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第146話、世界を昏く歪ませるガシャの髑髏はあたかも夢幻であるかのように




SIDE:ハナ



「ぅどわぁぁーっ……って、あれ? 痛くないし濡れてないのだ」


島の断崖絶壁に立った時から。

ミィカがよく口にするお約束ではないが、何やかやあって足を踏み外す可能性について考えていなかったと言えば嘘になるのだろう。

故にハナは、焦りつつも海の水に強そうな誰かの力を借りるつもりだったわけだが。

そんな都合のいい存在は、未だハナのレギオンにはいなくて。

あわあわしているうちに、ブラックアウト。

水面に打ち付けられた結果なのかと思いきや、奪われるかのように意識を失っていたのは一瞬で。

しょっぱ冷たさが身にしみる代わりに、長い間陽に当たっていなさそうに見える、だけどひどく金属めいた洞窟のような場所へと放り出されていた。




「ををっ、月の杖手放さなかったボク、やるじゃないかぁ」


むくむく手のひらに吸い付くように離れない月型の宝珠が怪しく闇色に光っているのに気づいているのかいないのか。

それを支えにして自画自賛しつつ起き上がり辺りを改めて見回したことで、ハナは断崖絶壁で対面したはずの、確かラルシータスクールで垣間見た、おどろおどろしくも『厄呪ダークサイド』にも似ていて、他人には思えない闇色の魂の姿が見えないことに気づかされる。

 


「おっかしいなぁ。どこいっちゃったんだろ……おや? ボクをずっと呼んでる声、かわったのだ? 遮るものがなくなったからなのかな」


そう呟きながら、闇夜の残滓振りまく杖をぶんぶん振り回して。

ハナは耳を澄ましながら、自然と引き寄せられるかのように、ダンジョンというよりも地下ラボめいた鋼の世界を下ってゆく。



ハナは知る由もなかったが。

その道中は、侵入者を排除するための魔物たちが配置されていたはずであった。

しかし、地上……島部分にハナの召還獣や友人たちがやってきていて。

彼女らを脅威とみなし、皆が皆、表に出てしまったのか、ハナの下へ下への進行を邪魔するものは現れなくて。




「うおーっ、なんだか気持ちが上がってきたぁあーっ」


その代わりに、ハナを飽きさせないかのように、色とりどりの金属らしき残骸やら、見たこともないくらい煌びやかで大小様々な魔導機械らしきものがひしめいていて。

この場を探検することが目的であったのならば、その度に飛びついて足止めされていたことだろう。

だが、それ以上にハナの気を引いたのは、それまではハナではない誰かを絶えず求め呼んでいた声であった。



会いたい。

離したくない。

自分だけを見て欲しい。

自分だけを思って欲しい。



それらから始まった、未だハナの知らない、感情そのままの声。

しかしそれは、ハナが地下に降り立ってから様子が変わっていて。


明確にハナを呼んでいるような気もするし、先ほどまでと違って助けを求めているような気もする。

呼び声に応えてくれたのはいいものの、求めていたものとは違っていて戸惑っているようにも聞こえて。

それまではハナ自身がお呼びでないこともあって、気が引ける部分も少なからずあったけれど。


そんなわけで改めてテンションの上がったハナは。

勢い込みすぎていよいよ最深に近づいているであろう狭さの階段を転げるように下って行って……。



「みゃぁぁーっ!!」

「わぶふぅっ!?」


契約したからにはいつかやってみたかった、もふもふと吸うことが一挙に訪れてしまったかのようなやわっこいけどかなりの衝撃。

お互いの毛が絡み合って一つになるんじゃないかってくらいにぐるぐるごろごろしたところで。

その白いもふ弾丸の正体が、ウィーカであることに気づいたハナは。

そう言えば今まではほとんどマーズかリアータ、時たまクルーシュトにくっついていて、意外とこうして触れ合うことなどほとんどなかったことを思い出しつつも。

母にならった猫持ちポイントプラスおっぽの辺りを抱えつつ改めてハナはウィーカと相対して。



「うぃーさんこんなところでどうしたのだ? まさかうぃーさんがボクを呼んでたってわけじゃないよね?」

「どうしたって、どうしたって! ハナがみゃーのことよんだんじゃにゃいかぁ! って、それはもういいのにゃっ! おみゃーのことだから手当たり次第召喚して、みんにゃこの島に来てるにゃよね! 早くここから避難しにゃいと! がいこつが、でっかいがいこつがうまれるにゃあっ! この島おおうくらいの大きさのやつにゃっ、おみゃーよんだんにゃからかえせないにゃか?」

「そ、そんな次々いろいろいわれてもっ。あ、でも今までどうしてたんだっけ。バイたちモンスターは、出番が終わればそのまま帰っちゃうけども。そう言えば、契約したみんなをよんだのって、初めてだったよ」

「だからかえしかたわからにゃいって!? そうだと思ってたにゃっ! んじゃあとにかく上へ……って、おみゃーなにしてるにゃっ! 下は危ないにゃいんにゃって! って、なんにゃそれっ! いかにも魔人族がすんでそうなやつはぁっ」

「あ、これなのだ? ムロガいいんちょからもらって……あっ。いないと思ったらここにいたのだ。って、黒いもやが……わ、わっ、引っ張られるのだぁっ」



ウィーカがみゃーみゃー騒いで更に下へ降りていこうとするハナにたっしとしがみつくも。

彼女の小さな身体では止めようがなくて。

そのままくっついたまま二人はいよいよ『ショウヘイバ』島地下ダンジョンの最下層へと舞い戻り、あるいは辿り着いて。



「見るにゃっ、あっち! がしゃの卵みたいな骸骨が封ぜられええええぇぇっ!? にゃ、にゃんでっ!? がいこつがにゃい! にゃくなってるぅ!!」

「おぉー。確かにガイコツくらい白いけど。あれは髪なのだ? あんなに真っ白い子、初めて見たのだ……」


はたして、ウィーカ一足先にやってきて見たものは幻であったのか。

あるいは、天をつくほどの大仰で蒙昧なる髑髏は、眠りから覚めることなく退治されてしまったのか。



その答えを知っているのは。

未だハナの手元で黒く昏く明滅している、月型の杖だけなのかもしれなくて……。



     (第147話につづく)








次回は、2月23日更新予定です。

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