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第153話、EndingNo.1、『季節を感じながら生きる、君がいればいい』②




SIDE:ムロガ


 

 

欲張ってたくさんの大好きで大切なひとを得たいと。

そんな要望に応えてありとあらゆる異世界にばらばらになって飛ばされてしまった転ばない四人組の『すばやさ』担当、ミーくんことミエルフの後を追って。


マーズ、オクレイ、ムロガの三人は。

様々な世界に繰り広げられる物語の端役、時にはメインどころとなって文字通り暴れまわり世界を引っ掻き回した。


 

三者三様の活躍により集まったミーくんのかけらは六つほど。

かけらとなって様々な世界の誰かの内なる世界にお邪魔して。

何だかんだで最初の目的、願いを……ミーくん本人ではなく、間借りしたその人のものを叶えていって。

だけど結局ミーくん自身は想いを遂げられずふられてしょんぼりしているところを幼馴染みの誰かに捕まえられるといったお決まりの繰り返し。



そんなこんなで半分集まった故なのか。

見た目は頭でっかちな子供、中身は軽めの思春期男子くらいには自身を取り戻してきたミーくんとともにやってきたのは7番目の世界。



ユーライジアとは異なる異国の地。

『神の戸』などと呼ばれる場所。

どことなく幻想の香りがする、ユーライジアと同じ気配のする世界。

剣と魔法と演劇と不思議が蔓延る魔法学園に絡んで、魔物や魔精霊が、その姿を変えたり変えなかったりしながらも息づいている世界で。

 


『転ばない四人組』一行は。

ミーくんの7つ目のかけらが(小さなミーくんがいることで分たれた自分がどこにいるのかなんとなく分かるのだ)そんな魔法学園にあると分かって。

もともとその学園が、留学生を受け入れるといった体で魔法を扱える異世界転入生を受け入れていたのを逆手に取り、うまいこと転入したところまではよかったのだが。


あらゆる世界の魔法を扱える人……魔力が蔓延して坩堝と化しているせいなのか、7番目のかけらがどこの誰の身体を間借りしているのか。

中々見つからず、見つけることができずに学園での日々は過ぎていってしまって……。

 





そうしてやってきたのは、初めての学園での一大イベント、『学園祭』。

ミーくんのかけら探しを忘れたわけではないが、何だかんだで正式にユーライジア・スクールからの留学生扱いになっているので楽しまなくちゃ損だと。

『魔法科学部』に所属することとなったムロガは。

いつだって舞台上でスポットライトを浴びているような世界観が、より一層ざわざわして盛りに盛り上がっているのをひしひしと感じつつ。


ユーライジア・スクールに通っていた時から温めていた、二人乗りの空飛ぶ魔導機械、『ナイト・グライダー』のお披露目のためにと。

『洗心館』などと呼ばれる武道体育館の控え室に詰めていた。




(さてっと。半ば自分の欲望にかまけて二人乗りのやつ作っちゃったけど。後はどうやって誘うかだよねぇ)


どうやっても何も、『ナイト・グライダー』と名付けた空飛ぶ魔導機械は、【ヴァーレスト】の魔力によって浮かび上がり舞うことができるので。

ヴァーレスト】の魔法、魔力に長けた者が助手席に必要になってくるわけで。

ムロガ自身はあまり【ヴァーレスト】の魔法が得意ではないからこそ、【ヴァーレスト】の魔力に長けた人物を相方にお願いするのは必至であったわけだが。



(意外ってわけでもないんだろうけど、風魔法が得意な人結構多いみたいなんだよね)



しかも二人乗りというか、グライダーの体をなしている以上、ムロガ自身とバランスの取れる体格の人が的確だと言えて。

相棒として隣で一緒に飛んで欲しかった、転ばない四人組のああ見えて「まほう」担当なその人は、どう見ても大きに過ぎて。

いっそのこと一人で飛んでもらった方がいいのではないかと本末転倒なことを考えてしまう始末。

 

(いっそのこと『かわって』もらう? いや、それじゃぁ僕的に意味ないし。僕が小さくなってみるとか)



剣や魔法以上に、なりきること、演じることが蔓延る不思議な世界。

百歩譲ってもマーズの姪っ子甥っ子にしか見えないマーズの叔父叔母夫婦から始まって。

偶然なのか必然なのか、オクレイの両親(学生時代)までもがこの学園に在籍していて。

紆余曲折あって恥ずかしさなどにもかまけてオクレイ自身も肉襦袢を脱ぎ去った本当のワタシ(あくまでオクレイ談)になったりしているから、それくらいの変化はそれこそ些細なもので。

 

 

(よし、そうしよう。【リヴァ】魔法が得意なパステル先輩にお願いしに行こ……)


何せ、この世界に限らずユーライジア・スクール時代から遡っても際限なく増えていくライバルたち。

カムラルの、世界の至宝と呼ばれた乙女たちじゃあるまいし、宿命から逃れるために周りに、自分に『男である』と言い聞かせていたのを悔やむくらいにはムロガ焦っていた。

幼馴染みの親友の一人でずっといる時間はもう終わったのだ。

 


神の戸なる魔法学園で過ごすうちに仲良くなった同性の級友によると。

学園を含めて煌びやかに過ぎるその街を見下ろすことのできる魔夜とつく山からの夜景はとにかく最高らしい。


停滞を破って新たな空へ飛び出すにはもってこい、らしく。

それを聞いた時から、実は結構学園祭用の出し物そっちのけで『ナイト・グライダー』の開発に注力していて。


学園祭の出し物は、過去の魔導機械を復元した……『キマグレイン』の頭部分の展示でいいかと。

片手間ではなかったが、転ばない四人組の『かしこさ』担当なだけある凄いことをやってのけている自分にとうとうムロガは気づくこともなく。

その場を他の部員に任せて飛び出していこうとして。

 


 

「ムロガ、ムロえもーん! ヘルプ! たーすけてくれぇい!! 姪っ子甥っ子たちが(勘違い)さかしまになった真っ赤なタワーに決戦に向かうってきかねぇんだよこれ! 何かご機嫌な空飛ぶアイテム出してくれぇぇ……って、おぉぉ!! さすがムロガ頼りになるぅ! これもしかしなくても空飛べるっしょ! 乗せてくれ!!」

「ふふん。そんなことだろうと思っていたよ。ただしこの『ナイト・グライダー』が飛ぶには【ヴァーレスト】の魔力と『落とされる』覚悟が必要だけど、構わないよね?」

「……おお、もちろんだ! それじゃぁ早速飛ぶぜぇ! 案内はするからしっかり捕まっていてくれよなっ」

「きゃ……わわぁっ!」



何せマーズが大きすぎるから小さくなるなりしなければ一緒には乗り込めないなんて思っていたのは始めだけだった。

身体を支えるグライダーの足部分に身体を豪快に突っ込んだマーズは、そのままの勢いで飛び出してきた両二の腕でがっしとムロガを横抱きに抱え込んだではないか。


突然の浮遊感に今更な悲鳴をあげたのは一瞬。

乗り手取ってとなるグライダーの足以上に安定感抜群なマーズの腕の中で感じるのはどこまでも熱い【ヴァーレスト】魔力で。


 


その瞬間二人は、文字通り二人だけの。

天井と地上の星に挟まれた風、そのものになった。

 


それは、吊り橋の上なんか目じゃない極上の体験。

なんて言うか、そんな時間を共有できただけでも幸せで。


感極まってしまったムロガは気づかない。

 




―――覚悟もなにも、もうとっくの間に落とされてるんだけどな。




そんなやさしいツッコミがマーズから発せられていた、なんてことは……。




      (第154話につづく)








次回は、4月4日更新予定です。

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