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第151話、アイの怪人と泣かない赤オニの邂逅は終わりの始まり



SIDE:マーズ



かつてこの『ショウヘイバ』と呼ばれる場所で、幾度となく繰り返されてきたガシャの魔人族による世界への侵攻。


マーズ自身のイメージするものとは全くもって違っていたが。

どうやら今回も、物語が始まることもなく。

それについては文句が色々なところから飛んできそうな気がしなくもなかったが。


ハナの言うところの『は~れむめんばー』に新たなる一員が加わって。

勢い込んでこの場へと集まってきていた(ここを棲み家としていたアンデット系モンスターたちとの戦いが、無事済んだことは確認済み)他のメンバーとの邂逅によって起こる、とらぶるめいたドタバタを、このまま魔精霊の終の棲家の一つとも言われる月型の杖の中からによによと眺めるつもりでいて。



本来の目的である、自身の魂が留め居られる素体探しをすっかり忘れていた……わけでもないのだが。

偶然入り込みデバガメ状態でいられたハナの月型の杖は。

そうは言ってもやはり、ラルシータスクールの宝物庫(と言う名のラルシータ王兼校長先生の趣味部屋)に座していると言われる本物のようにはいかなかったらしい。




「わわっ、急にどうしたのだっ」

「っ! この気配は同胞? ……いや」

「にゃにゃにゃっ!? かいじんがぁ、かいじんが来るのにゃぁっ!!」



ハナが慌てる声と、ぴりっとなるカーシャの気配、ぺたんとなってばたばたと転げまわるウィーカ。

それとともに、ぴしりと内なる世界が軋んでずれる音がして。

その向こうから見えるのは、彼女らの姿ではなく。

どこかで見たことがあるというか、どう見ても『虹泉トラベル・ゲート』内の狭間の世界を流れる12色の斑色で。



『ぬぅおばっ!?』


マーズは成す術なく、その斑色に吸い込まれ流れに乗って浚われていって……。






              ※       ※       ※





「だはっ!?」


どれくらいの時間流されていたのか。

時間の概念が薄い場所とへいえそう長くはなかったはずで。

ぬぺっと弾き出され叩きつけられた、内なる世界は。

その場の主の人となりを推し量れそうな。

マニカの内なる世界がカムラル邸に似通っていたのとは大きく異なるというか。

ある意味で適当な性格がよくよく出ているようで、一見すると何もないようにも見える闇色一色の世界であった。



「はっはっは! 人がちょっと目をはなした隙に随分とまぁ楽しげな日々を送ってるようじゃないかっ。いらっときたからとらぶるが巻き起こる前に引っ張り込んでやったぞ、よろこべー、息子よ!」

「……はぁ。すっげぇ久しぶりに顔出したかと思ったら、相変わらず変わんねーな、オヤジはよ」



いわゆるところの、顔から地面に叩きつけられて感じた苦いベロの先の時点で。

創られし世界であるのに、きっかり埃の溜まっていることに気付かされた時点で。

そんな世界の主が切っても切れない関係な人物、『アイの怪人』などと揶揄されるオヤジであることに気づいたマーズは。

大きなため息をひとつ吐いて、腕を使わず体だけで起き上がると。

一見しなくても二人の子供がいるようには見えない、良くも悪くも望洋とした少年っぽさの抜けきらない人物を改めて見据える。




ヴァーレスト】の属性に愛されし種でありながら、この世界では比較的珍しい黒髪黒目、やせ型のもやしっ子を地でいっていて。

そんなオヤジよりも体感で半分くらいしかない母から生まれたにしては横も縦も厳つすぎる自身のことを。

本当の子供ではないのではないかと、物心つくころには悩み込むようになっていたのは今や昔の懐かしい思い出である。



何を隠そう、そんな悩みを半ば強引な形で解消させんとしてきたのは、15歳から心も身体も全くもって成長していないと嘯くオヤジ当人であった。

なんでも、自身のことなのにそれまで気づいていなかったが。

そのオニのごとき鋼の肉体は、その半ばが生来持っていた魔力でできているらしい。

言われてみれば、オクレイやミエルフたちのように肉体をいじめ抜いて鍛えた記憶もなくて。

大事で大事なあのマニカをありとあらゆる危険から護るための着ぐるみと言われたのならばひどく納得できるのは確かで。




「おいおい、そこはいいとこで余計なことしてんじゃねーぞって怒るところだろうに。マーズこそ相も変わらずやさしい良い子だよなぁ。一体誰に似たんだか。母さんか? 母さんだな。正直母さんちの血ってつよつよだよな。マーズもマニカも母さんのきょうだいだって言われても納得できる自信があるぞ」

「くっ。なんの臆面もなく誉めそやしやがって。そこは愚息クソ親父の応酬じゃねぇのかよ」



ラルシータのとこの男親子はだいたいそんな感じが基本だったらしい。

そんな気の置けない関係に憧れがなくもなかったが、基本嘘ばかりのオヤジが家族に対する愛情に関してはとにかく真摯であるからこそ、そんな風に照れてぼやくことしかできなくて。



「そんで? 事前の連絡もなしに呼び出しって何かあったのか? オレの力が必要ってんなら荷物持ちでもなんでもやるけども」

「さすがアイ息子話が早いって言いたいところなんだけど。少し違うかな。たぶん、マーズ自身も薄々気づいているとは思うんだけどさ。力を持て余すというかなんというか、今や平和なこの故郷に自慢のきみは、その存在そのものがちょっと大きすぎるんだよね」

「……」



マーズ自身はそれこそ息子で慣れているから気づきようもないわけだが。

目前にいる父親にはとても見えない存在は、見る人が見ればその二つ名以上のとんでもない化け物に見えるらしい。


つまるところ、マーズ自身が赤オニもかくやな何もかも大きい存在であるのと同じで。

くしくもどうしようもなく親子であると気付かされた最たる理由で。



それは、ここ最近気づき考え始めていた図星でもあった。

恐らくきっと、ここにいては『レスト族』の救済措置、『剥離』、『分離』を行う機会は訪れないだろう。

それすなわち、妹よりも一個人でありたいマニカの願いを叶えられないことを意味していて。




「うーん。それだと困るな。……だったらオヤジが一発オレにキツイのかましてくれるってことか?」

「あはは。面白い冗談だなぁ。僕にそんな力があるわけないじゃないか。母さんならものすっごい魔法いっぱい使えるけど、きっと僕以上にマーズに魔法ぶつけるだなんて絶対無理だろって言うだろうね」

「謙遜に過ぎるっつーか。本気でそう思ってる節があるのが厄介だよなぁ」



親子とか身内とか敵味方を抜きにしても。

マーズは、オヤジ以上に底の見えない存在を見たことがなかった。

世界最高峰の魔法使いとも言われる母がいろんな意味で可愛く見えるくらいで。

恐らくもなにも、そんなオヤジならやる気さえあればマーズに『分離』、『剥離』を促すのは簡単なはずで。



「だったら……ええと。結局オヤジはどうしてわざわざここにオレを呼んだんだ?」


何だかんだで過保護で甘いオヤジがそれをしないということはきっと何かしらマーズには分かりえない理由があるのだろう。

ならば半ば強引にここへ呼び出した理由とはなんなのか。

大分本線から脱線していたのをようやっとそこで戻すと、オヤジはひとつ頷いて見せて。



「その、マーズがやりたいことも含めてさ。この世界に限らず、ありとあらゆる可能性を求めて冒険する必要があると思うんだよね。その際にマーズ、きみはある選択をしなくちゃいけない。きみの存在が大きすぎるが故にたくさん在る『大切なひと』を選ぶといった、どうしようもなくたいへんな選択をね」

「……おいおい。やっぱり急すぎるぜ。オレってばなぁなぁで答えを出さない今が最高に最高だってのによ」



ぼやくように、あまりに唐突なことではあったが。

オヤジがそう口にするのならば、マーズは先延ばしにしていた選択をしなければならないのだろう。



急がなくてもいい。

この場所、この世界の時間はとにかく緩慢だから。

ほとんど神めいたオヤジのそんな言葉に従って甘えて。




マーズが、考えに考えて出した答えは……。




      (第152話につづく)









次回は、3月23日更新予定です。

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