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第179話、EndingNo.7、『おとぎ話の続きを、長い夜の真ん中で』⑤




 SIDE:ミィカ


 

ミィカ・エクゼリオが、この世の面白いことを追い求め渇望するようになったのはいつからだろう。

自らの……マーズたちが言うところの、内なる世界に金色のドラゴンが居座っていることに気づいてからだろうか。


とはいえ、【エクゼリオ】の一族に代々棲まう名も無きその怪物は。

マーズたち【レスト族】とも、リアータたち『虹泉の迷い子』とも異なっていて。





「厳密に言えば、ドラゴンの私も、メイドな私も同じミィカ・エクゼリオなのです。ミィカ・エクゼリオという個人の、魂のストック……残機がひとつあるといえば分かりやすいですかね」

「うーんと。つまるところ、ミィカさんが戦いに敗れ倒れてしまっても、一度だけ復活できるってことでいいんですか?」

「そうとってもらってもそう外れてはいないと思います。……まぁ、この世界では一度くらいじゃぁあまり意味がないかもしれませんが」

「そんなこと言って、今の今まで一度だってピンチらしいピンチなかったじゃないですか」

「そこなんですよねぇ。いい加減ちょっと、退屈の方にやられてしまいそうです」




『夏夢』と呼ばれる転ばぬ先の杖ならぬ、『虹泉トラベル・ゲート』に依らない異世界移動方法。

ミィカにとってみれば、赤オニに見つかってしまうまでの時間稼ぎに最適であろうデメリット……『反転』の効果は。

空気をよんで今はここにはいないミィカの両親も含めて、ミィカとマニカに予想とは異なる結果をもたらしていた。




今二人がいるのは、満天の銀河望む、大気冴え凍えるほどに高い場所にある古城の、遮るもの何もない屋上。

そこでミィカは、白金の体躯が美しくも恐ろしげな威圧感を放ち続ける、伝説や幻などと揶揄されるボスモンスターとして座していて。

一方のマニカは、何故だかどこかで見た小悪魔めいた【ルフローズ・レッキーノ】の魔精霊……いや、モンスターになっていた。



小動物と怪獣くらいの差がある凸凹コンビな二人は。

そんな氷雪の古城に頻繁に訪れる、何故か必ず従属魔精霊……従魔を従えた冒険者が、問答無用で襲いかかってくることもあって。

と言うよりも、冒険者は後ろで指示しているばかりで。

あのハナ姫さまでさえそれがうまくいっているかどうかはともかくとして、みんなと一緒になって前線にてわちゃわちゃやっているのに、何たる怠慢とばかりに、少々しゃくにさわってしまって。 


どうやら、反転したことでお互いの弱点を上手くカバーしている、名コンビになっているようで。

そんな冒険者……従霊道士を中心にちぎっては投げ、撃退していったわけだが。


いかんせんお互い問答無用……前段の会話もなくいきなりバトルが始まってしまうから。

相手の目的もよく分かってはいなかったのだけど。

ちぎってもちぎっても次々現れる冒険者と従魔のコンビは、実にバラエティに富んでいて。

初めはかってが分からず、ピンチに陥る時もあったりして。


ミィカの追い求めていた面白は確かにここにあったのかと思うこともあったが。

何せモンスター従えし冒険者を優先して撃破してしまうと、今まで忠実に従っていたようにも見えたモンスターたちが、蜘蛛の子を散らすように逃げてしまうのもあって、だんだんとなぁなぁに作業のようになってしまっていて。




そろそろ潮時か、なんて思いつつも。

当のマニカが、この場から離れようとしないこともあって。

それならば手慰みの暇つぶしに、とばかりに。

ミィカは、ハナにも寝物語のついでに聞いてもらった、自身のことを語ることにする。





「私の内なる世界に眠るドラゴン……といっても今はそんなドラゴンそのものなのですが。メイドな私に何かあった時の二番目な私としてあることを、幼少のみぎりから知ってはいました。なぜならば、ご多分に漏れずママ自身も、同じようなドラゴンを棲まわせていたからです」

「ふむふむ。もしかして、ミィカさんが心熱くすることを求めるのは、そんなドラゴンさんの気性なのですかね」

「まぁ、そう言う見方もできそうではありますが。私がそんな生き甲斐とも言える面白探求に目覚めたのは、ママが金色の闇竜として世界を滅ぼさんと暴れていたのを目の当たりにしたからなのは確かですね」

「えぇっ!? そ、そんなことが。……でも確かにちょっと、聞きたいです」



今は平和そのもので。

今頃はこの世界のどこかでどこぞのラブラブ両親のようにハネムーン行脚しているからこそ聞きたい話題。


マニカがパタパタ飛び回りながら勢い込んでそう言うのを、初めから分かっていたみたいに。

そうでしょうと、盛り上がるのはここからです、とばかりにミィカは言葉を続けた。




「これまでも何度かママが闇竜と化すことはあったようなのですが。大体は心を大きく揺さぶられる何かがあって、感情を抑えきれず暴走してしまったみたいですね。その半分くらいはパパが原因だからなのか、『リヴァ』の魔精霊であるのをいいことに、『死に戻り』……何度かぷちっとされちゃったようなのです」


そんな話を本人たち聞かされたのならばずんと重い雰囲気になろうというものだが。

文字通り寝て起きたらしれっと復活している父を見てそれこそ身体を張った面白の体現、などと思ったもので。



「私が目の当たりにしたのも、やっぱりパパが原因でした。愛があるゆえのママの勘違いではあったのですが、どうやらママの親友とパパが怪しい関係になったと勘ぐったようで」

「親友? それってもしかして……」

「ええ、マニカさんのお母様ですね。まぁ今はその辺りのことはいいのです。普段ならば、無駄に無残にパパが犠牲になって、ママの気分が晴れて……勘違いだと気づいて終わるのですが。その時パパは何を思ったのか、小さな助っ人を連れてきたのです」



それこそが、正にミィカにとっての『面白』の源流。

マイカの勘違いを示すにはこれ以上ないうってつけな人物だと言われるがまま連れてこられたのも面白いし。

父と違って復活できるわけでもないのに、どうあがいても勝てなさそうな魔王に突っ込んでいって、何だかんだで耐え忍ぶどころか、母が正気に戻るまで、ただただ呆然と迫る世界の終わりを見守るばかりであったミィカすらも守ろうとしたことも面白くて。





「……どうやら時間切れのようですね。今はちんまいのは姫さまばかりですが。やってきましたよ」

「え? あっ……」


遠目から聴こえてくるのは、そんな面白満載で泣いている暇などない赤オニの咆哮と。

そんな逃げられそうもないモンスターを従えた、やっぱり面白満載な、愛しの姫さまの勇ましいかけ声。




「ふむ、ついには私も『げっと』されてしまうみたいですね」

「あーあ。見つかっちゃったかぁ」


もしかしなくとも、今の今まで相棒従えてやってきた冒険者たちの目的が、戦うことではないと気付かされたのもその瞬間で。

実はとっくの昔に『げっと』されてしまっているんですがね、なんて野暮なことは口にはせず。



そうぼやきつつも、逃げようとしないマニカとともに。


ただただ面白く、最愛を待つことにして……。



  (第180話につづく)









次回は、8月31日更新予定です。

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