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第147話、偏在するオニは、一つ間違えば同じ穴の輩のもとへ




SIDE:???



かつては、『ショウヘイバ』と呼ばれていて。

ユーライジア世界において最大の魔導機械と称される『キマグレイン』の一駅であった場所。

それが、使われなくなった祖父母の時代に。

ひとりの魔人族が……珍しくも【ヴルック】に愛されし存在が。

密やかにホームであった場所に『ラボ』とダンジョンを作っていた。



初めは、今となっては成就している、相容れぬはずの他の人族と魔人族が触れ合え混じり合えることを願っていたはずであった。

しかし、世界の至宝とされるカムラルの姫を、ひと目見たその瞬間から全てが変わってしまったと言っても良かった。



自分にはけっして振り向いてはくれない。

そう気づいたのならば、その変わりとなりうる存在を、魔導人形をつくることに没頭して。

そのために『魂』が必要不可欠であると知って、だけど自分には手に入れられないものであると突きつけられて。

自身で手に入れられないのならば、才あるものから奪うことを決意した時。

同じ魔人族でありながら歯牙にもかけていなかった、世界に嫌われているはずのさもない男に、懸想していたその相手を奪われてしまって。



目的のためなら何でもやってきた。

それが因果応報であると、少しでも考えに至っていていたのならば。

こうして、悠久の時を生き死にを繰り返し続けることもなかったのかもしれない。


だけどその時は。

どうして自分だけがと。

どうして自分を選んでくれなかったのかと。

ただただ妄執に歪む怒りとも呼べぬ荒々しい感情に支配されていて。



人のものになるくらいならば、その命さえ奪って自分のものにしてしまえばいい。

なりふり構わず走り続ける、その才能だけはあったのか。

それは一見、うまくいったようにも思えたが。

死してなお、その相手の心も視線も向くことなどなくて。


世界の至宝を欲望のままに奪ったことは。

当然のように世界の逆鱗に触れて。

邪な魔人族のひとりは、世界の呪い……根源からの罰を受けることとなった。

地上の、生ある世界の楔からけっして逃れることのできない、白い白い生ける屍として。



だが、それでも。

自身を省みて罪の重さに気づくことはなかった。

自らで奪っておきながら、いつかは振り向いてくれると。

自身を見てくれると信じて。

そんな、始まりのラボにて長い永い間、力を貯め続けた。

その際、かりそめのものに命を吹き込まんとする魔導人形の技術も生き、死した骸どもを集め従える傍ら、今度こそはうまくいくようにと。

世界のどこにいても分かるようにと、それらを少しずつ少しずつ肉付けしていって……。







再び来た、目覚めの時。

確かに感じつ、死しても尚手に入れたい存在の、その気配、声、魂。

次代に幾度となく繋ぐほどに時が流れていようとも。

もはや気づきようもないのか。

そんなことはどうでもいいのか。



いざ迎えにいかんと、島という寝床ごと起き上がろうとして。





『いよぉ。魔人族のご同輩さんよ。お呼ばれに応じてわざわざきてやったぜ』

『……っ!!?』


そこには、かつての魔人族の同族の中でさえ見たことのない、巌のような大男がいた。

そうであるのに、間違いなくずっと求め続けていた気配、声、魂そのもので。


大いに混乱して、思考がまとまらない。

お前は何者だと。

自分の大切なものをうろんに包み込み邪魔する『ガワ』へと非難めいた視線を向けると。

あんたですらそうなのかと、深い深いため息を吐かれて。



『あんたに今のオレがどう見えてるんだかな。一応身体は置いてきてるんだが……。その言葉、そのままあんたに返すぜ。どうしてあんたは、そんな余計なものを身にまとってただそこで待ってるんだ?』

『……』


待ってなどいない。

今こそ世界の至宝を手に入れるために目覚める時なのだと。

主張するも、それは確かにそこにあって訳が分からなくなってそこから動けない。

だが、敵意と悪意、あるいは無関心などの感情ばかり受けてきたから。

それらがないどころか、興味すら感じられるオニか魔王かとも見まごう存在に興味を持って。

続く言葉を待っていると、そのちぐはぐなそれは大分こちらの事情を知っているらしく。

口を開く前に矢継ぎ早に語り始めて。



『あんた、ここで眠りについてからどれくらいの時が経ってるのかも分からねえんだろう? 確かにあんたがやったことは到底許されることのないんだろうが、そろそろ何かマシなこと一つでもあってもいいんじゃねぇかなって思ったんだ。周りはあんたが世界の至宝を奪ったってことになってるが、現にオレらはここでこうして生きてるからな。いや、オレが至宝って話じゃねえんだけどさ。……まぁそれはともかく、最初に戻るぞ。あんた、そんな余計なガワを脱いで変わっちまえば、少しは世界に好かれるんじゃねぇかなって思ったんだけど、どうよ?」



それは天啓。

あるいは、悪魔の囁きだったのかもしれない。

大切なものに近づくためにと、成り代わったことはあったが。



世界に嫌われている自分自身を変えることは。

確かに盲点、落ち凹んだ虚ろからウロコから落ちる勢いであって……。



     (第148話につづく)








次回は、3月1日更新予定です。

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