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第161話、EndingNo.4、『たださりげなく、寄り添うだけでも』①





SIDE:マーズ




『別にそれが悪い、と言うわけでもないんだが、マーズ。お前の魂はきっと、このユーライジアですら大きに過ぎるのかもしれんな』




―――それは。


ガイアット】の王、ユーライジアの生と死を司る『死神』である師匠、その一人に言われた言葉。

ガイアットの宝であるイシュテイルの輝石を、新しい棲み家にせんと自身にあうようなものがあるのかどうか問いかけた時に返ってきた言葉だ。



マーズは、奇しくも父に同じような事を言われて、何故だかその時のことを思い出していた。


加えて、平和平穏であるこの故郷で力を、才能を遊ばせているくらいならば。

その力を必要としている異世界を救い上げるのを手伝って欲しい……などといった意味合いであると捉えたマーズは。

もう一度故郷を離れる選択を選びとるのもアリだと思いつつも。


それに対する回答の期限を明言されていないこともあって。

やはり、この故郷に未練があったらしく、誰にも相談できないまま、答えが出せないでいた。




それでも大分過保護に気を使われていたのか。

父と一対一での久方ぶりの異世界の狭間、夢めいた世界での対談から戻された場所は。

廃れてなどいないことが、公然の秘密と化している、【ヴァーレスト】の廃教会の一階で。



身廊の座席の一つに座っていたマーズは。

目前に見える大きいパイプオルガンと、【ヴァーレスト】の根源魔精霊とされる女神像をぼんやり眺めつつこの先どうすべきか考えていた。



(レスト族の『分離、『剥離』ができなくとも、魂だけで抜け出せることはできるんだよなぁ。……後は、流石に身体もなしに異世界渡りは億劫だろうし、魔精霊が言うところの器がどっかにあるといいんだけど)


そう、内心でひとりごちて。

思い浮かぶのは、やはりイシュテイルの輝石のことであった。



ガイアット王国に住む、【ガイアット】の魔精霊の一種、『イシュテイル』。

その身体のどこかに十人十色な色合いの輝石を貼り付けていて。

その輝石さえ無事であるのならば、不死身であるとさえ言われている『人型』以上の高位魔精霊。


一般的な『イシュテイル』という種族のイメージは、そんなところだろうか。

だが、マーズは知っている。

身体のどこかに、瘡蓋のように存在しているその輝石が、【ガイアット】の王にして唯一無二な『死神』の刃によって付けられた傷を覆うものであることを。

『死神』の裁きを受けて、一度身体と魂が離れたものが生まれ変わったのが、『イシュテイル』と言う種であるということを。



(今現在みたいに、魂だけで離れることはできてるんだし、そこからどうにかご都合主義で何かこう、いい感じの輝石に住まわせてはもらえないだろうか)



何故【ガイアット】の王は、家族とも言える『イシュテイル』に刃を向けなくてはならなかったのか。

一度その場面を垣間見ていたこともあって、『イシュテイル』という種の本質を勘違いしたまま。

マーズはダメ元でもう一度お願いしてみようと、ガイアット王国へと向かうことにした。

教会の壁だろうが、大陸と大陸を隔てた海や山だってお構いなしに。





世界そのものを創り、一体化しているとも言われている魔精霊の感覚を何とはなしに味わいつつ。

いつも使っていた移動方法すべてをすっとばして辿りついたのは。

それでも牛乳配達の仕事で最後に訪れるのがルーティンとなっていた、イリィアの部屋の前であった。




「むむっ、なんだかすごくよこしまなタマシイはっけーん」

「おっと、あぁ。トリエさんか。おはようございます。やっべ。せっかく来たのに牛乳持ってくんの忘れてた。……ってか、ご覧の通り持てはしないんですけど。トリエさんにはオレの姿見えるんですね」



さすが魂を扱う『死神』に仕える一族である。

魔名そのままの、【魂見】が使えるのだからそりゃぁ見えるんだろうと口にしてから一人で納得していると。

やはり、突如現れたトリエの言うところの邪悪めいた闇色斑なヒトダマがマーズであると気づいていたらしい。

特に驚いた様子もなく、おはようございます、マーズさん、なんて頷いて見せて。




「なんですか、今日は。身体を置いてきてまで。ついに年具の納め時、うちの家族になる決心がつきましたか?」

「そんなわけないじゃないですかってツッコミたいところですが。『イシュテイル』の一員になれるものならなりたいって意味なら、そうかもしれませんね」

「えぇぇっ!? しょ、正気ですかっ!? マーズさんってうちの姫様狙ってたんじゃなかったんですか!? い、イシュテイルになりたいって、なりたいって!! 頻繁にマーズさんがここに訪れていたのって、まさかケ……じゃなかった、ガイアット王が目当てだったんですかぁ!? ソッチの、同性しか愛せないタイプだったんですか! もしかしなくても嫁戦線に参加希望のライバルであるとでも!?」

「うぇっ!? って、はああぁっ!? いきなり何を言い出すんですかトリエさあん!」



それこそマーズにとってみれば正気を疑うようなトリエの発言に。

場所も忘れて思わず大声を上げてしまったから。




「なんだなんだ、騒がしい、トリエ姉さま。誰か来ているのかー?」



うちの姫さま、だなんて。

少しばかり寝ぼけていそうな声色のイリィアのことをそう呼んでいたから。

ハナに対してのミィカのように仲良し主従であったのかと思いきや、どうやらそれも違うらしい。



今は根源魔精霊の数もいないとされる『イシュテイル』と呼ばれる種族。

トリエやイリィアも含めて、その全てが女性で家族同士で姉妹めいた間柄で。



自身の発言こそが、正しくいきなり何を言い出すのかと言われても仕方のないものであると叩きつけられて。


大分『イシュテイル』について勘違いしているらしいことにマーズが気づいたのは。

まさにその瞬間で……。



       (第162話につづく)








次回は、5月20日更新予定です。

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