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第154話、EndingNo.2、『まだここにいて、小さな世界を照らすから』①



SIDE:マーズ




マーズ自身。

正確にはその巌の如き肉体を創り上げるガワではなく魂は。

故郷であるこのユーライジアにはその見た目よろしく大きに過ぎてうまく嵌っていないらしい。



一昔前、それこそ両親がマーズくらいの年頃であった時代ならば。

怪人なマーズ父が埋もれに埋もれて、どこにでもいそうなモブキャラ(そんなはずがない)になれるくらいには、英雄クラスの剛の者が犇めいていた、とのことであるから。

それこそレスト族の『分離』、『剥離』を誘発するであろう危機が訪れる機会も多くあったことだろう。



しかし、マーズの生きる現代はそうではない。

熱く感情高ぶるような物語にしたって、異世界からの闖入者の力添え? が必須であるし。

そもそもが自分以外が危機に陥ることなど我慢ならないマーズ自身が、危機感が降ってくることを期待して、だけど結局物語が始まる前に終わらせてしまうから、ある意味でマーズが心の奥底で求めていたと言ってもいい、答えの出ない……ではなく、出さない停滞モードが続いていて。




このままでは、痺れを切らせたマーズ父に、生涯の相棒が決まらないままに異世界へ拉致されてしまって。

血湧き肉躍り汗やら何やらが迸る、オクレイ辺りが好きそうな(偏見)世界に骨を埋めることになってしまいかねないと。



何故だかいらぬ強迫観念に囚われてしまったマーズは。

とりあえずの転ばぬ先の杖とばかりに。

ヴルック】の魔人族に魂を売ることにした。




「人聞きが悪いよ。マスターが、センパイのママが聞いたら文字通り消されるのは私なんだけど。同族のよしみで私ができることならって思っていたけど、やめさせてもらおうかなぁ」

『ちょいちょいぃっ、この状況でそれはないでしょって! ごめんなさいごめんなさいマスターっ!!』

「かぁっ?」




そこはいにしえの魔人族のラボ、『ショウヘイバ』最下層。

モノローグを読んで突っ込むのは魔導人形のもうひとりの創造主であるカーシャにはお手の物なのかもしれないが。

それは反則でしょうと慌てふためいて天蓋付きのベッドから起き上がると。

何故かムロガの元を離れてこっちにきてしまっているクロが器用に首を傾げる様子と、あえてため息をついてみせる真白な少女の姿が見える。



「まぁ、やめるもなにももうやるべきことはほぼほぼ終えてしまったわけだけど。……はぁ。何だかとても複雑な気分だよ。こうして生まれ変わる前に、手慰みに追い求めていた夢が、こうもあっさり叶ってしまったのだからね。私が言うのもなんだけれど、改めて生まれ変わった気分はどうだい? マーズくん」

『あー、あー。何だか喋るとフィルターかかってるみたいで変な気分だ。今までも誰かの身体の中にお邪魔していたからそんなに違和感はないかなって思ってたんだけど』

「かー」


相変わらず、ちょっと離れたところで。

マーズであった時と違って視力が低いのか、マーズが高すぎたのか僅かに霞んで映るクロとカーシャ。

そのまま視線を下ろすと、カーシャの言うように魔導人形を彷彿とさせる節くれた球体関節付きの二の腕……の姿などどこにもなく。

かつてのマーズと比較すると、5分の一くらいの太さしかない、白く滑らかな細腕がシーツの上に添えられていて。


「あいにく、最高傑作とも称された始まりのひとりは私の手から離れてしまったからね。少し思うところがあって、新しいからだを作ってみたんだ。さすがにマーズくんの、元の身体のスペックには劣るだろうけれど、中々に面白い出来栄えになっているよ」

「かぁ」

『面白って言われるとどうしたって不安になってくるんですけど。鏡とかないの?』

「あぁ、鏡台ならそこにあるよ」

『あ、本当だ。ってかここって全然『ラボ』っぽくないよな』

「かぁ?」

「そりゃぁ、勝手知ったるご同輩が魂とはいえ、そのガワは私たちにとってみれば子供みたいなものだからね。子供部屋が無機質に過ぎたら、色々と教育に悪いだろう?」

「かー」

『ふうん。今の見た目のせいでやっぱり違和感しかないけど、あんたにも過保護な親っぽい心があったんだなぁ』

「失敬な、と言いたいところだけど。死んでも勝つことのなかったライバルの物真似をしているだけさ。

初めての娘には逃げられてしまったし、後悔なく生きてきたつもりの私でも、反省くらいはするさ」

「かぁっ!」

「って、さっきからどうしたのさクロセンパイ。え? 何かが来るって? その言い方だとおむす……マスターじゃなさそうだけど。マスターたち以外にここを知っている人と言ったら……」

『……?』



とはいえ、ベッドと鏡台は起き上がって立って歩かなければいけないくらい離れていたから。

大丈夫かなぁと思いつつも新しい身体で起き上がって鏡台へ近づいたところで、何やら騒がしくなる部屋の外というか、上のフロア。



まさかさきほどの魂を売る云々のジョークがジョークにならなくて。

闇の魔王が怒り心頭で乗り込んできたのかと。

カーシャとともにマーズが震え上がっていると。



「にゃぁぁぁぁっ!!」


僅かに霞んで見える視界の向こうに。

真白一辺倒だと思っていたカーシャやベッドのシーツよりも白くてぬくくて柔らかい、そんな鳴き声あげる一匹の猫。

 


あ、ウィーカだ。

なんてマーズが声を上げるよりも早く。

 


「にゃぁあああああっ!!」


もふもふもふぅんと。

いつかは『吸われる』運命にあるのかもしれないもふもふとともに。

マーズの視界は真白に染まっていく……。



       (第155話につづく)








次回は、4月9日更新予定です。

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