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第17話、多分本来、本当の意味での背中を合わせられる相棒ポジション



呪いの法を、打ち破り呪い返しをするどころか、全く別のものに変えてしまった(しかも自分好みに)マーズは。

一緒に登校してくればいいなんて言い残しておきながら。

さも何事もなかったかのようにガイアット国……イリィアの元に帰ってきたかと思ったら、ウィーカを連れて本日最後の配達場所へと向かっていた。

 

あまりにもあっさりしすぎていて、一緒に学校までついていけばよかったとイリィアが失念していたくらいである。

と言うより、マーズとしてはわざとあっさりさせた部分もあったのだろう。

たいしたことじゃないと、大事にしたくなかったのも勿論あるだろうが、イリィアに恩を着せたくなかったというのが実の所である。


もっとも、そんな事を言ってしまえばとうの昔に手遅れなわけだが。

その事はあまり考えないようにしているマーズであった。





「みゃーん」


長いようで長くない朝の一幕。

結局の所、朝帰りで朝の仕事まで付き合う事となったウィーカは、そんな事は日常だ、とばかりに帰ってきたぞの挨拶をする。


そこは、ユーライジア・スクールを囲むようにある街、その外れ……マーズの暮らすヴァーレスト家から中心街を挟んで反対側にある東方(和風)建築の、縦に低く横に広いお屋敷だ。


ユーライジアスク―ル下の街において、外界……特に西方サントスールからの魔物などに対する最前線と言える位置にあり、格式の高い武家であり国の守り手であり、代々スクールにおいても『風紀』の役割を担ってきた一族が暮らす場所である。



一昔前までは、『勇者』と呼ばれるユニークジョブの家系であったが、マーズから見れば完全に彼らはサムライであった。

もっとも、代々可愛らしい愛玩動物……殆どの場合は、『猫』の姿を取る【魔精霊】を相棒にしている場合が多く、かっこいい以上に微笑ましい、といった感情の方が大きいわけだが。

それを口にすると怒られるので心内だけで留めているつもりでいると。

木張りの廊下なのに、それこそ猫のようにほとんど鳴らない足音立てて、ひとりの少女が現れた。



艶めく黒一色の髪を後ろ手にまとめた、マーズからしたら軒並み小さい知り合いの女の子達の中では、リアータを超え一番背が高く、しゅっとしてキリっとした黒緑の瞳が凛々しい、真面目な印象の強い娘だ。


彼女の名は、クルーシュト・ガイゼル。

ガイゼル家御用達の愛玩動物……ウィーカの本来のマスターにして、種族違えど姉妹同然の間柄である。


それまで、マーズの肩口でのんべんだらりーんとしていたウィーカも白ピンクな耳をぴんと立てて。

とたっとマーズから降り立ち、主である少女を迎え入れた。



「く~っ! がっこ行く準備はよいかにゃ」


ちなみに、そんな愛玩キャラからの愛称は『く~』である。

呼び方と態度だけで見ると、どっちがマスターだよといった感じだが。

ウィーカはあまり他に人がいる場所ではしゃべらないし、クルーシュト本人もそれほど嫌がっていないから問題ないのだろう。



「準備ができたか、だと? 連絡もせずに今頃帰ってきたウィーだけには言われたくないな」


硬い口調ながら、同じく愛称呼びするクルーシュトには、怒りながらもウィーカを心配する気持ちが多分に含まれている。

むしろ心配の方が強く、生真面目できっちりしている少女だがウィーカにはベタ甘なので。

ウィーカにしてみれば怒られているという感覚はないのかもしれない。

正にわがまま気まま、といった感じだ。


マーズはもちろん、クラスでの面倒担当であるリアータも文字通り猫可愛がりしているので、

ウィーカにはそう言った甘やかされる才能ギフトでもあるのかもしれない。



「んー、連絡? マーズれんれくしてくれなかったにょか?」

「勝手に忍び込んでおいて連絡なんかできるかっつの……まぁ朝こっちに来る前にしたけど」

「し、忍び込んで!? またかウィー! そんなっ、人様に迷惑かけるなっていつもいってるだろうっ……済まないな、マーズ。毎度のことだか迷惑をかける」



挨拶がてらクルーシュト達の分……最後の牛乳を手渡すと、その黒緑の瞳をしろくろさせて恐縮した様子で頭を下げてくる。

『風紀』仕事をやっている傍ら、怖モテ(字誤りにあらず)の名前負けなマーズとは、仲が悪いと言うかぶつかり合いになりそうな雰囲気がお互いの第一印象があったのは確かだが。


こう見えても同じく真面目で素直なのが特徴のマーズであるからして、特に反発しあう事もなく。

むしろ同じ委員で過ごすうちに結構ウマがあってしまったのだ。

その一助には、やはりマーズがこのユーライジア・スクールに転入してくるにあたって、両親から彼女の事も聞かされていたせいもあるのだろう。



その血筋故に戦いの……特に剣技(刀)の腕も確かで、マーズからしてみれば背中を預けられる相棒的存在と言ってもよかった。

大きすぎるきらいのあるマーズといっしょに並んで、傍から見て一番バランスがいいのは確かで。

周りからどう見られているかは、あまり考えないようにしているクルーシュトである。



「じょぶじょぶ。このムッツリヘタれくん、むしろ喜んでるから。く~も今度いっしょにくればいい」

「な、なな何言ってるんだ。そんな、はしたないっ」

「ん~? なにを想像したのかにゃあ。いっしょに遊びに来ればいいってゆっただけにゃのに」

「うぃっ、ウィー! はかったなぁ!」

「うにゃにゅうっ」


肌の白いクルーシュトが、茹だって顔を赤くするのがよく映える。

イエスともノーとも言えずにマーズが苦笑している中、からかい逃げようとしているウィーカを、しかし目にも止まらぬ速さであっさり捕まえるクルーシュト。


さすが身のこなしは猫以上かと感心するマーズであるが。

捕まえて折檻……ではなく、胸元でぎゅっとするだけ(それでも息ができなくてウィーカにしてみればきついかもしれないが)なのは、まさしくウィーカに甘い性格が出ていると言えよう。

うらやまけしからん、などと思いつつも。

マーズは話題を逸らし、そう言えばと口を開く。



「あ、そうだ。準備できてるならクルーシュトにちょっとばかし聞きたい事があったんだった」

「ああ、実は私もそう思っていた。登校がてらでいいなら聞こう」



マーズとしては、ミィカとハナが転入したクラスがクルーシュトのクラスであったから、関わった以上様子を知りたかったと言う軽い気持ちだったのだが。


そう言うクルーシュトの口調はどこか深刻めいたものがあって。

胸元に収まり、顔を出したウィーカと首をかしげる事になったわけだが……。



(第18話につづく)









次回は、6月17日更新予定です。

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