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第183話、EndingNo.8、『照らしていく、長いこの道の途中、迷わないように』④





SIDE:ハナ



ハナ・サントスール。

幽玄の国、『サントスール』に住まう万魔の王と、『厄呪』に愛されることで属性持たない魔精霊、とも呼べぬ幻の姫君との間に生まれし一人娘。


名前や肩書きは多くあれど、ふたりの物語はふたりの時代にもうめでたしめでたしを告げていて。

特段物語が始まるような重き運命がハナに襲いかかることもなく。

父と母、彼女らを取り巻く仲間たちに愛されて、ハナはすくすくと育っていった。



当然のように引き継いだ、幽玄の国『サントスール』の姫君に与えられしバッドステータス、『厄呪』。

ダークサイド、とも呼ばれるそれは。

世界中に漂い彷徨う負の感情を集め吸い取り、それでもハナの内なる世界にて抱えきれなくなったそれが溢れ出し、多種多様な不幸、不運となってまずは手始めにハナ自身に襲いかかってくる、というもので。


母や祖母たちのような伝統、前例がなかったのならば。

それこそ基本ついていなくて、不幸や不運を呼び込むはた迷惑な物語の主人公になっていたことだろう。



しかし、『サントスール』が幽玄と呼ばれるのは、そんな『厄呪』ごとハナを覆い包み守る霞のごとき結界が張ってあったからで。

その副産物で、母のような基本からだ持たぬ存在ですら、世界の溶けることなく現世に留まれていて。

ハナが『サントスール』内で暮らすぶんには、いきなり水呼びをするようなこともなかったし、不意に時の狭間から邪なる存在に襲いかかられることもなかったし、『厄呪』のせいで何だか見ているだけでムカムカしてきてしまって、いらぬちょっかいをかけてくるような、ある意味で子供な存在も周りにはいなかったから。

ずっと『サントスール』に閉じこもっていたのならば。

きっと間違いなく、物語は始まる事はなかったのだろう。




だが、城を国を抜け出すことだ大好きな母と。

ずっと城の中に閉じ込めているのを良しとしなかった父のこともあって。

そんなハナがひとりで勝手に抜け出さなくとも広いユーライジアの、外の世界へ冒険しに行くことになるのに、そう時間はかからなかった。



その際、外で過ごしていてもハナが『厄呪』に苛められ悪戯されないようにと、父はとびっきりに可愛くて最高に面白いメイドさんを紹介してくれた。

何やら、内なる世界に棲まうドラゴンさんが、闇の属性魔力っぽいけどちょっと違う、『厄呪』から漏れ出るものをごはんとしているから。

ふたりでいつも一緒にいるだけで、『厄呪』も大人しくなって、何事もなく過ごせるようになるらしい。



だけど、そんなハナのたった一人のメイドさんになってくれた、【エクゼリオ】の姫さまでもあるミィカは、心配性で過保護な父にとってみれば、随分と予想外で手に余ってしまうかわいい存在だったようで。



『姫さま、この際ですからお父さまのような万魔のハレム王をめざしましょう! 友達100人ならぬ100人をも超える『は~れむめんばー』を形成するのです!』



その方が、これからスクールへ通う際の大きな目標にもなりますし、何より面白満載ではないですかぁっ……!


そう強く訴えてきて。

その一番目に立候補してもらえたのは嬉しかったし、そんなミィカとそうやって一緒に面白いことをしていけば、『厄呪』のことなんてどこかへいってしまうくらい、楽しい日々が始まっていくであろうことは、決まりきったことにも思えたけれど。




「ハーレムって。そんなんじゃないんだけどなぁ」


そんな、ミィカとのこれからとは別に。

何気なくも、渋面を浮かべて戸惑っていた父を目の当たりにして。

そんな父のひとり娘であるからなのか、物心つくころからなんとはなしに気づいてはいた、父を取り巻く面白……じゃなかった、謎めいた不思議なことにハナは改めて突きつけられることとなる。





「パパ、ちょっと聞きたいことがあるのだ、聞いてもいい?」

「どうしたのハナちゃん。そんな風に改まって。これから通う学校でのお友達の話かな」


ハナとしては別に母がいっしょにいても問題はなかったのだが。

偶然にも父がひとりでいたので、せっかくだからと思い切ってその気づいた不思議について聞いてみることにする。



「ううん。ボク気づいちゃったのだ。パパにもミィカみたいにドラゴンさん、すっごいひとがすんでたりするのだ?」

「……おおぅ。さすがハナちゃん。それに気づいたのはママも含めて三人目だね」



月明かりに照らされて、荘厳、静謐ともとれる空気がその場を支配している。


寝る前であるからなのか、いつも結っているカラスの濡れ羽色な漆黒の髪は腰のあたりまで伸びていて。

母が太陽であるのならば。

それこそ月のような、完全無欠な美少女が、大分驚きおどけたさまは。

見慣れていて、娘なハナでさえ、ほうけてじっと見上げてしまうほどで。



「ハナちゃんにじぃっと見つめられるの、恥ずかしいね、ふふ。……うん、別にすごいとかじゃないけれど、もうずっとずっと長い間、ここに閉じ込められているんだよ。ハナちゃんみたいなかわいいお姫様にみつめられたら、あわあわして気絶しちゃうかもしれない、普通の女の子がね」


見とれていたハナのことをどう思ったのか、自由奔放なゴーストママと比べても劣らぬ美少女らしい父は、それでもしなやかに鍛え上げられた身体……胸のあたりを軽めに触れていた。

言葉通り、ミィカを見ていて、改めて父を見て気づいたもうひとつの魂の存在を主張するみたいに。



「閉じ込められているのだ? ミィカのドラゴンさんは、暴れんぼうだから引きこもってるって言ってたけど、大人しい娘なのだ? ……あ、そだ。ボクが『げっと』するために契約すれば、外に出られない?」

「あぁ、それは良い案かもね。……だけど彼女にはからだがないんだ。彼女の存在に気づいた一人目のひとが、からだを探してくれていてね。それこそこの世界だけじゃなくて、異世界中を旅して探してくれているんだ」

「そっかぁ。ゴーストなママだってなんかからだ、あるもんね。あ、そだ。せっかくこれからがっこいくし、ミィカといっしょにその一人めのひとのこと、手伝えないかなぁ?」

「……もぅっ、ハナちゃんすっごくかわいい! 父さん涙出ちゃうっ」

「わぶぶっ」


見た目と魂の色とのギャップ甚だしい、男らしく暖かい抱擁。

そんな齟齬にわけがわからなくなって、混乱する一方で。

どんなに我が儘でいても、大いなる愛で包まれているから、安心感で溢れそうで。



「うん。ハナちゃんがそんな嬉しいこと言ってくれるなら、お願いしちゃおうかな。『サントスール』家だけの特権ってわけでもないのだけど、昔から何か困ったことがあったら、【カムラル】の魔法使いの女の子が、助けてくれるんだ。まずはハナちゃんには、その子に会って仲良くなって欲しい」

「【カムラル】属性に愛されてる、美少女魔法使い……わかったのだ! 一番目の契約はミィカだけど、まだまだ『すためん』な二番目の『は~れむめんばー』に加わってもらおうと思うのだっ」

「もう、どこでそんな言葉覚えてくるの……ミィカちゃんかぁ」



もしかしたら探していたヒントは、近くに在るのかもしれない。

そんな事を思いつつも。


そうしてハナの、万魔の王のひとり娘が、父にも負けない可愛い子たちだらけの軍団を作り上げてしまうかもしれない、大冒険の幕が上がっていくのであった……。



   (第184話につづく)








次回は、9月25日更新予定です。

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