第163話、EndingNo.4、『たださりげなく、寄り添うだけでも』③
SIDE;イリィア
―――『テンダーグリーン』。
それは、家族を追い求めて、一度失って。
死の神の裁きを受けて蘇った子たちによって行われる地の国『ガイアット』において、最大のお祭りの総称である。
始まりのそれは、死に神にして【地】の王に選ばれるための乙女たちの戦いであったが。
今代の地の王はいつまでたっても代替わりすることなく、ユーライジアに限らず異世界へ渡ってまで家族を増やしていたので、そんな始まりのお約束もすっかり形骸化してしまって。
今となっては、世界を構成すると言われる12の根源にならって、12色とりどりな輝石持ちし代表を選び出し、三人一組となって様々な宝石の名を冠すチームをつくり、数々の競技をもって一番を決める見どころ満載な、国をあげての催しものと化していた。
(ちなみに、輝石埋め込まれし……地の王に選別されし存在、『イシュテイル』と呼ばれる種自体はそう多くないので、お祭りの出場権変わりとなる魔力込められし魔石を持っていれば出場できる手はずとなっていて、それこそ世界中から出場者が殺到している)
何せひとたび優勝することあれば、緑色派手派手な地の王が、出来うる限りの願いを叶えてくれるとのことで。
黄橙のモフモフ毛並み持ちし【雷】のけものと化したマーズと、アンバーの輝石持ちし侍女のトリエと。
顔も知らない母から受け継いだという、猫目石色の輝石を携えたイリィアは。
それぞれが秘めているようで秘めていない願いを叶えてもらえるために。
そのまんま『オレンジ』チームとしてもちろんのこと参加する腹積もりでいて。
『最初の舞台はお祭りでお馴染みな【テンダーの塔】だったか。
魔物や罠もめんどくせぇが、他のちーむも中々に厄介なようじゃねぇか。相手にとって不足はねぇがそうやすくもなさそうだぜ』
「出場するのが、イシュテイルだけじゃなくなったのが良くも悪くもですかねぇ。お祭り好きな姉妹はもれなく出てはいますけど、まさか各国の『ステューデンツ』な子たちが出場されるとは」
『流石にまだ候補だけどなぁ。親世代が出しゃばってこなかっただけマシだが』
『テンダーグリーン』、お祭りの先陣を切る第一の出し物は、魔物と罠の溢れるガイアット王国にほど近い、塔の攻略であった。
【地】の王が、心の友といってはばからない万魔の王を巻き添えにして、異世界ハントへ行く時に必ず向かう場所で。
最上階には、それ用の『虹泉』があると言われている場所。
当然お祭り中には稼働してはおらず、その12色の濡れない水を持って帰ってくるまでを競うもので。
トリエが口にしたように、普段はガイアット国を離れている姉たちはもちろんのこと、ウィーカやクルーシュト、リアータやハナまで参加したいと言い出してきたのは、意外と言えば意外であろう。
『いや、一チームだけ出しゃばっては来てやがるのか。チーム『黒曜石』。いりぃあが気になってるのはそこだろう?』
「やっぱり気づかれてるか。いや、だってなぁ。新しいお母さん? 姉上? 気にならん方がおかしいだろう」
「父さんってば未だつきっきりですものねぇ。同じチームに入るだなんて言い出さなかっただけまだよかったですけれど」
闇そのものに等しかった嘆きの魂をユーライジアへと連れてきて、輝石を与えて。
新たな家族となったのはいいものの、未だ不安定なことがあって、お祭りの出場権を得られるかどうかだったのに、どこからかチームメンバーを連れてきて、『地』王の許可までとって参加を表明。
彼女が何を願っているのかはわからないが、イリィアたちが優勝するための大きな障害となって立ちはだかるだろうことは、何とはなしに予感があって。
「コトバがうまく扱えねぇが、おれぁ正直このままでもいいから特段願いはねぇんだがな。いりぃあ第一なとりえの願いは想像つくが、いりぃあの願いってなんなんだ? やる気上げる意味でも聞いときたいんだが」
イリィアがお祭りのライバルとなる面々を、特に一番新しく家族となった彼女を気にしていることにしっかり気づいているマーズ。
見た目もすっかり変わってしまって、何故か名を呼ぶときだけ舌足らずになったりしていることに、やっぱり何だか不満があって、元に戻って欲しいだなんて勢いだけでは口にできなくて。
「そりゃぁ、もちろん! 姫さまの幸せ第一ですよぉ」
「……今は秘密だ。優勝できたらその時に改めて語るとしよう」
『へいへい。さっすが、やる気上げんのうめぇじゃんか。んじゃ、さくっと優勝目指しちゃいますかねぇ』
それでも、どうあがいても憧れていた物語の主人公なマーズのやる気を引き出すことができたのだから。
この場は良しとしようかと、うそぶくイリィアがそこにいて……。
(第164話につづく)
次回は、5月30日更新予定です。