第148話、仲間になるのは皆が皆可愛い女の子だなんて、そんなご都合主義
SIDE:マーズ
『ショウヘイバ』島をねぐらに、基地にしていたといういにしえの魔人族。
マーズは実のところ、その存在のことはルッキーにせっつかれずともよくよく知っていた。
自身の半分が魔人族の流れを汲んでいることもそうだが、曾祖父母とスクールにて同級生であったと主に母から聞かされていたからだ。
魔人族の血気盛んな青年二人と、当時の世界の至宝とも呼ばれた【火】の根源に愛されし少女。
両親の馴れ初め的物語は小っ恥ずかしいというか、飽き飽きしていて砂糖を吐きそうであったが。
それだけ離れていると純粋に物語として楽しめるというか、マーズ母は吟遊詩人兼旅商人になりたかっただけあって、嬉しそうに楽しそうに語るそれが、興味深いものであったのは確かで。
そのうちの、悪『役』の立ち位置にあてがわれてしまった【金】に愛されし魔人族。
あてがわれたというか、どうしようもない悪であったのは事実なのだろう。
結果だけ見れば、ふられた腹いせに振り向いてくれなかったその相手の命を奪ってしまったのだから。
「かと思ったら恋敵の野郎と入れ替わってただなんて、気づけって方がどうかしてるよなぁ」
レスト族が危機に陥った時のための『分離』、『剥離』と同じように。
世界の至宝とされるカムラルの乙女たちには、危険を回避する様々な力が備わっているらしい。
それで罪が消えていくわけではないのだが、結局同士討ちというか。
男からすればなんだかいたたまれないんだよなぁと思っていたのは確かで。
結局、身体奪われし魔人族の彼は、巡り巡って世界の礎となりうる乙女達を護り続ける守り神に。
一方、至宝を害したとして根源、神の怒りをかったもうひとりは、死の世界へといってしまった(実際は違う)彼女に二度と会えないようにと、生ける屍として、死ねないガシャの髑髏として封ぜられてしまった。
しかし、会えないと思っていた愛しき存在が生の世界へ命を繋いでいることに気づいて。
大きに過ぎる骸骨となった彼は、幾度となく愛しき存在に近づこうと、ひと目見ようと、何度も何度も目覚め蘇ることとなる。
それが、愛しき存在の子ども、孫であることすら気づかないままに。
その度にあえなく打倒され、再び眠りにつかされるの繰り返し。
それほどまでの罪を負ったのだと言われればそれまでなのかもしれないが。
命奪われたことにも今となっては悔いのない、なんの因果が時の狭間の化生となって蘇った同胞は。
そんな永遠を繰り返す髑髏の彼を見て、いたたまれない……もうそろそろ何か、報いがあっても良いのではないかと思い出していて。
実際、守り神となった彼と顔を突き合わせて語り合ったマーズは。
何故か近くにいたルッキーも含めて、何とかしてやろうと決めて。
愛しきものの血を引くマーズが魂でぶつかりあって、ついでに『分離』、『剥離』を誘発できればいい、なんて思っていたのは一瞬であった。
何度も何度も繰り返して擦り切れかけていても、さすがに巌のごとき赤オニの見た目では(魂だけだけれど)違いに気づけるらしい。
かといって、愛しきものの血をひくかわいい妹を矢面に立たせるわけにもいかなかったから。
さぁどうしようと思っているところに、正しく痒いところに手が届くかのごとき存在、ハナ姫さまである。
万魔の王と亡霊姫の一人娘である彼女ならば、生ける屍、ガシャの髑髏である彼ですら従えることができるのではないか。
繰り返しの楔から、抜け出すことができるのではないか。
そう思い、さりげなく誘導しつつマーズは、仕掛けは上々。
ハナが手に持っていた魔精霊……魂の終の棲家とも言われる月の器によく似た月型の杖にお邪魔して。
めざめの時を今や遅しと待っていた魔人族の真白な彼が眠るショウヘイバ地下ダンジョン最下層の、
かつては最大級の覆滅の魔導機が置いてあったラボへと向かったまでは良かったのだが。
「うにゃぁっ、にゃんでっ!? がいこついたにょにっ! おにゃのこがいつの間にかねねてるぅっ!?」
「わぁっ、かわいいのだ。ボクを呼んでたの、この子だよねぇ? すんごい魔力感じるし。ドラゴンなミィカよりも多くない?」
何故だかそこに、真っ白けなウィーカがにゃぁにゃぁ騒いでいて。
ハナがそう声を上げるように、骸の王にふさわしき威容が座しているのだろうと構えていたのにも関わらず。
同じくどこまでも真っ白な、だけどしっかり魔人族の証とされる対角と、鱗持ちし尻尾(半分であるからなのか、マーズには尻尾はなく角もあるけど目立たない)が見えて。
(なぬぅっ!? ど、どういう事だ? さっきまでこの部屋一杯のしゃれこうべだったはずなのに)
というか、全体像とすれば島そのものくらいあったはずなのに。
一体どんな魔法を使えばこんなことになるのか。
万魔の王と称されたハナの父と契約し、従っていた召喚者たちは、確かにそのほとんどが女性であったが。
それは、公然の秘密として、女性の魂を持ち合わせていた万魔の王が、男性恐怖症であったからとされていて。
娘であるハナに、まさかそんな都合の良い、男性に『厄呪』で嫌われるのならばみんな女の子になっちゃえばいいじゃない的な力があるのだろうか。
(そそんなまさかっ。だってオレも契約してるしな。してたよな? で、でも確かにハナに出会ってからなんだよなぁ。マニカに気づけたの)
正直、ラルシータでどうみても女性である魔導人形な彼女に住みついた時も違和感がなかったし。
もしかしなくても正に呪いとして、女性化が始まっているのではないかと。
月型の杖の内なる世界で、思わずマーズがひぃぃと戦々恐々としていると。
そんな風に周りが騒がしかったからなのか。
いよいよもって、真白な魔人族の少女が、銀をまぶした瞼を開いて……。
(第149話につづく)
次回は、3月6日更新予定です。