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第152話、EndingNo.1、『季節を感じながら生きる、君がいればいい』①




SIDE:マーズ



不意に訪れて言うことだけ言って。

やっぱり異世界に置いてきてしまった(一応『おぷしょん』だけれど)マーズの母が。

何をしでかすか分からないと言う意味合いをもって心配だからと、一旦どこへともなく帰ってしまった怪しい人と称されるマーズ父。


その言葉をマーズなりに判断すると。

ようは、何だかんだで平和であるこの世界で遊んでいるのならば。

マーズ自身の力を必要としているかもしれない世界へ向かうべき、と言うことなのだろう。




「今度帰って来た時に答えを聞こうか」


果たしてそれは、いつの日のことか。

明日かもしれないし、一週間後かもしれないし、ハネムーン兼異世界を救うのに忙しくてしばらく帰って来ないかもしれない。

ようはそれまでに、異世界へ共に向かい、レスト族の『剥離』、『分離』が叶うであろう強者とのしのぎの削り合いに付き合ってくれる人を探せと言う意味合いも含まれていて。




(かと言ってもなぁ。ハナの夢にして目標じゃないけど、誰か一人を選ぶだなんて角が立つと思うんだよね)


自身の答えを出さない優柔不断を棚に上げて。

今のどっちつかずの停滞しているぬるま湯が大好きなのだよとぼやきにぼやいて、マーズは答えを出せずにいた。


傲慢にわがままに。

そうであるのならば流されて、自発的にではなく一番槍な誰かに選んでもらいたい、なんて虫の良すぎることを考えていて。

それ故にバチが当たってしまった……と言うわけでもないのだろうが。



そんな風によこしまな感情もって誰かにエンカウントしないものかと。

スクールが休日であるのにも関わらずうろついていたら、早速かかる声。




「うおおおぉぉぉぉん! 大変、大変ヨォ!! ミークンが、ミークンがぁぁっ! お肉マークのついた従者サンみたいに12分割されちゃったアァアァ!!」

「ぐぅおわっ!? 優柔不断でごめんなさいぃっ」



何せその体格ときたらマーズに勝るとも劣らなかったから。

スクールの庭園に侵入した時点で視界の端にしっかりバッチリ黒光りしている筋肉が映りこんでいたわけだが。

正直男の友情エンドは勘弁して欲しいなぁとスルーしていたのがいけなかったらしい。


惚れ惚れするほどの速さで文字通り肉薄してきたオクレイによるダイレクトな大声に。

外界と身体の中を隔てる壁が破れた気がして、もんどりうって転げまわるマーズ。


ごろごろしながら、そんなオクレイの荒唐無稽な、だけどミィカの言葉を借りるのならば。

何だかのっぴきらないことが起こっているらしいミエルフには悪いけれど、面白に過ぎる物語が始まりそうな台詞の意味について考えていると。


しばらく転げ移動しつつ大の字になったところで。

今日も今日とて平和に青い空を覆うようにして、栗色ボブカットにメガネがよく似合う少女がひょいと顔を出す。



「……あっ。これは落ちましたわ」

「ん? 何が落ちたって?」

「いや、なんでもねぇ。んで、ミエルフのやつがどうしたって? あっちこっちに目移りして一人に決められなくて(特大ブーメラン)、ついにはどこぞの誰かに刺されたのか?」

「んもう! ユーライジアではマークンがみんな持ってっちゃうからミークンがモテた試しないの知ってるデショうに!」

「おおぃ、人聞きの悪い事言うのやめてもらえませんかねぇ! オレだって生まれてこの方モテた試しなんかねぇよ!」

「オニなのに平気で嘘ついて。お仲間のみんなにボコられても知らないけど。……って、そんなことはどうでもいいんだよ! ほら、ミエルフってばここじゃぁモテそうにないからって異世界に行きたがってたでしょ? どこで聞いたのか、クリッターさんに食べられれば異世界へ行けるって言うの鵜呑みにしちゃったみたいなんだよね」

「マジかよっ。そこまでくると逆に男だな。ヘタレで優柔不断なオレにはとてもとても真似出来ねぇ」

「……まぁ、ミークン行動力と度胸はアタシも認めるところだケド。それって確か、世界を救うような英雄の器がないとダメなのよね?」

「うーむ。正直ミエルフのやつは主人公ってタイプじゃないとは思うが。器っていうか見込みはあると思うんだよな。バラバラのスプラッタになったんだっけ? ギルさんに喰われりゃぁそりゃそうなるだろうけど」



クリッターことギルにはマーズはマニカとともに何度も会っているが。

その器がないのか、ほとんど身内のようなものだからなのか、今のところそんな風に襲われたことはなかった。


そんなギルではないが、何度か襲われたことがあるらしいマーズの父曰く、噛み砕かれて飲み込まれてそのまま異世界へ運ばれるといった、なんとも猟奇的で不可思議な移動方法のようで。


ミエルフが自力でギルを見つけ出して、その身体を曝け出したのならば。

オクレイがここまでテンパっている意味がマーズには分からなかった。

ミエルフはお調子者の三枚目だが、弱いわけではない。

よって、無慈悲にギルに喰らわれるだけで終わるとは思えないのだが……。




「どうやら、通常のクリッターさんの誘いとは違うみたいなんだ。……ええと、クルーシュトさんちのお爺さんだったかな。どこぞの赤オニさんみたいにたいへん気の多いひとで、多くの大切な人を救いたいからって自分の身体を分けたっていう……」

「おいおいおい、マジかよ(二回目)。何だかそれすっげぇ聞いたことあるけどっ。オレはまったくもって関係ないけどっ」

「フムフム。納得できるヨウな、できないヨウな。だけどもお二人のハナシを聞くにミークンは色んな異世界へとりあえずは無事? に旅立ったってことよネ」

「うん。前例があるからね。だからまず、僕たちにできることは……」

「クーんちのじいちゃんだっけか? ガイゼルのお屋敷へちょっくら行ってどんな感じだったのか聞きに行くってことか」

「そうと決まれば、急ぎまショウ!!」




その真実は、幾多に分たれた魂のかけらを集めひとつにするための彼を大切に思う人たちの冒険譚だったわけだが。



勘違いをひとつまみ、そこに置いて。

転ばない『男友達』三人……四人組の、長く永くなるかもしれない12色の異世界への冒険は。


今まさにそこから始まるのであった……。



      (第153話につづく)








次回は、3月29日更新予定です。

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