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第144話、大いなる光の勇者は、その生き様を決めた場所へ



SIDE:ウィーカ



時は少しばかり遡って。

今日も今日とて夜の散歩と言う名の、ユーライジア下町の見回り……

獲物をとらずとも現在住み着いているガイゼル家で必要以上にごはんをもらえるので脂肪の燃焼的意味合いも含まれているそれを終えたウィーカは。

すっかり日が明けた時分を見計らって、もはや習慣となっているカムラル家……ではなく、ヴァーレスト家への侵入を敢行することとなったわけだが。




(おや。いつもの暑苦しい気配がないにゃ。めずらしい。牛乳はいたつはお休みかにゃ)


スクール内の魔王城にも引けを取らぬ、いわゆる貴族街にあるカムラル邸と違って。

いち家族が、大型犬……ではなく、氷の小悪魔的使い魔を飼いつつ幸せにのんびり暮らすためにつくられたかのごとき一軒家。



ウィーカはここ最近、などと言いつつもひとりで暮らしている家主マーズと早朝の攻防を繰り広げていた。

この家には大きに過ぎる家主が、目を覚ます前にその自室へと侵入し潜り込み寝こけることができるか。

あるいはその前に見つかってしまい、モフモフという名の半自動ブラッシングを受けてそのまま朝の仕事に連行されるか。

まれに、待ち構えるみたいに庭先で半裸になりつつ、古代に伝わっていたと言う不思議な踊りを踊っていることもあるが。

何だかんだで『夜を駆けるもの』みたいに夜遊びして帰ってくるウィーカのことを気にしているのか、マーズの気配がないのは珍しいことではあった。



「にゃぁ」


それでも念のため、一声鳴いてちょこんと待機。

暑苦しい気配がなくとも、勝負に勝つために気配を絶って潜むくらいは普通にやりかねない輩であるからして、基本的に仲間同士で使うことはない声をあげつつしばらく家の中の様子を伺ってみる。


先ほどのたとえの氷の使い魔ではないが、何だかんだてもふもふ大好きなマーズのことだから。

こうして暇を持て余すであろうウィーカに対して何かしら言付けのようなものがあるかも知れないと思っていたのもある。



(ふみゅぅ。これは手をはなせない、妹ちゃんあたりにからだかしてるのかにゃ。したらどうするかにゃぁ)


しかし、そんな暇もないくらいの何かがあったのか。

言われてみれば、休みであるスクール方面から、何だか騒がしくもこのままねぐらに帰りたいくらいの寒々しい気配がしてくるのが分かる。


氷の使い魔だなんて名前が出てきたのもそのせいか。

ウィーカは身体をぶるりと震わせて、そんな事を言いつつもカムラル邸……ではなく、誰かしら人がいるであろうガイゼルのお屋敷へと向かうことにした。 



ウィーカの半分……親戚そのものでもあるカムラルの、重い宿命背負いし無垢なる乙女たちにつくこともあったが。

基本的にウィーカは、対になる勇者を代々排出してきたガイゼル家の飼い猫、使い魔である。

よって、ねぐらといえば猫が暮らしやすそうなガイゼル様式の独特なお屋敷であるのだが。

普段は真面目でお堅い飼い主なクルーシュトが、修練するぞなどといって迫ってくるのであまり帰ることはなかったわけだが。

マーズもいないし、もうひとりの飼い主(従霊道士であるからして、一応契約だけはしていたのだ)であるリアータの家はちょっと遠いし、クルーシュトに見つからないようにしてこっそりルーママのところにでも潜り込めば一日ぬくぬくのんびりできるだろう。





『こうなったらこっちも! みんな助けてぇーっ!』



なんて、ある意味猫らしい未だアツアツハネムーン中の両親みたいなことを考えていたのがいけなかったのか。

同じく流れで契約してあった、ハナからのそんな救助要請な叫びが聴こえてくるのが分かって。


「みゃふっ!?」


確か、都合が悪ければ呼び出し拒否できるのではなかったのかと思い立ったのは一瞬。

喚び方が悪かったのか、日がな丸まって寝ていたいなんて言いつつも内心では使い魔としてのやる気に満ち満ちていたのか。

抵抗らしい抵抗はそんな鳴き声を上げるくらいで。

正しく猫持ちポイントあたりをつまみ上げるみたいに引っ張られて、12色の斑な流れに吸い込まれ飲まれ。

問答無用で、その場から姿を消していって……。






「みゃぁあああぶふっ!?」


そう長い時間かかることなく、ウィーカの小さな身体にかかるはどこにでも存在している【アーヴァイン】の、

あらゆるものを落として押さえつけるかのような力。


どことも知れぬ地面まで距離があれば良かったのだが。

すぐさま金属めいた鈍色の地面が迫ってきて、身体を半分捻ったところでごろごろと硬い地面に打ち付けられるウィーカ。



「みゅべっ!?」


その衝撃を受け流すようにして勢い込んで転がったせいか、すぐに行き止まり……壁にぶち当たって悶えるウィーカ。

それでも簡易回復魔法、【セザル・ヒール】をばたばたしつつ唱えながら何とか起き上がると。

目に入ったのは、さっきまで時の狭間にて邂逅していたはずのきらきらの色合いに目を焼かれてしまう。



(にゃ、にゃんだぁ?)


それは虹泉【(トラベルゲート)】の残滓ではなく。

いいんちょの家で見かける魔導機械が動いている時に発している光で。


ぶつかった衝撃がスイッチになってしまったのか。

アーヴァイン】や【セザール】を始めとする魔力の塊そのものでもある(実はウィーカは、マニカやリアータにも引けを取らない【エクゼリオ】や【カムラル】も含めたハイブリッドサラブレッドなのである)、ウィーカが触れることがきっかけであったのか。



ブゥゥウンと、目がチカチカするほどにきらびやかな魔導機械が鳴き声を上げて。

びくっとなって顔を上げれば。

キラキラする中、唯一闇で覆われていた真ん中の四角い部分に何やら浮かんでくるのが分かって。



「にやっ、こ、これはっ!?」


まるで子猫のように。

包まり丸まり眠る、白い白いもの。

思わず後じさったウィーカは気づかない。


その声が、魔力がきっかけとなって。

その真白な存在が、生き吹き返すかのように。

どくり、どくりと鳴動し始めたのを……。



   (第145話につづく)








次回は、2月11日更新予定です。

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