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第185話、EndingNo.8、『照らしていく、長いこの道の途中、迷わないように』⑥



 SIDE:ハナ


 

「フハハハァァっ! よくぞ参った、万魔の王の娘とその仲間たちよ! 我はアイの怪人王が右腕、【ガイアット】の死神なり! 我らが王のもと、辿り着きたくばその力を我に示すとともに、我が屍、越えて見せるが良いぞぉ!!」 

(おぉ、【ガイアット】師匠はりきってんなぁ。若い子たちがこんなにたくさんやってくるだなんて、滅多になさそうだし)



恐らく、【虹泉トラベル・ゲート】を使ってハナたちがここへやって来た時点で。

ハナの目的企みごとまでは分からないまでも、どうやらガイアット王自身に用事があるらしいことには気づいていたことだろう。

むしろ彼なら愛娘の行動を逐一監視……観察していてもおかしくはないとマーズは睨んでいた。



万魔の王の娘、ハナと同世代の、それぞれの親たちが目に入れても痛くない娘たちを引き連れて。

どうやら【ガイアット】の王にして唯一の死神と、召喚契約をしにきたらしい。


普通の従霊道士であるのならば。

魔物でも魔精霊でもない人間(悲しいかな、そう思っているのは本人だけで、基本的には神型クラスの怪物だと思われている)との契約は不可能とされていたわけだが。

少なくともここにいる可愛らしい娘たちはしっかりきっかり契約済みであるようで。

契約のための条件、あるいは代償がなんであるのかは分からないが、あるいは音に聞くガイアット王であるとしても、契約は可能であると見込んでいるのだろう。



此度はどのような遊び、戯れか。

玉座の間へとやってくるまでの会話によれば、その契約の条件が戦って懲らしめ……ある程度まで弱らせることらしい。


ガイアット王は、当たり前のように盗み聞きしていることを棚に上げているくせに、異世界にまでいって嫁探し云々あたりの、都合の悪い部分は聞き流しつつ。

そうであるのならば満を辞して準備万端で待ち構えてあげましょうと。

他の者……イリィアの家族であるイシュテイルのみなを下がらせて。

最近家ではあまり着ることのなかった一張羅……全身緑の奇術師スタイルが期せずして、

『ヤツは我らが四天王の中で一番の小物よ』状態になってしまっていることに気づかぬままに。

ある意味でお決まりなセリフを、開口一番に言い放ったわけだが。



それに対してリアクションしてくれたのは、一応聞こえていないことになっているマーズのツッコミばかりで。

そんなガイアット王の言葉を最後に、何故か広がる痛ましい静寂。


(お、おい。どうしたんだみんなっ。ハナあたりならばようようとこのノリに付き合ってくれそうなものじゃんよ!)



実際問題、七色に煌く投槍こそないものの、『テンダーグリーン』とも呼ばれるガイアット王の一張羅スタイルは、親世代の『英雄ステューデンツ』を知る者からすれば憧れの的でありやんやの喝采を上げてもいいくらいだったわけだが。


残念ながら、そんな英雄の御姿を知る者は、心の臓型の杖の中にいるマーズばかりであったらしい。

思わずなんなのこのみんなの反応はと、もしかしなくとも【ガイアット】師匠の偽悪ぶった行動が、実は偽でもなんでもなかったことに気づかれてしまったのかと、戦々恐々しつつ内なる世界から至近距離で見上げると。

そこには何だか随分とちんやりしてすん、となっているようにも見えるハナの顎下が見えて。



(……っ、ええと。その、どうしよう、なのだ。パパにおじさんと契約はやめときなさいっていわれてたのだ)


殆ど心内にだけ聞こえそうな、ハナのぽそりとした呟き。

恐らくは、目上のひとに契約を持ちかけるのは失礼にあたる、的なことをハナなりに曲解した答えなのだろう。

それが、ミィカの面白好きといい感じ? に合わさって可愛い存在、可愛い女の子ばかりを追い求める感じになってしまったに違いない。



そんな呟きは、マーズくらいにしか聞こえなかったのもあって。

一番槍の名誉を得るくらいの勢いであったハナが二の足を踏んでしまっているのを見て、それならばと、目の前の声の大きいおっさん奇術師でしかない存在に比較的に慣れているのは自分しかいないであろうと、ハナの脇をすり抜けて前に出たのは、イリィアであった。




「母様や姉様たちがいると思っていたが、父上ひとりですか? 珍しい」

「ふははぁっ、今の我はアイの怪人王が四天王の一人、死神王! この姿の時は死神王でも【ガイアット】の四天王でも好きに呼ぶが良いぞぉ!」


何だか王が無駄に多くないですかね。

そんな風に突っ込んだのはミィカかマーズか。


英雄時代を知らない者たちにとってみれば、いきなり何が始まったのかと。

芝居めいたやりとりの中心であるハナがかたまって? しまった以上下手に口出すわけにはいかないと。

リアータもマニカもとりあえずのところ見守っていると、耳にしたマーズが切なくなってくるくらいのため息が聞こえてきて。



「今度は一体何が始まったのです? と言いますかその御年になってその格好はちょっと。みんながびっくりして戸惑っていますし、大概にしてもらいたいと……」



七色の投槍巧みに操りし奇術師。

その称号は私が受け継いだのではなかったのか。

何だか色々混乱していて、口調すら定まらなくなっているイリィアがそこまで口にしていたのならば。

マーズもツッコミという名のフォローしようもあったのかもしれないが。




「げぶっはあぉぁぁっ!!?」


結局のところ、そんな断末魔が轟いたことで。

マーズがツッコミできず内なる世界から出られなくとも。

所謂ところの『ばとる』が始まる前にすでに終わってしまっていることはもう、確定的で……。



  (第186話につづく)









次回は、10月8日更新予定です。

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