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第145話、現ユーライジアの至宝は瞳の中の住人になりたい




SIDE:マニカ




いつの間にやら兄、マーズがすぐ側にいないことに気づいて。

それに戸惑っている間にミィカは黄金のドラゴンから元の姿に戻っていて。

マニカがそのままルッキーに引っ張られて魔王城にやってきた時には、初めからいなかったような気がしなくもないハナを追って。

ミィカだけでなく、その場にいたリアータやムロガがその場から去った時であった。

マニカが、『夜を駆けるもの』……あるいは母の姿を借りなければ、兄の身体をろくに扱うことができないことに気づいたのは。



兄のマーズが、妹であるマニカのことをはっきりと知覚して。

内なる世界や夢の世界で会話ができるようになって。

マーズがマニカの、マニカだけの身体を見つけ出し探し出すことを口にするようになって。

そう言いつつも、自らのものであるはずの身体をマニカに与え、自らは出ていこうとしていることに気づくのに、そう時間はかからなかった。



ガイアットやラルシータへ、もうひとりの自分……その体となりうる魔導人形、魂の入っていないものを探し求めたのも。

マニカのためというよりも、良いものがあればきっと間違いなく自身で使うつもりだったのだろう。

しかし、一方では『死神』の名を冠するものに一度命を刈られる必要があって。

もう一方では先客がいたから。

兄、マーズはその手法を変えることにしたのだろう。


父方の一族、『レスト』族は。

今も昔もひとつの身体に複数の魂を棲まわせる一族であった。

マニカからすれば叔父や叔母にあたる人物の中には、比翼の間柄を地でいきつつ。

生涯(未だ異世界にて現役ではあるが)共に在ることを選んだものもいるが。

そのある意味窮屈さを解決せんと、稀なる一族には救済の法があった。



それこそが、幾度と出てきているレスト族の『分離』、『剥離』なる現象である。

過去の歴史を紐解いても、名前すら然と定まっていないそれは。

レスト族の血が途絶えることがないよう、その命の危機が迫った時に複数ある魂が新しき身体ごと分かたれるものだと言われていた。



レスト族……マニカたちは、元をたどれば12の世界を構成する属性のうち、【ヴァーレスト】の魔力、魔精霊を祖としていて。

純粋なる魔力に近い頃は、それこそ分裂するようなこともそう難しいことではなかったのかもしれない。


だが、マニカには魂だけの存在となって身体を離れる方法が分からなかった。

命の危機に瀕するような事態に陥れば自然と分かるのだとは聞かされていたが。

頼もしく強すぎる兄マーズには、そんな命を脅かすような危機が訪れたことなど、この世界にかえってきてからは一度もなかったからだ。



その割に、マーズ自身は自らの身体を置いて魂だけの存在となって、出て行くのも容易なわけだから困ったもので。

自分の身体であるのにも関わらず、さも自分が間借りしているとでも言わんばかりな兄マーズの態度に辟易しつつ悩んでいたのは事実であった。


マニカとしては、兄と別個の存在となれることに特段異論はなかったけれど。

自分が兄の体に……兄に成り代わりたいわけではないのだ。


むしろ、異論がないどころか密かにずっと思い描いていたものでもある。

妹という立ち位置すら捨てて、一個人の他人となって。

だけどずっと、彼の、マーズの瞳の中の住人でありたい。



そのためには、ある意味でこのオニの居ぬ間はチャンスではあって。

『夜を駆けるもの』となって行動する時は身体も軽く問題なく動けることに思い出したマニカは。

兄マーズが眠っている時分を見計らって夜な夜な動き回っていた時のように。

【フレア・ミラージュ】と呼ばれる実体のある幻を創りだす魔法を使い、理想の自分……ユーライジアの至宝と呼ばれたカムラルの姫に変わることにして。




「……っ、ちょっ、かっ。マジか! やっぱり似てんなぁ。それが実際の妹ちゃんってわけか?」

「いえ、これはあくまでも魔法によるものです。あくまでここにいるのは兄さまですから」

「いや、兄さまって。かわってンだからそんなわけ……へぎょぅっ!?」

「わあああああぁーっ、会いたかったよぉぉっ!!」

「って、ちょっ!? な、なんですかっ。えと、理事長先生?」

「もと、だよぉぉっ。ってか、そんな呼び方じゃなくてマイカってよんでぇっ!」

「あわわわっ」



その瞬間だった。

兄マーズよりも早く、新たな身体を見つけ得るためにと。

都合良くも先達が目の前にいたことから、早速話を聞こうと向かいかけたところで。

まるで家族の一員にも等しい使い魔のごとき(正解)馴れ馴れしさで近寄ってきた【ルフローズ・レッキーノ】の小悪魔的魔精霊にどう対応すべきか迷う暇もあらばこそ。

その、ひとつの身体に複数の魂を棲まわせる先達である、どう見ても親世代には見えない元ユーライジア・スクールの理事長のマイカが、ルッキーとは別の意味で誰かと勘違いしているのか、問答無用でそんなルッキーごと抱きしめられてしまって。




「やめんか。大人げない。お前はそれでいいのか、マイカよ」

「えぇー。だってぇ。こうやってはぐはぐするのひさしぶりなんだもの~」

「それは後にしなさい。今はこの悪戯者のせいでヤツが目覚めてしまったことの対処をすべきではないのか」

「うぉわっ、はーなーせぇぇっ」



マニカが、あわあわしつつもこういうのも悪くないかも、なんて考えていると。

兄マーズより大きい人を初めて見たかもしれないと思わずにはいられないくらい、魔王城の主にふさわしそうな雰囲気と体格を持ち合わせたミィカの父が、マニカの顔よりも大きな手でマイカとルッキーをそれぞれかっさらい、皆がこの場から離れたその理由について口にしてくれて。



「あっ、そう言えば。先ほど誰かが呼ぶような声が聴こえたような気がしますが」

「……うん。いにしえの魔人族のやろーでね。カムラルのかわいい女の子たちが狙ってるんだよ」

「それをいたずらに解放した意味を話してくれるのだろうな、ルッキーよ」

「だーかーらー、『分離』、『剥離』のための手助けをしてやったっつってんだろがいっ! 実際、こうやって離れることができたんだからいいじゃねーかっ。あとはオニぼっちゃんがいつものように情け容赦なくめっためたにとどめさしてくれるだろうしなっ」

「……そんなことだろうとは思ったが。全く、やってくれたな。肉体の死では滅びぬからとある対策を講じていたのだが」

「あーん? 勝手になにしてくれちゃってンのよ! そういうのは言っておいてくれんと!」

「確かにその通りだが。お前に言われると無性に腹が立つな」

「ぎょべぇっ!? 強い、力強いってぇ!」



そんな特殊な人がいるのだろうかと。

狙われているのが自分であるとはちっとも自覚もなにもなく気づけないマニカが首を傾げつつも。

兄マーズとは一時的に離れているだけですと主張するよりも早く、仲が良いらしいおじさん二人は何だか楽しげな言い合いを始めてしまう。

その合間にと、マイカの方を向き直れば。

彼女もそう思っていたのか、唯一無二の親友に向けるであろう満面の笑みを浮かべていて。




「うん。あっちもそっちもうまくやってくれるでしょ。ミカちゃん、わたしより大人だからね。

それよりか……マニカちゃん。わたしになにか、聞きたいこと、あるんでしょう?」

「あ、はいっ。実は……」



過保護な大人たちが動かないということは。

きっといつものように兄マーズが色々と台無し(褒め言葉)にしていると言うことなのだろう。


それならばと。

マニカは、オニの居ぬ間にと先達に聞きたかったことを聞くことにして……。



     (第146話につづく)








次回は、2月17日更新予定です。

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