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第19話、絶滅危惧種(red)なツンデレは、やっぱりもういないのかもしれない




会ったばかりのハナのリアクション……ミィカも含めて思い出すに。

好かれているなんてうぬぼれを、マーズが抱けないのは確かであった。

こちらとの接触に対し、何かを恐れていた節があったのは確かで。




「会って、本人に直接聞いてみるのが手っ取り早いか」

「なら、私が先に聞いてみるよ。同じクラスメイトとしてクラスのみんなと仲良く出来るに越した事はないからね」


なんて事を話している間に、辿り着くは蒙昧なる学び舎。

クルーシュトは、それじゃあウィーカをよろしく、とばかりに手を上げて自らの教室へと向かってゆく。

それを見送ったマーズは、ウィーカを頭の上に乗せたまま、自分たちのクラスへと向かうことにして……。








早くもないが、遅刻と言われるほどでもない朝の時間。

見た目に似合わず無遅刻無欠席な優等生である、おネエ系筋肉ダルマ(オクレイ)と、厨二病な見た目だけデビル(ミエルフ)な悪友二人とおざなりな挨拶を交わした後。

いかにも話があります、とばかりにマーズの隣の席でマーズ達を見上げているリアータの所へとやってくる。



「おはよう、リアータ。今日も面倒たのまぁ」

「うん、おはよう。任されたわ」

「にゃっ」


多くを語らずともリアータに撫でられ抱えられ、お手製らしいおやつを与えられる高待遇が気に入ってるのか、なすがままのウィーカ。

実際のところ、同じクラスメイトで人型も取れるのだから甘やかしすぎじゃないかとは思うのだが。

マーズ自身も甘やかしている自覚があるし、ヤローなら誰にでも冷たく刺さるようだと、どこかで聞いたばかりのような態度であったリアータと、こうして当たり前に接する事ができているのはウィーカのおかげでもあるので、ぐぐうっと気持ちよさそうにのびをしてリアータの机を占領しているウィーカを脇目に、授業が始まるまでの隣席の美少女との楽しいおしゃべりに取り掛かるとする。



「オレ、結構リアータが何を思ってるのか分かるようになったのかもな」

「……っ、その心は?」

「ああ、うん。ただ、何だかオレに聞きたい事っていうか、話したい面白い事でもあったのかなってな」


どうしてオレには普通に接してくれるんだ?

なんて聞くのはうぬぼれで野暮なんだろう。

さっき、ウィーカが緩衝材になっているのだと納得したばかりではないか。

そもそもが、ウィーカ自体に懐かれて? いるのにも疑問は尽きないわけだが。


とはいえ、やはり多くは語らないが。

そうしてもらえる努力をしてきた自覚がないといえば嘘になるだろう。

何もしていないのに、何故か好かれる。

なんて素敵でチートな能力はあいにく持ち合わせてはいなかった。




きっかけは頼まれ事とはいえ、努力が報われてこその意味がある。

そういう意味では、今のリアータやウィーカと会ったばかりのミィカやハナは違うのかもしれない。

マーズが彼女たちに対して嫌悪感を抱かない理由が、きっとあるはずで。




「……私、昨日『夜を駆けるもの』に会ったんだけど」

「おいおい。またかよ。あぶねーから夜の外出は控えた方がいいって言ったろに」

 

リアータと初めて会ったのは、偶然にもそんな夜だったが。

まぁ、この世界の危険に関しては、遭う時は夜だろうが朝だろうが唐突過ぎてあまり関係ないのでマーズの気分的な問題だが、マーズの小言などほとんど歯牙にもかけない様子でリアータは話を続ける。



「あなたとよく似た女の子だったわ。そうなるとやっぱり妹さんかしら」

「ちょっとちょっと。そんなむごくて無残な事言うなって。このオレにそっくりな妹がいたら、世を儚んじゃうよオレ」


リアータの言葉をマーズは当然のように嘘だと断じた。

実際、髪の色や目の色に限れば似ていない事もないが、対面しても尚マーズ本人(レスト族的な意味で)だと疑っている、リアータのかまかけであった。

全然違うだろうと言質を取るつもりだったのだが、しかしそこはツッコミのプロ。

どうとでも取れるような表現に、リアータは内心でそう簡単にボロは出さないかとひとりごちる。



「んん? 待て。その言い方だと『夜を駆けるもの』の正体、ついに掴んだのか?」


ウィーカの首筋を撫で、表情動かずもゴロゴロさせながらの呟きは、こうした朝の何気ない雑談の中でも大きなニュースであるといえよう。

何せリアータはこう見えて興味のあるものに対してすごくアクティブなタイプで、

マーズの心配をよそにしょっちゅう寮を抜け出しては『夜を駆けるもの』に会っていたのだ。

いつもいつでも小難しくて意味深で、内容があるようでない、ちょうど今みたいな雑談をして終わるのが常だったわけだが。



「ええ。私だけならいつもと変わらなかったかもだけど、昨日は一緒について来てくれた友達がうまいことやってくれたの。素顔も言葉にできないくらいだったけど、また会える約束をこぎつけたのは大きいわね」


言葉通り、今までと違うよっぽどの展開だったのだろう。

平坦ながらも饒舌なリアータの様子に、話の内容もさることながら、マーズはウィーカでなくとも耳をピンとさせる勢いで聞き入っていた。


「お、なんだ。リアータの趣味に付き合ってくれる友達いたんだな。初耳だ。むしろそちらを紹介して欲しいくらいだ」


幸運にもこうして会話が気安く出来る程度のきっかけを得ていたマーズはともかくとして。

鉄面皮、氷の、なんて言われていたリアータに友達と言わしめる、懐に入り込めた人物に単純に興味が沸いてくるマーズである。


ウィーカも含め、実はクラスメイトの女子なら特に仲が悪いというわけでもないので、きっとその友達も可愛らしい女の子なのだろう。

是非紹介を、なんて感情が表に出てしまったわけではないのだろうが、リアータは少し考える仕草をしてみせた後、きっぱりと首を横に振ってみせた。



「私にだってお友達の一人や二人いるわよ。だけど秘密。マーズには教えられないわ」

「まーず、みしゃかいのない変態にゃものね~」


ぼそりと、まるで補足でもするかのようなウィーカの囁き。

リアータとしては、マーズが帰った後での二人との邂逅であったため、後ろめたいと言うか二人が怒られそうだったから秘密にしたかっただけなのだが、ウィーカの言葉が否定できないのも正直な所で。



困っている人を放っておけない。

そんな所は嫌いじゃない。

ウィーカも口を開いたかと思えばそんな事ばかり口にしているが、それは嫉妬している部分もあるのだろう。


まったく、悩ましいものねとリアータが自分を棚上げしていると。

毎度毎度ウィーカの言葉を間に受けているのか、へこんでちんやりしていて、『泣きそうな』マーズの姿がそこにあった。



「見境がないとは人聞きが悪いぜ……うぐぐ」


開き直ってその通りだ、と突き抜けていたなら状況も変わっていたのだろうか。

気づけば凹んでいるマーズのその原因が、傍から見ているとリアータであるかのようになっているのはいつも通りのご愛嬌、だろうか。

ウィーカの背中を少しだけ強めに撫で上げた後、リアータは慌てて取り繕う羽目になった。



「あ、えと。ええと、ただではだめよってことよ」

「何か条件が? お金ならまぁまぁあるでよ」


カムラルの一族は炎に愛されし一族であると同じくしてヴルックにうるさく細かく、ケチな部分もあった。

しかし、反面教師かつ日々のバイトのおかげでマーズに限って言えば意外にも大らかなのである。



「お金って。にゃっぱマーズってやらしぃ」


故に冗談と言うかとっかかりのつもりだったのに、ますます調子に乗るウィーカ。


「うるせぇ。ヘコむこと言うのはこの口かぁっ」

「おっと、そう毎度簡単にゃあ捕まらないよっ」


あながち間違いじゃない態度で、大きな手のひらを伸ばすマーズ。

ウィーカはそれを巧みに回避し、リアータの肩口から首の後ろに巻き付くようにして隠れる事に成功する。

結果、両手をわきわきさせたマーズと、リアータが対面になるわけで。




「……私の条件はひとつよ。今夜またその娘たちと『夜を駆けるもの』に会いにいくから、あなたも一緒についてくること、いい?」

「いえす、さー」


冷たさの片鱗をしっかりと見せて、淡々とそう述べるリアータ。

マーズには、ハイとイエスしか選択肢は残されていなかった。


もっとも、マーズとしては正体を暴くよりも早く誘ってくれればよかったのに、なんて思っていたし、

リアータとしてはテンパっていつもより固まっていただけであって、脅すようなつもりもなかったわけなのだが。


つまるところ、話したかった事が伝えられたのでまぁ良しとしよう。

表情変わらずも、リアータはマーズとの会話に一定の達成感を得つつ。

始業の鐘の音とともに授業の準備を始めるのだった……。



     (第20話につづく)









次回は、6月22日更新予定です。

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