第180話、EndingNo.8、『照らしていく、長いこの道の途中、迷わないように』①
SIDE:マーズ
―――『選択をしなくちゃいけない。きみの存在が大きすぎるが故にたくさん在る『大切なひと』を選ぶといった、どうしようもなくたいへんな選択をね』。
いきなり呼び出されての、久方ぶりな父との邂逅とともに浴びせられたのは。
らしいといえばらしい、マーズ自身多くいる、敵わないと思える人物からのお節介。
「……そもそも師匠の皆さんで示し合って、万魔の王の娘ちゃんの様子を見てきて欲しいって故郷に帰ってきたんだよなぁ」
正確には、故郷を離れている師匠たちの子供、娘さんたちの様子をスクールに転入がてら見てくるはずであったのに。
アイの怪人……マーズ父がいきなりそんなことを言いだしたのは。
マーズ自身の力を求めているというよりも、ひとつの道を決めることなくふらふら迷いながら停滞を選択せんとするマーズにしびれを切らせたからなのだろう。
確かに、父の母に対しての一途さときたら、いろんな意味で目を覆いたくなるほどで。
その辺りのところを突っ込めば、それこそ世界線が違えばお前は生まれてはいなかったんだよ、なんて言われそうだったが。
とにもかくにも、どうにかして誤魔化して今現在のなぁなぁでゆるい状態をキープする術はないものか……ではなく。
そうは言いつつもそれほど急かす感じでもなかったので、改めて真剣に考えてみようと。
手始めにマーズは、身体へと戻ろうとして。
そんな風に考え考えであったのがいけなかったのか。
マーズが戻ったのは、自身とマニカが共有するムキムキ赤オニなカラダではなく。
父に呼ばれる前までいた、心の型の杖……フレンツ家預かりになっていた【火】の乙女に代々受け継がれし、愛用の得物にして根源すら終の棲み家として叶う『ばしょ』へとかえっていて。
「ふははははぁーっ、呼ばれて飛び出て、華麗なる緑の怪人が助太刀にきたやったぞぉ!」
「うにゃぁぁぁ……って、にゃんだ。いりぃあか。りあもくーもいいんちょもいるにょか。おっかしぃなぁ。ま~ずレベルのもふもふの危機を感じたんにゃけど」
「ハナさんにウィーカさん、どうやら無事のよう……って、ええと。カムラル家の方、ですか?」
「……あぁ、一応親族という括りにはなるのかな。現在のところはハナ姫さまの新しきしもべのひとり、といったところだろうか」
そこは、『ショウヘイバ』島の隠されし最下層にあるラボ。
恐らく心の型の杖は、未だハナが持ち続けているのだろう。
ハナの視点で、中々に密度の高い様子で、敵味方ももう関係ないやりとりが聞こえ見えてくる。
(おぉーい。みんなぁ~! っていうかもふもふ狂いのマーズさんも帰ってきてますよ!)
これ以上この杖の中にいて、デバガメのぞき見のようなことをし続けていたら。
もしかしなくともラッキー……じゃなかった、もしもバレたら大変なことになりそうなので必死こいて存在をアピールする。
(ハナさん、ハナさんやーい! その可愛らしい杖に不相応な赤オニが巣食ってますよ! 今すぐ追い出し、召喚してもらえると助かるんですけど!!)
少なくとも、召喚契約していて、かつ心の型の杖を手に持っているハナにならばその声届くはず。
そう思って、少しばかり焦りつつ声をあげ続けたのに。
「……あれ? ミィカは。ドラゴンなミィカはどうしたのだ?」
「ええ、気絶してしまったマニカさんとともにミィカさんも元の姿に戻っていたわ。ミィカさんの両親に任せて、ひとまずハナさんのもとに行かなきゃって思ったの」
「ふむ。イリィアさんとともに召喚に応じてやってきましたが、少し遅すぎたみたいですね。実に骨のある方とお見受けしますが」
「骨だけに、か。ふふ、怖い怖い。ガイゼルの子は相変わらずだねぇ。残念ながら既に魂レベルで囚われの身だからね。君を満足させることはできそうにないかな」
ほんの一瞬、ハナが反応してくれたように見えたけれど。
ミィカのことを気にしているようだったし、気のせいだったのだろうか。
引き続き存在をアピールせんとするも、密かでもなんでもなくヒリヒリした戦いの場を求めていたクルーシュトと、そんな事を言いつつも受けて立つ気満々にも見えるカーシャに加えて。
イリィアとウィーカの実は仲良しコンビの高笑い&うにゃにゃ鳴き声にかき消されてしまって。
「ええと、何だかんだでみんなここに集まってきちゃったけど、ここでの用事は解決したってことでいいの?」
「あ、うん。でっかいスケルトンの、めっちゃボスっぽいカーシャさん『げっと』できたのだ」
「うにゃぁ、いいにょかにゃぁ。うちに引き入れにゃって。ロクにゃことにならにゃいと思うけど」
「ふふふ。そんなに褒めないでくれよ、照れるじゃあないか」
「褒めてにゃいにゃ! ってかもふもふしようとしてくるのやめるにゃぁ! きゃら変わりすぎにゃ!」
「これが生まれ変わるというものか、存外悪くないものだねぇ」
「おぉ、ウィーさんの良さが分かるとは、ナイスセンスじゃないか新人さん」
「いやいや、何気に流されてるけど、『ショウヘイバ』に封ぜられてたってことはそれって古のがしゃどくろなんじゃぁ」
「ほう、知っているのか、さすがは【金】の、といったところか……もふもふ」
「うにゃぁぁぁっ!」
(……はっ、そうか。【風】の移動魔法を使えば……って、いだぁっ!? めっちゃかてぇ! なんだこの器! ムロガんちの店売りの模造品じゃなかったのか、まさか本物……だとぉ!?)
確かハナは、ほとんど無意識のままに大物を『げっと』カーシャと契約するためにと、
カーシャの正体に気づいているらしいムロガにその心の型の杖を与えられたはずで。
何せ急なはずであったから、間に合わせのものかと思いきや、そうではなかったらしい。
そこで思い起こされたのは。
ある意味希少であるマニカをのぞけば、『オレは男だ』と歌うのが常であった【火】の乙女たちが。
自身の扱う杖はなるべく可愛いものではなくカッコイイものがいいからと。
実は最も上等なカムラルの杖と呼ばれる可愛いの極まる専用武器を、避け気味であったということで……。
(第181話につづく)
次回は、9月7日更新予定です。