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第158話、EndingNo.3、『勝手に決めた、リズムに合わせて歩いていこう』②



 SIDE:マーズ


 

 

「いざ、勝負っ!」

「まったく、強引なんだからもう」



母の台詞を誤魔化す勢いで、ちゃっかり用意していた竹刀を、闇の勇者が得意としていた天の構えを取りつつも勇ましい声を上げるクルーシュト。


オレは拳というか、どっちかと言うと魔法使いだから魔法で戦いたいんだけど。

なんてマーズのぼやきはあっさりスルーされて。

返す刀で文字通り飛んできた、マーズにしてみれば少し小さめの竹刀を受け取ると。

結局いつものように闇の勇者、あるいは魔剣聖などとよばれるガイゼル家当主の弟子同士の鍛錬試合が始まった。




「二人とも、頑張ってください~。もし怪我しちゃったら治しますからね」


のんびりのほほんと見守るのは、そんなクルーシュトの母であるタクト。

魂持ちし魔導人形として激動の人生を経て、【ピアドリーム】の聖女と呼ばれた彼女のそんな言葉は頼もしいことこの上なかった。

 

竹刀での鍛錬試合であるし、クルーシュトもマーズも特に意識することなく魔力の膜のようなものに覆われているため、早々怪我をするようなことはない、と言いたいところではあるのだが。


それこそが、剣での実力以前にクルーシュトとやり合いたくない際たる理由で。

特段お互いに戦闘狂、あるいは剣に我を忘れるほどのめり込むタイプではないとは思っているのだが、

きっと同じ師であったこともあり、相性がよかったのだろう。


一度試合が始まってしまうと、何だか楽しくなってきてしまって。

終わりどころが分からなくなるどころか、どんどんと熱くなってしまうのだ。



早くもやる気満々なクルーシュトに対し、そんなわけで一見やる気無さげにも見えるマーズの構えは。

地の構えなどといえば聞こえのいい、だらんと剣先を下げた脱力モードで。

タクトの声援を受け、特に開始の合図もなく、上下に離れた剣先が近づくとともに始まる試合。




「ふっ!」

「っ、だぁっ!」


お手本通り愚直に面打ちにいくかと思いきや、マーズと剣先の間に何か丸い遮るものがあったかのように不自然に向きを変え、そのまま袈裟懸けに振り下ろされる剣。

手本も何もなく、剣を横に倒し腹で受けるつもりでいたマーズは、それでも幾度となくこうして刃を合わせていたこともあって、少し無理くりな体勢ながらも、腕を延ばし剣を立てて何とか鍔迫り合いへと持っていく。



「はぁぁぁっ!」

「どぁっ、だっ、だだっ」


ガガガガッと、おおよそ竹同士がぶつかっているとは思えない音を立てて打ち合いが始まる。

ぎりぎりと競り合うかと思ったら、お互いの刀をクロスさせつつぶつけ合い向きを変え、徐々にそんな打ち合いのスピードが上がってゆく。



はぁ、結局こうなるのかよ。

なんて内心でマーズはぼやきつつも、練習試合のラリーめいたそれを楽しんでいるのは事実であった。

ただ、初めに危惧していたように際限なくスピードが上がって、乱剣のようになって。



「わぁっ、早いですね~。わたしにはもう全然見えません」


タクトがそんな声を上げるくらいには止めどころが分からなくなってしまうのだ。




「そら、限界を超えろ! 楽しくなってきたじゃぁないか!!」

「楽しくはねぇよっ! やっぱり前言撤回! クーは十分剣馬鹿だってばよ!!」



ガガガガガガっ!!


その速度は体感的には音を超え光に届かん勢いで。

そんなことになれば竹刀などあっさり燃え尽きてしまいそうなものだが。

お互いの、ほとんど無意識に立ち昇る【エクゼリオ】の魔力が、二人の身体から竹刀を伝ってコーティングしているので中々それもままならない。



この状況を打破するには、被弾を覚悟で技に繋げるか。

魔法を使うのは禁止されているならば、竹刀を放り投げて。

やっぱり被弾覚悟で組んず解れつな肉弾戦に持ち込むべきか。

たぶんきっと恐らく、それ以前にその一撃どころか何十何百もの打撃を受けて沈むことになりかねないが、このまま色々な所が切れてしまいそうな勢いで打ち合い続けるよりはマシであろうと。


さぁ打ち込んでごらんなさぁいとばかりに意味もなく両手を挙げかけたところで。

それまで有閑に見守っていたはずのタクトの、不思議そうな、少し驚いたような声が上がった。




「あら? 珍しいですね。ウィーちゃんが鍛錬中に遊びに来る……って、よくよく見たらちょっとおっきくてかっこいいねこさんだからもしかして」

「かっこいい猫! おしゃちゃん! おしゃちゃんじゃないですかぁっ!」

「っ、おおわぁぁぁっ!?」



被弾覚悟の肉弾戦どころか、組み合って色々とタッチしちゃうぞぉ。

なんて邪な態度が見破られたのか。

それまで力抜くこともなく、触れよという勢いであったのに。


惚れ惚れする立ち振る舞いで、マーズよりも先に竹刀を手放したかと思うと。

それまで打ち合っていたのが嘘だったかのように、迫り来るマーズを華麗にかわし、そのまま勢い余ってごろごろと転がっていくマーズを尻目に。

ひょっこりと顔を出した、ウィーカによく似た、だけど確かに一回り大きくて可愛さ以上にかっこよさが上回っている、黒い靴下を履いた白猫さんへと突貫してゆくクルーシュト。




「みゃっ!? ……みゃふぅぅっ」

「相変わらずもふもふですねっ。ウィーはあんまりもふらせてくれないからとっても嬉しいです」

「クーちゃんったら、ほんとうにおしゃさんのこと好きだよねぇ」


理由あって、救援要請のためにやってきたはずであるのに。

色々と大きい黒髪の美少女タイプがもふもふしてくるから、咄嗟に喋るのをやめてにゃんにゃんと身を委ねるさまは。

ゴロゴロ転がって地面とお友達になっていなければ、マーズの盛大なツッコミが入っていたことだろう。



離れろ、離れるんだクルーシュト!

それは、一見カッコ可愛いだけの猫だが、奥さんも子供もいるおじさんにゃんこなんだぞぉ!


そんな。

何かしらを自覚してしまった、大分嫉妬成分の混じった、そんなツッコミが……。



       (第159話につづく)








次回は、5月3日更新予定です。

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