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第188話、EndingNo.8、『照らしていく、長いこの道の途中、迷わないように』⑨





闇の竜、と呼ばれた魔の王の娘と。

闇勇者、あるいは魔剣聖などと呼ばれた剣士の娘。

相対すること数秒。


気づけばお互いが持ちし爪と剣は交錯していた。

牽制や様子見などありえないかのごとき、袈裟懸けの爪の一撃。

速さはあれど、それほど使い慣れていないその大ぶりは、相手をとらえることなく空を切る。



挨拶がわりの一撃。

次の番はこちらです、とばかりに天の構えからの面打ち。

お互いのリーチの差は大きかったが、大仰に過ぎる攻撃により頭の下がったところへとうまいこと剣の一撃が入った。

手に持つ得物は練習用の量産品。

それでもほとんど無意識に、僅かばかり魔力がこもってはいたが。


偶然か必然か、お互いのメインの魔力が【エクゼリオ】で。

綺麗な面が一本入ったまでは良かったものの、金属同士がぶつかりあったかのような甲高い音が木霊するのみで。


打たれた方も打った方もダメージらしいダメージはなく。

それでもお互いの間合いがあいたことによる仕切り直しとなったのも一瞬。

同じ魔力の色持ちながら、趣の異なるふたりのぶつかり合い、ふれあいは続いていく……。



「グゥオアアァッ!」

「……っ!」


竜の咆哮、というには少々短い声。

だがそれにリアクションする間もなく、迫る漆黒の熱線ブレスが繰り出される。

爪とは異なり、ある程度研鑽を積んでいたのか、それほど周りの影響を与えることもなく、

収束されたブレスが、間髪を置かずに襲いかかってくる。


避ける暇もなかった、と言うものあるが。

今度ばかりは剣に明確に魔力を這わせて、真正面から迎え撃つ。


室内であるからして、ブレスが繰り出されたのならば大変なことにもなりそうであるのに。

ブレスと剣が、触れ合い軋み合うことによって成る火花は、場を乗り上げるかのように派手に音を立てるのみで。




「ミィカぁ! がんばれ~っ!」

「うにゃぁーん!」

「くうぅ、アツイな! 王と王の戦いか! 私も参加したいぞぅ!」

(何ともまぁ、危なっかしいなぁ。特にミィカはもう。ツッコミどころが多すぎる!)



先日魔王城前にて、闇のドラゴンとなった時は。

マニカやルッキー、リアータたちと一触即発、といった雰囲気はありつつも、結局こうしてしっかり戦うようなことにはならなくて。

こりゃぁミィカにはドラゴンとしての戦い方をレクチャーしなくては。

どうせ過保護な両親にそのような発想はないだろうから。

なんて、どちらにせよ過保護に過ぎる思索にマーズがふけっていると。






「わぁ、おふたりともがんばってますねぇ」

「ねぇね、ミィカちゃんってちょっとだけおっきいけど、うちのかぐっちゃんと色違いな感じでかわいいねぇ」

(おぅふっ!? いきなり現れる気配!? びっくりしたぁ!)

「……あっ、マリアさんにタクトさん。お邪魔しています」

「あ、うん。確かにマリアか……姉さんの言う通りね。白と黒のコントラストがかわいい。

ハナさんと契約していなかったら、私もチャレンジしてたかも」


ここの主であるタクト(取り合えずのところハナ的にはガイアット当主のことはスルー)はともかくとして。

基本、ラルシータスクールの居住区から動くことのなかったはずのマリアが、ユーライジアへやって来ているのは意外ではあった。



リアータの二人の母の呼び名が異なる(半ば強要)のは。

マリアがタクトやマニカに負けぬ程に、こんな大きな娘がいるようには見えないことだとか。


今はリアータの式神、従属魔精霊である白竜セザール・ドラゴンのカグチは、白い毛並みがふわふわもふもふで文句なしに可愛いけれど、

ブラックダイヤのごとき鱗を身にまとっているミィカがかわいいかと聞かれれば、リアータが言うように出会っていたのが先であったのならば、契約を持ちかけていてもおかしくないと思えるくらいには男のロマン溢れる見た目をしているのは確かで。




そんな風に、色々とツッコんだり相槌を打ったりしたかったマーズであったが。

内なる世界から出られないという以前に、闇のミィカ闇勇者クルーシュトの手合わせが激しさを増してきて。

思わず避難してきたからかのか、はたまた最初からそんな腹積もりであったのか。

だだだだっと駆け足で近づいてきた(当然、その手にあるマーズもみんなとの距離が近くなっていく)、

ハナ+その大きな頭の上に乗っかっているウィーカ+追随するイリィアによって封殺されることになる。




「おぉ、いらしてますか、なのだぁ! 四天王がひとり、からくりの大聖女さまと、時を駆ける召喚少女さまがぁっ……!」

「にゃーん?」

「え? お二人がハナさんの言う四天王さんだったんですか?」

「ほほう、それはそれは物凄い偶然もあったものだな!」

「うーん。ガイアット王を目の当たりにして、父さんたちにこういったノリにつき合わせるの面倒……さけたかったんじゃないかしら」



リアータがしみじみとそう言うように。

実はそれほど『厄呪ダークサイド』にも関係なく男性が苦手なハナは。

どうも四天王役としてあてがわれたおじさんたちが、やっぱりお気に召さなかったのだろう。



故にこそ、ハナのそんなセリフ。

アイの怪人一行という名の過保護な親たちにも、そんなハナの事情は伝わっていたようで。

恐らくは、マリアがラルシータを離れてまでここにいるのは、そんなハナの目論見を伺い聞こうと思っていたからなのだろう。



「ふつうのメイドさんになんとかなれたくらいだから、そんなたいそうなものじゃないんだけどねぇ」

「あぁ、でもいいじゃない。時をかける少女。ハナちゃん、勉強しているじゃぁないの。ふはは、そうであるのならばあたしたちふたりがお相手しようじゃありませんか」

「サロンにお茶とお菓子を用意してあるの。……私たちに聞きたいことがあるんでしょう?

伺いますよ~。……クーちゃん、休憩しましょう! ミィカちゃんも!」

(ふむ。やはりハナのたくらみに気づいていらっしゃるか。流石はお母さん)


四天王だ、『げっと』するだはこの際置いておいて。

やっぱりハナには何やらお話したい、成したいことがあるらしい。



何度も触れては近づくそれに。

もうとっくの間に気づいているのに。


何故だかその時ばかりは目を逸らしてしまっているマーズがそこにいて……。



   (第189話につづく)









次回は、10月28日更新予定です。

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