っていなかった感情が芽生え出したのは確かで……。



    (第191話につづく)








次回は、11月10日更新予定です。

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