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第160話、EndingNo.3、『勝手に決めた、リズムに合わせて歩いていこう』④




SIDE:クルーシュト




そこは、ユーライジアとは似て非なる世界『キヨウグ』。

『この世の果て』などと呼ばれるダンジョンの上層。


ユーライジアにおいても数多くのダンジョンが存在してはいたが。

大きな相違点として、『キヨウグ』にとってのダンジョンが、世界そのものであり、ダンジョンを中心に世界が回っていた。

人族が住まう拠点、町や国よりも多いとされるダンジョンには、事細かな格付けがされていて。

その中でも『この世の果て』と呼ばれる最上級の難易度を誇るダンジョンには、『果てへの門番』などと言われるダンジョンボス、マスターが存在している。


あるいは、ユーライジアで例えるのならば。

数十はいないであろうそのボスは、ユーライジアを創り護る根源魔精霊のようなものなのかもしれない。

あくまでようなもの、であるのは。

『この世の果て』のダンジョンボスが、人族の怨敵でありながらも、存在していなければ世界が栄え潤ってはいなかった、ということだろう。



クルーシュトとマーズ、その導き手……ダンジョン的に言えば『ふところマスコット』となった光の魔精霊にして白猫なおしゃ。

そして、自分だけ置いてけぼりは嫌だと、それも過保護の一環であるのか、もちろんどこのダンジョンでも貴重な癒し手であるタクトとともに。

即席のパーティを組んで(名前はまだ無い)、『この世の果て』のひとつである、『群毒の花盤』へ潜ることとなったのは。

クルーシュトにとってみれば祖父にあたる人物……異世界を股にかけた八方美人な風来坊が、始まりに訪れた場所であり。

偶然か必然か、ダンジョンマスターの座につくことなった祖父の。

それなのにも関わらず、結果だけ見ればほっぽって違う世界へと行ってしまった祖父の償い、尻拭いをクルーシュトの父にして、闇の勇者でもある男が、息子が肩代わりしていることによるものだった。




「つまり剣馬鹿師匠は、その熱血お人好しなところが上手く働いちゃって、このダンジョンのボスをやらされてるってことか?」

「みゃーんみゃ、みゃみゃん!」

「それだけならよかったのですけどね。トーさんのことですから、このダンジョンで一番えらい人になっても、自分を鍛えるくらいにしか使わないでしょうし」

「みゃうぅーん。みゃみゃ」

「あぁ、父上らしいですね。他のダンジョンマスターと違って、やさしい王になろうとしたら他の王たちだけでなく、勇者と呼ばれる探索者に狙われるようになったと」

「みゃーん、にゃうにゃう」


その通りだと言っているようにも。

全然まったくもって違っていて処置なしだと鳴いているようにも聞こえるおしゃの鳴き声。

皆が皆、理解してやりとりをしているのか。

周りの雰囲気に上手く合わせているだけなのかは、神のみぞ知るところで。



ぶっちゃけてしまえば。

クルーシュトからしてみれば、ここにこうして大好きな人達を背中に、ひりひりとした緊張感の中、剣を振るえるのならば何でも良くて。

父に対するように、光の勇者などとも呼ばれるもふもふなおしゃが泡食って助けを求めにくるくらいなのだから、クルーシュトが今の今まで邪魔……過保護に守られて体験できなかった、魂を削るような戦いを味わうことができるのだろう。


何せ相手は、ユーライジアで言うのならば神にも等しい根源魔精霊クラスの剛の者である。

加えて、常に気を張って背中を合わせつつ、薄暗がりから現れる見慣れたものから見慣れないものまで、バラエティに富んだ魔物たちに備えるだけでなく、壁や地面、天井のそこかしこに存在しているダンジョンらしい罠にも注視注意しつつ慎重に進んでいかなくてはならない。



これならば、乾きにも等しい無味無臭な日々からも脱却できるだろう。

毎度毎度美味しいところを持っていってしまう兄弟子も、背中を護るのに精一杯で、クルーシュトのぶんまでいつものように奪っていってしまう余裕はないらしい。




「来るぞクー! 後ろは任せた!」

「言われなくとも! マーズこそ、虫の一匹たりともおしゃと母さまに近づけるんじゃないぞ!」

「回復と、万が一の状態異常の治療はまかせてくださいです!」

「みゃうん、みゃみゃぁっ!」



無茶言うぜ、まぁでもやるしかないんだけどな。

ぼやきつつも、頼もしい声。

無意識なのか、それほどまでに近しいからなのか。


然と触れる背中どうし。

母の愛とも、至高のモフモフとも違うそれは、なんだかとても暖かくて。



とどまる事なく、気分が高揚する。

背中から、どんどんとアツくなってくる。


こんな楽しいことがずっと続けばいいと思いながらも。

そんな大好きなひとたちが背中に、傍にいてくれるのならば。

ワクワクドキドキな楽しいことは、そう長続きはしないのだろう。


そんな相反する気持ちと感情に。

クルーシュトは思わずといった風に、笑みをこぼしながら。



思わず出てしまったような。

黒い靄、カーテンのごとき多種多様な虫たちの軍勢へ向かってゆくのであった……。



    (第161話につづく)








次回は、5月14日更新予定です。

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