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第175話、EndingNo.7、『おとぎ話の続きを、長い夜の真ん中で』①




SIDE:マーズ



『なーんだろぅなぁ。普段一緒にいねぇからかな、キンチョーしたぁ』


それはアイの怪人ことオヤジだけでなく、『おぷしょん』なちんまいモードでしか喋ったことのなかった母も同じ。

思わずぼやいたように、幼少のみぎりにて修行をつけてもらっていた頃を除けば。

様々な世界を救い上げつつハネムーンに勤しんでいたので、マーズはここ最近ほとんど二人と顔を合わせることがなかったから。

過保護な親たちの中でもトップクラスな彼らと会うと、そんな修行時代を思い出してしまって。


家族であるのに、マーズ自身とみに敵わない相手であると分かりすぎるくらいに分かっているからなのか。

『レスト族』の『分離』、『剥離』を促すには揺るぎないほどの第一候補であることを感覚的に理解しているからなのか。

ただ口約束の会話をしただけであるのに、ずっと求めていた不倶戴天な怨敵と対したような気分にもなっていて。




『ってかそういやオヤジってばマニカとまともに会話したことあるんかな』


全く話題に出なかったが、オヤジのことだから息子よりも娘の方がどうしたって気にかけたいところだろう。

それでも呼んでくれと催促すらなかったのは、オヤジ自身がきっと女子うけしないというか、娘に好かれるようなタイプではないとよくよく分かっていて。

変にがっついて嫌われたくない、といった気持ちがあったからで。



『しょうがねぇなぁ。兄であるこのオレがずっと会えずにいた家族同士を引き合わせて……って、マニカがいないっ!? ……あ、そうだ。アブナイおじさんに会いにいくからってミィカんちにおいてきたんだった』



何だかんだでろくに顔を合わせたことがないどころか、認識されていない(オヤジがマニカに)可能性に気がつかされたからなのか。

普段からこうして身体を離れているはずなのに、妙な空虚感を覚えたマーズは。

そう呟くや否や、オヤジからの約束事は期限もなさそうであったのでとりあえずのところは置いておいて、

マニカを置いてきてしまったミィカの家……ユーライジア・スクール内にある魔王城へと舞い戻ることにして。



マーズ自身、おどろおどろしいヒトダマ状態であることの自覚のないままスクールの敷地内までたどり着いて。

残してきた身体とマニカは、ミィカとミィカの両親が見てくれているであろうといった安心感はありつつも魔王城へと急いだわけだが。

敢えて開けてある城内と城外の境目となる結界のもとへとやってくると、そこから飛び出してきたのは桜色の透けた色合いが美しい、一匹のスライムであった。




「……っ!」

『あれ? チェリさん? チェリさんじゃないか、どうしてこんなところ……ってぇ! そんな勢いで飛んできたらぶつかっ』



所謂スライムらしい鳴き声を上げるようなこともない、広きに過ぎるカムラル邸を住みかにしていて。

嫌がらず断られることもないのをいいことに、マーズが身体から抜け出た時の仮の身体……器として棲まわせてもらうことも多い、マーズ自身足を向けては寝られない恩人というか、苦労と面倒事をその度に押し付けるようになってしまって心苦しい部分は確かにあったから。


決死のたいあたりをしたいというのならば甘んじて受け入れる……むしろ、チェリさんが傷つかないように配慮をしなければ、なんて思っていたのに。

魔力溢れる肉体がそこになかったのを失念していたせいで、注意し終える前にあえなくぶつかりあってしまって……。





「ぶひぃぃん!!」

「のわぁっ、今度はなんだっ、オクレイんとこの豚さん!? チェリさんといい急にどしたっ? オレにもモテ期が?」


はっとなってガバッと起き上がれている事実に気がつくよりも早く。

オクレイが飼っていた豚さんから、栄えあるハナの従魔となったアピが、可愛い鼻をひくひくさせて。

探していた何かを見つけ出したかのように、猛然とした勢いもってマーズの胸元へと飛び込んできて……。




「って、胸元? って身体があるっ!? だけどいつものムキムキじゃねぇっ」

「ぶひひ?」

『……っ!』

「あれ? チェリさん? チェリさんの声がいわゆる内なる世界から聞こえてきてない?」

『……っ、っ!』

「あ、そうか。道理で。そもそもチェリさんって、うちの従魔みたいなものだったんだな。オレはもちろんマニカも随分お世話になったみたいで」

「ぶひひん」


いつもの、実はオクレイの肉弾戦車ぽさをイメージしていなくもないマーズと違って。

カムラルの乙女達……特に母によく似た、正に娘なマニカ。

ナイトと名乗って夜を駆けたりする時分、寝こけているマーズをおいて、身体はどうしているのかと思いきや、実のところこっそりチェリさんが力を貸してくれていたようで。



「ええと、つまるところこの身体はチェリさんというか、マニカのものってことか。……うむ、正に理想。母ちゃん似であること置いておいても、さすがは我が妹よってところだな」

「ぶ、ぶひっ!?」



え、そんな凄絶可愛いなりして、ボクが探していたひととは違うのですか!?

アピの、このボクが匂いをたどって間違うだなんて、なんてリアクション。

そのプライドが傷つけられたらしいショックな出来事に、ぬるぬると抜け出そうとしていたのでいたたまれなくなって。

中身むきむきのオニイさんですみませんと抱いていた力を緩めると。

アピは、覚えていろよぶひぃ、とばかりにまろび転がっていって。




「おーい、アピさーん! マニカさんのは~れむめんばーの、スライムさん見つかったなのだ~?」


そんなアピをそのまま受け入れる勢いで本日の主役……ではなく。

間延びしているようで結構焦っている様子の、ハナが現れて……。



  (第176話につづく)








次回は、8月8日更新予定です。

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