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第166話、EndingNo.5、『夢見てる、優しく滲んだその色に』②



SIDE:マーズ



「いやいやっ、ちょっと待ってくれ! じゃなかった、くださいってば。確かにオレ、最近までマニカのこと忘れてましたけど、今はしっかりうちにいると理解してます! そ、そうだ。ミィカに聞いてもらえれば分かってもらえると思いますよぉっ」



『レスト族』と呼ばれる、複数の魂を一つの身体に持ち合わせし希少種族の血が流れていると言うのにも関わらず。

ほんのつい最近までマーズはその、ある意味で家族きょうだい以上な存在である彼女のことを認識できてはいなかった。

それは、血が流れているとはいっても半分で、もう半分の血が濃すぎるからといったものと。

両親から、特に『レスト族』である父からマニカの存在を聞かされたことが無かったせいもあるだろう。

ついさっきあったばかりであったが、そう思うと確かに父はマニカについて口にすることは無かったような気がして。



まるで、世界がマニカ・カムラル、あるいはヴァーレストなる人物など初めからいなかったかのように動いているようにも見えてしまって。

マーズはそれを否定するように、二人に向かって訴える。




そもそもが、『レスト族』としての完全なる『分離』、『剥離』を求めて。

結果的に見ればルッキーの主導のもと、不倶戴天な剛の者であろうカーシャを召喚することとなったのは、そんなマニカがマーズと共にする身体から離れたいと、一個人として自立したいとお願いされたからで。


その事自体が仮にマーズの妄想、勘違いであったとしても。

独り立ちしようと頑張っているマニカが、人の少ない夜であったり、認識阻害の魔法が付与された仮面やマントを身に付けつつも外に出て、ミィカやハナたちに会いに行っていたのは確かなはずだから。


自身に自信が持てないのならば心の友(自分の凄さには無自覚なマニカが、ものすごくかわいい友人ができたとはしゃいでいた)にお伺いを立てればいいのではないかと。

ミィカの両親に訴えかけると、二人は夫婦らしく? 揃ってきょとん、としてみせて。



「あ、そうなの? うちじゃなくて寮棟のほうでだよね? 確かにみーちゃんってばはなちゃんちからかえってきてから、中のひとならぬドラゴンさんが起き出すまでお家にほとんどいなかったから、そんな事知らなかったよぉ」

「……ふむ。ならば娘に会って行くといい。俺の見立てでは、あまり芳しくはなさそうではあるがな」

「それでもお願いしますっ。まずはちょっと確認したいので」



ミィカがハナとともにスクールへ通うために戻ってきたのに自宅と呼ぶには大仰に過ぎる魔王城へよりつかなかったのは。

いかにもなマイカだけでなく、【リヴァ】師匠が遅くにできたたった一人の娘をハナに取られてしまった反動で、ウィーカも真っ青なくらい猫可愛がりしていたせいではあるのだが。


マーズは余計なことは口にはせず、そのまま自然な形でマイカを肩口に乗っける【リヴァ】師匠の、色々な意味での規格外さにツッコミの代わりに砂を吐きつつも二人の後に続いて。




「みーちゃぁん、はいるよー!」

「なっ、ちょっ、まっ。姫さま、ゴーですっ!」

「まかせろ、なのだーっ!」


さすがの魔王城(inユーライジアスクール)と呼ばれるだけあって。

おどろおどろしい闇色の魔力が渦巻いていて。

所々時空が歪んでおり、見た目より広かったり場所によっては同じところをぐるぐる回ってしまったりするそうなのだが。

そこは、【リヴァ】師匠の面目躍如、マイカを抱えつつ無造作に歩くだけで道が開かれて。

やってきたのは、ツッコミはしないが確かにここに泊まるのは中々にしんどい気もしなくもない、赤とピンク色のどぎつい内装の部屋で。


そのドアノブは何やらトラップでもしかけられていそうなドラゴンの頭がついていたが。

そんなマイカの叫び声が聞こえるや否やその小さなドラゴンヘッドは生きていたらしくほうほうの体で逃げだし、部屋の中でバタバタしている気配とともに、ミィカがハナをけしかける声がしっかりと聞こえてきて。


それなのにも関わらず問答無用で物理的に扉を吹き飛ばして(飛んでいった扉はいつの間にか【リヴァ】師匠の手に収まっていた)。

そのまま入っていくマイカと、敢えてやっているかのようにお約束な形でようじょ同士の大きめな頭と頭がごっつんこしてしまう。



「みぎゃぁっ!?」

「げぶばらぁっ!?」

「全く。いつ見ても心の臓に悪い挨拶よ」

「あ。挨拶、だと……?」


がいいぃいん! とおおよそ見た目と合致しない硬そうなもの同士がぶつかり合う音と二人の悲鳴。

そのまま怪我してはたまらぬと、やはり力の出し惜しみなく【リヴァ】魔法を使って、二人を肩口へと回収したところで。

おあつらえ向きに開かれる、ミィカへと進み行く道。



「姫さまの尊い犠牲は忘れません、じゃなかった。随分と人の家……と言うのも憚られますが、ゆっくりしていたみたいですね」

「あぁ、ちょっと金色ドラゴンさんがおっかなくて魂が抜け出てたもので。って合わせてボケてる場合じゃねぇんだって。ミィカ確か、こっちへ転入してきてすぐに『夜を駆けるもの』、ナイト改めうちの妹のマニカに会ったって言ってたよな。間違ってないよな? なっ?」



実際その時マーズは内なる世界へ引っ込んでいた……眠っていたから、それこそ嬉しげで楽しそうなマニカ本人から聞いた話ではあって。

時が経てば立つほど不安感が増してきつつ恐る恐るそう問いかけると。

軽い皮肉を放ちつつも、部屋着らしきもこもこを撫で付けつつ、しばしの間の沈黙。

果たして、その沈黙にはどういった意味合いが含まれていたのか、マーズには分かりようもなかったが。




「マニカ……さん? ええと、確かに『夜を駆けるもの』、ナイトを名乗る怪人には会ったことがあるけれど」



返ってきたのは。

覿面に不安を助長させる、そんな台詞で……。



    (第167話につづく)








次回は、6月17日更新予定です。

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