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第150話、闇にも魔人族にもやさしい世界であるのならば、きっと




SIDE:マーズ



思えば始まりは。

今の今までどこに雲隠れしていたのか、ずっとヴァーレスト家についていた使い魔ルッキーによるお節介ないたずらから始まっていて。

マーズとしては、『レスト族』に備わっている『分離』、『剥離』を誘発せんと。

音に聞く同族、【ヴルック】の魔法、技術に長けた魔人族……神型の魔精霊に呪いをかけられ生ける屍として生きる剛の者と相対して。

魂と魂を削り合うかのような戦いを所望していたわけだが。



そもそも世界が、ジャンルが違う。

そんなことを口にしたのは、マーズの規格外な父であったか。



魂だけの状態なまま相対したその瞬間。

どうしようもないくらいの極悪人で、母方……歴代のカムラルの者たちが被害を被っている許されざる存在であると分かっていながら。

島の金属めいた地下深くで目覚めの時を待つその存在が、一つ間違えばマーズ自身が辿っていたかもしれない道を進んだものであるとも理解できてしまって。


反面教師ではないけれど。

おかげで同じ道を辿ることにならずに済みそうだったから。


思い出したのは、それまで悪役であった存在が、従霊道士の召喚契約などに従って仲間に加わるというものであった。

なんでも、父方の叔母がそういった役に囚われしものの救済とするための、悪役更生世界なるものもあるらしい。

そこで一定期間過ごしたもの、召喚契約の縛りを受けたものは、ある意味真っ新な自分として生まれ変われるようで。


その世界へ向かうまでの間ならば。

契約をしても、死なずの呪いをかけた当の闇なる根源魔精霊も許してくれるのではないか。

実は別の意味合いで苦手意識がある当の人物に顔を合わせたくなかった(いずれはそんなこと言ってられなくなるかもしれないが)から、魔王城での邂逅をマニカに任せたのはそんな意味合いもあったりするわけだが。



とにもかくにも、召喚の契約はハナにお願いしよう。

リアータも負けじ劣らずな従霊道士としての才能を持ってはいるが、ウルガの一族の召喚契約は特殊であるからこそ、此度はハナにお鉢が回ってきたわけだが。



サプライズ的な心持ちがなかったわけではないが。

今となっては、当のハナにはもう少し細かに説明しておけばよかったと少しばかり後悔しているマーズである。

万が一にも危険がないように色々模索しながらショウヘイバの最下層にある『ラボ』にまで導いたまでは良かったのだが。



ハナの従霊道士としての、万魔の王から引き継いだ才能も、どうやらかなり特異であったらしい。

異世界の無垢なる少女の魂持ちし(あくまでも魂が視えると言い張る【ガイアット】の死神談)万魔の王。

命続く限り共に在ることを誓うその契約には、たいへんこだわっていて。

修業中に一度だけ聞いたことのあるそのこだわりとはすなわち『かわいいもの』で。


大きさ重さに関係なくポケットの魔物魔精霊とも呼ばれる『獣型』はもちろんのこと。

『人型』以上の魔物魔精霊に限らず、人族の少女たちもその中に入っていて。


マーズも、出会ってすぐの頃に召喚契約したはずだと思っていたのだが。

言われてみればその時ハナは、マーズ・カムラルなる今代のカムラルの至宝、無垢なる乙女を探していたはずで。

事実、マーズの内なる世界には当該となるマニカの存在があって。

もしかしなくても、ハナの召喚契約とは、そんな彼女の都合の良い存在に変容してしまう力が備わっているらしい。





「……ふむ。まだ少し身体を動かすのに違和感があるけれど。これが召喚の契約なんだね。マスターと繋がっているのが良く分かるよ」

「そうなのか? そんなこと言われたの初めてだなぁ」

「うにゃぁっ、やっちまいやがったにゃこのおむすび姫がぁっ! こんにゃ極悪人と契約しちゃうにゃんて! ころころされて乗っ取られちゃったりにゃんかしたら、どうするつもりにゃぁぁっ!」



杖越しに見えるその先には、久方ぶりにガワを取り戻して嬉しくも戸惑っている様子の長い白髪に真白の一本角が映える碧目の、新たにカーシャと名乗る少女の姿があった。

目覚めたてだからなのか、どことなく茫洋としていてみゃふみゃふ騒いで今にも突貫しかねないウィーカが言うような危険は感じられない。



「おむすび? ……おむすび!? そう言ううぃーさんの方がよっぽどひどくない!?」

「サントスールよりも更に果てにあるガイゼルの祖が暮らすと言われる地、『アリオ・パンツァー』の魂の食べソウルフードだね。丸っこくって可愛いってことなんじゃないかな。……おー、よしよし。そう言う君もふわもこで可愛いね。【セザール】の勇者さん」

「みぃっ!? やみの魔人族のくせにあたしのもふもふあたっくが効かにゃいにゃと!? うみゃぁぁぁっ……」


実際にそのまま【セザール】の魔力をまとわせてオカリー族に伝わる猫わざのひとつを繰り出したようであったが。

契約に守られているのか、そもそもが生まれ変わって邪な部分がどこかへ行ってしまったのか。

正しく興味の尽きない実験対象を愛でつつ観察するみたいに。

カーシャは文字通り飛び込んできたウィーカを拒否することなどわっしわっしもっふもっふと撫で回していて。



「カーシャさん寝てたのに何だかいろいろ詳しいんだな。種族は魔人族さんでいいのか?」

「うん。既に死んでしまっているから死霊系アンデッドの、がつくけれどね。生前は一応、魔人族には珍しい【ヴルック】の魔法が比較的使えてはいたかな」

「にゅっ。その割にはおみゃーこそやわこくていいにおいがするじゃにゃいかぁ! うにゅにゅ、負けぬぅっ……」

「ほほぅ! 死霊系なみんなは中々『げっと』できなかったからそれは朗報だな! 得意なことが【ヴルック】魔法なのも珍しくていいな!」

「うぅ~、今度はいいんちょにょらいばるがぁ~」

「……」


などと言いつつも抱かれた腕から逃れることなかったから。

結局はその言葉に反して、その生きているぬくもりに負けてしまうのだろう。



そしてその後に続く、カーシャの微かな呟き。

今回の目覚めは。

魔人族という存在にやさしい世界なんだね。


そんな言葉が、何だかとてもマーズの心に沁みていって……。



    (第151話につづく)









次回は、3月18日更新予定です。

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