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第172話、EndingNo.6、『思い切り息を吸い込んで、この想いを空に放ちたい』③



SIDE:マーズ


「にゃっ、にゃんにゃっ!?」

「今の音は……聞いたことあるな、ギルさんが遊びに来る時の音じゃないか?」

「ギルさん? あぁ、マーズちゃんって【虹泉トラベル・ゲート】の守護者と契約していたのかしら」

「ちゃんはやめてくださいマム! 契約は……していないはずです。何故だか随分気にかけてはもらってはいますが」

「やっぱり来た……って、どうしてふたりともそんなにのんきなんですかぁっ!?」

 


世界と時の狭間の境に亀裂が入って、何者かがやって来る合図とも言える音。

それは、出会ったのならば終わりとも揶揄される『クリッター』の登場曲ともまた違うものであったから。

確かにそれなりの気配の者が複数こちらへ近づいて来るのは分かっていたが。

突然のことに狼狽えてあわあわにゃんにゃんしていたのは、ウィーカやリアータ(もう一人の、あるいは別世界の)ばかりで。

 

セリアはまるで、その突然の闖入者がやって来るのが分かっていたかのようにいつも通りで。

マーズとしても、時折こんな風に異世界からの侵入者……悪い虫がたかりにやってくるのは日常茶飯事であったから。

マーズ母の一番の親友といってはばからないセリアと、そんなやりとりをしつつ。

ユーライジアの世界どころか、ラルシータ・スクールの居住区に易々と入り込めてしまっている意味を、きっと侵入者は気づいてはいないんだろうなぁと。

マーズは内心でご愁傷様などと思いつつ、ノータイムで無造作にウィーカを捕まえて。


あるいはセリア……母と同じように侵入者のことをある程度知っているのだろう……

リアータ(彼女の、彼女だけの名前はタイミング悪く聞きそびれていたので仮)にほうって任せて。

 


いつも通りと言いつつも。

それこそガラリと入れ変わるみたいに(実際変わってはいない)。

もふもふ好きなお母さんから、凄腕のアサッシンやレンジャーめいた、マーズにとってみれば懐かしい師匠へと成ったセリアとともにさりげなく前に出つつ。

さぁどうぞ、とばかりに迎え待っていて。




「……ッ!」


息を呑むように声を上げたのは、やはりこの中で一番経験の少ないリアータか。

音もない……つもりで体勢を低くしつつ姿を現したのは、人型の三人。

個を判別しにくくするためなのか、周りの景色に溶け込むための衣装であったのか。

濃緑の強い斑色の一張羅を身にまとったマーズにとってみれば今回の悪い虫は。

異世界からの侵入者が時々装備している、ユーライジアで言うのならば、【ヴルック】属性の武器、『銃火器』を持っていて。



正に見敵必殺。

本来なら遠距離にて行うものなのだろうが。

まんまと誘導されてしまって、目と鼻の先に現れてしまったからこそ、攻撃の速さを活かして繰り出されるは、小さめの甲虫めいた雨あられな弾丸。




「ギャーハッハッハ!!」

「にゃっ、にゃんなぁっ!?」


何度も目にして、何度も喰らったことがあるから。

俺も同じようなことができるんだけどな、なんてマーズがぼやくよりも早く。

断続的に続く銃声に重なるようにして聴こえてくるのは、二ひき? の猫の声。

有り余る肉体で何だ、何かしたのか? をしたかったのに、それはそれで見た目があまりよろしくないでしょうと。

やっぱり過保護なセリアが、詠唱もせずに、その予兆すらなく呼び出し……召喚したのは。

『オノマ』と呼ばれる、式神四天王と言う名の、彼女の従属魔精霊のひとりで。



見た目はカーキ色の法衣をまとった、あぐらをかいた猫。

こう見えて、【カムラル】の根源に次ぐ階位を持っているらしい。


地獄の炎すら操ると言われる彼は、何故だか挑発的な、笑い袋みたいな快哉を上げつつ。

マーズがそんな解説をしている間に、法衣ともふもふが一体化しているカーキ色があっという間に膨張し、がばぁっと広がって、迫り来る弾丸雨あられ、その全てを文字通り食らってしまって。




「ぎゃーっはっはっは……!!」

「うわァぁっ、あごっ……ば、化けものぉっっ!」



そのままいつもの? ように。

いい感じに元いた世界へとお帰りなさいコンボを繰り出すところで。

そこでも気をきかせたセリア……オノマが、もふもふではあるけれどだるだるな皮を引き伸ばしさらに大きくなって。

笑いながら炎の車輪まとって(どうやら元はそんな感じの種族、魔物魔精霊らしい)目前にあるものすべて蹂躙する勢いでダッシュ。

此度の重火器をもった異世界からの侵入者たちの、そんな悲鳴も。

煽りっぱなしなオノマの鳴き声にかき消されていって……。


 


そして。

朧か幻か。

言葉なくとも通じ合っているのか、出番は終わり、とばかりに幽鬼めいて消えていくオノマ。

当然のように、そこには何も残されてはおらず。

 

 

「ちょっとマム、俺のぶんも残しておいてくださいよ。マジでまだ何もしてないんすけどっ」

「ま~ずが情緒もにゃにもなくおはなし始まる前にかたしちゃうの、まむの真似、せいだったにょね」

「マムはやめて、恥ずかしい。ちょっと」

「……って。なになに、なんなのぉ!? 『ハルモニア』のっ、たぶん上級者だったはずなのに、あんなあっさり!?」

「ふふふ。私がお家に招待したことに気づかないでやってきちゃった時点で三流ね」

「えぇっ!? そうだったのお母さん? というか、知ってたの?」

「ええ。あの人の子供の頃も、そうだったから。いろんな世界の魔力が混じってあふれて隠せずにいると、他の世界からも良いものも良くないものも引き寄せてしまうのよ。……まぁ、その中に私も含まれているのだけれど」



そうして何やかやあって、あなたがここにいるってわけ。

あまり表情を変えないまま、恥ずかしがってみたり、急にのろけ? 出してみたり。

『あの人』本人が今ここにいないからこその『マム』に。

そんな事言っていると、満面の笑みで聖おっさんがおやおやぁとやってきてしまいますよとツッコム前にと。

色々と聞きたいことはあったけれど、まずは聞かなくちゃいけないことがあるだろうと。




「そうか、なるほど。だから俺も、引き寄せられるようにここへ来たってわけだな。

……そんなわけだし? いい加減きみの名前を、教えて欲しいんだけどな」



自然と誤魔化し笑い浮かべてつつ。

少しばかりクサかったかなぁ、なんて思いながら。

そんな始まりのひとことを、マーズは口にするのであった……。


 

   (第173話につづく)








次回は、7月21日更新予定です。

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