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第168話、EndingNo.5、『夢見てる、優しく滲んだその色に』④




SIDE:マニカ



『レスト族』が生命の危機に陥った時に発動すると言われる『剥離』、あるいは『分離』。

マーズとしては、ルッキー主導のもといにしえの【ヴルック】の魔人族と相対することで、その効果が現れるものだと見込んでいた。


実際問題、自身の身体から抜け出すことができていたのに。

それはいつものことだと。

もとよりマニカの身体を間借りしているのは自分の方なのだから。

必要に応じて抜け出すのは当たり前で。

実はとっくの間に危機管理能力は発動していたのに、気づかないのはそんなマーズの勘違い故か。


本当は、ひとつの身体に棲まう魂たちに優劣などないはずなのに。

これからやってくる自らにふりかかる運命から隠れ逃げていたマニカは。


あるいはそんな兄、マーズ以上に、いつかはこの庇護下から抜け出さなければと。

いつだって見守ってくれていた兄が居ぬ間に、新しい自分を探し求めて旅に出なくては、なんて思っていて。




それは偶然か必然か。

兄という名の籠の鳥で、世界の礎となるべく運命から逃げ隠れていたマニカが、まさかオニの居ぬ間をついて抜け出すなどとは思ってもみなかったのか。

その場にいる皆が皆、黄金色の美しいドラゴンと、山のように大きいしゃれこうべに気を取られていたから。

そう思い立った時には、マニカもあるいは兄と同じように、二人の終の棲家から飛び出すことに成功していて。




(からだ……はリアータさんが受け止めてくれたみたい。兄様が戻ってくるまで、お任せしちゃって大丈夫ですかね)


二つぶんの魂を受け入れ続けても、病気どころか怪我のひとつもしたことのない無敵なボディである。

表に出ている魂が入れ変わることで、巌のような赤オニになったり、ユーライジアの至宝と呼ばれし美少女になったりするその身体は。

傍から見てもやっぱり理想を体現している気がしなくもなかったが。


運命に立ち向かわねばならない恐怖よりも。

やはりそのような理想の人物と身体を共にするのではなく。

たとえきょうだいでなくなってしまっても、傍から見守っていたいといった気持ちの方が強かったから。


過保護な兄のこのような隙は中々訪れるものでもないだろうと。

マニカは、自らの現状を知り得ないままに、そのままミィカの実家……魔王城から出ようとして。



(兄様は、新しい身体を求めて色々飛び回っていましたけど。どこへ向かいましょうか。ラルシータか、ガイアットか……きゃぁっ!?)


バチィっ! と。

何か硬いものに弾かれぶつかる衝撃とともに、電撃のようなものがないはずの身体を通っていくような感覚。


まさか、こんなこともあろうかとマーズが対処をしていたのか。

さすが兄さまと、その過保護っぷり呆れるやら感心するやらで。

そのままあえなく意識を沈ませていって……。








「しかし、まだ帰ってこないのですかあのへん……赤オニさんは。マニカさんはともかくとして、あなたがいるといるだけで寒いのでさっさとどこへとなりに行ってもらいたいのですが」

「おいおい、つれないこと言うなよぉ。【カムラル】の美少女魔法使いの旅立ちには、愉快でイカしてる【ルフローズ・レッキーノ】な使い魔はつきものだろう?」

「それでは城の外で待機していればよろしいのでは? 乙女の寝室にいつまで居座るおつもりで?」

「うぐぐぅ。おみゃぁの方がよっぽど氷っぽいよな。オレさまにきっついとこはおかーちゃんに良く似てっけど」



一体どれくらいの時間が経ってしまったのか。

次にマニカが気がついた時には、すっかり日が暮れてしまったようで。

マーズが戻ってきていないことに関しては行幸ではあったが、どうやらマニカはミィカの家の一室に寝かされているらしい。

当のミィカと、ルッキーのそんな仲の良さそうなやりとりが目覚ましとなって、応えるように起き上がると。

すぐに二人が気がついて、そんなマニカに声がかかる。



「お、ようやっとお目覚めだな。チョーシはいかがかな? オレさまの冒険の準備はバッチコーいだぜ。

新しい自分探しのお供に、おしゃれでスマートな使い魔はいかがかな?」

「何勝手にそのようなこと決め付けるんですか。寒さしか振りまかないちっちゃいおじさんなんて、今日日流行りませんよ。姫さまをお供にするというのならば、もれなくこの私もついてきたりはしますが」


どうやら、マニカがオニの居ぬ間の隙を縫って、決意込めて文字通り自分探しの旅に出る腹積もりであることを。

ルッキーもミィカもいつも間にやら知っていて。

尚且つその冒険に付いてきてもらえる気、満々のようで。



「ありがとうございます、ルキおじさん。頼もしいです。ミィカさんにもそう言ってもらえて感謝がつきません。ですが……ミィカさんにはひとつ、私からお願いしたいことがあるのですが」



故にこそマニカは。

深く深く頭を下げてから。


奇術師めいた水先案内人がするみたいに。

秘密を紡ぐがごとくで、指を一本立てて見せて……。



   (第169話につづく)








次回は、6月29日更新予定です。

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