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第176話、EndingNo.7、『おとぎ話の続きを、長い夜の真ん中で』②




SIDE:マーズ



「アピさんスライムさんは……って、あれっ? マニカさん……じゃない? マニカさんのおかーさん?」

「ぶひぃ」

「普段ならこのまま突っ込まずになりきるのもありなんだろうが、ハナひとりか? こう見えて申し訳なくも俺だよ俺、マーズだよ。俺もマニカのこと探してるんだけど、ミィカと一緒にいなかったか?」

「えっ? マーズ!? ……すんすん。おぉ、言われてみればそうなのだ。桜色スライムさんもいるのだ?

いっかい試してみたけど、アピさんと合体したときみたいな感じになってるんだな」

「ぶひぃん」



マーズと違って本物の筋肉ダルマで筋肉フェチなオクレイの、従属魔精霊というか、

彼曰くアタシの筋肉の使徒の一人であったらしいアピは、肉付き……同化の能力を持っているらしい。

揃って匂いを嗅ぐ仕草をしている様子は、既にすっかり親しい間柄であることをよくよくアピールしているようにも見える。



「あっ、そうなのだっ、ミィカってば、寝てるマニカさんの様子見てくるって行ったっきりかえってこなくて。様子を見に行ったらミィカどころかマニカさんもミィカママもパパもいなくなっちゃったのだ。だけどそのかわりみたいに桜色のスライムさんがいて、珍しいから思わず『げっと』しようとしたら逃げられちゃったのだぁ」

「ぶひぃ」


カムラル】属性の魔力が溜まっているであろうカムラル邸を棲み家にしていたからなのか。

生まれつきそんな色であったのか、確かに珍しい色をしているチェリに惹かれて当初の目的を忘れそうになってしまうところも、さすがのハナ姫さまクオリティ、なのだろう。

恐らくその辺りも織り込み済みで、チェリやアピはマーズの前までやってきたに違いなくて。



「チェリさんが俺を頼った時点で何とはなしにそんな気はしてたんだが、マニカやミィカだけでなく【リヴァ】師匠までいないとはなぁ。お客さんなハナほったらかしてまでってことは何かあったんだろうなぁ。この流れだと十中八九うちの妹ちゃんがお人好しなミィカを巻き込んだんだろうよ」

「マーズもそう思うのだ? みぃかのことだからそのほうが面白いからってボクに黙って異世界冒険に行っちゃうのはあると思うのだ。うむ、つまりこれはみぃかからのちょうせんじょーなのだ。マニカさんのかおりのする桜色スライムさんを追いかけていけば七色の泉に落っこちて、めくるめく冒険の旅が始まっちゃったりするのだ」

「ぶふひん」

「……ミィカがいたらさすがです姫さまぁって誉めそやしそうだよな。細かいところはともかくとして、姫さまフィルターがかかっちまえば、そんなわくどきな感じになるんだろうぜ」



ミィカだけがハナにも言わず姿を消してしまっただなんて。

それこそ、ハナが言うようなミィカのおもしろ作戦に付き合わされるハナ姫さま以外にはないはずで。

金色のドラゴンという『もうひとりの自分』になってしまって。

いたたまれず姿隠す……なんて言うマーズの拙い想像も、そんな楽しげなハナを見ていたらすぐに霧散していってしまった。



そうなってくると、やはりハナの素敵な妄想めいたことばのように。

やはりマニカの方に何かしらもなにも、いかつくてむさい兄から離れたい、今の今まで申し訳なくも同居してもらっていたからだから離れたいといった、そりゃぁそうだよなぁと思わざるにはいられない逼迫した願いがあって。

面白いことが大好物である以上に、良い子でお人よしなミィカが、『面白そうだからわたしも付き合いましょう』なんて口にするだろうことは、容易に想像できてしまって。




『……っ!』


と、そんな時であった。

話がまとまったというか、すり合わせが済みそうなそのタイミングを見計らって今までマーズの内なる世界というか、世界の至宝的ボディを担っているチェリさんが、何やら自身を主張し出したのは。



「おふっ。これは未知の感覚ッ……じゃなかった。ハナにアピさん、冒険の準備はいいかい? どうやら俺の中のチェリさんが、開幕の場所まで案内してくれるみたいだぞ」

「おぉ、そうなのか! 準備はばっちりだぞ! さっきスケルトンなお姉さん『げっと』できるかなって色々装備してたからな!」

「ぶひぃん!」


すっかりハナの腕の中に落ち着いてしまったアピは元気いっぱい可愛く鳴いていたが。

そう言って胸を逸らすハナの腰まわりには、収納ベルト付きの魔精球(魔物や魔精霊と契約した際の、『器』……所謂仮住まいとなる場所)がいくつかあって。

その手には、アイの怪人に引っ張られた事失念してはいたが、ついさっきまでマーズも仮住まいとしていたハート型の杖が握られていて。


「おぉ、そのような無敵な武器があるならどんな世界でも余裕綽綽だな。それじゃぁ早速向かおうか」

「よしきた、なのだぁ!」

「ぶひぃん!!」


目前にある心臓を象った杖や、黒く荒ぶる魂を棲まわせても、びくともしない『カムラ・スライム』のチェリ。

他にもラルシータスクールに眠る始まりの魔導人形や、ガイアット王国にあるという主のいないイシュテイルの輝石など、マニカに負担をかけずにお引越しできそうな新しい『ばしょ』候補はいくつもあって。


マーズが同居するからだから抜け出したことをいいことに、何も言わずそのからだごとマニカがいなくなってしまったのは。

いい加減新しい終の棲み家を見つけなさいといった遠まわしな主張に違いなくて。

それならそれで、穀潰しどころかプライベートスペースを脅かし続けていた赤オニは。

泣かない……泣きたい気持ちを抑えつつも、粛々とそれに従うべきなのだろうと思ってはいたが。



顔を突っ込むというか、むしろ付いていきますといったのもミィカの方なのだろうが。

置いてきぼりをくらってしまったハナのことも含めて、そのようなこちらの事情にミィカを巻き込んでしまったことはいかがなものか、とも思っていて。




マニカには悪いが、ミィカの隣にはハナがいるのが一番しっくりくるしよく似合っている。

遠目でもいいから、そんなミィカを過保護な両親とともにずっと見守っていたい。




マーズは、気づけばそんな決意を秘めていて。




カムラルの一族がこの世界から逃げ出そうとするのならば。

ヴァーレスト】の廃教会地下深くにある12色な泉が定番ではあるのだが。


それこそ、今の今までマーズがそこにいたから。

きっとそこは避けるだろうと。


チェリさんのどこぞの根性あるカエルのように胸元を突き上げる感覚に従って。

マーズも知っている、異世界へ向かうのならば密かに定番となっている、『虹泉トラベル・ゲート』へと向かうのであった……。


SIDEOUT


    (第177話に続く)









次回は、8月13日更新予定です。

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