第143話、もしかしたら、その楔鎖を解き放つものを待っているのかもしれなくて
SIDE:クルーシュト
正しくも世界の中心にある、絶海の孤島『ショウヘイバ』。
イリィアとともに、ハナの導きのもとその場へと降り立ったクルーシュトは。
ハナの頼もしい仲間たちを引き連れ、ミィカやリアータ、ムロガたちとも合流しつつ。
スケルトンやグールなどを始めとする死霊系モンスターと会敵し戦いが始まる頃には、その場がガイアット家やオカリー家とって因縁深い場所であることを思い出す。
「……【ナイツ・ワルツ】っ!!」
「唸れぃっ、レインボーランスっ!」
「カカッ!」
「ぎょげぇっ!」
【雷】の属性を付与しつつ、血路を開くがごとくクルーシュトは闇(属性)の勇者であった父の十八番でもある回転切りを放つ。
その間、背中合わせでイリィアが、彼女にとっては大きに過ぎる刃の広い槍を軽快に振り回しカラフルな残滓生み出しつつ迫り邪魔する魔物たちをなぎ払う。
「姫さまはっ……くっ、すぐ近くにいることが分かっていますのに姿が見えませんっ」
「うーん。確かに杖のある場所もここからそう離れてない感じなんだよね」
「それって、もしかしなくても地面、下に何かあるってことなのかしら」
「ぶひぃっ」
「かぁっ」
相も変わらずハナロスでテンパったままのミィカであったが。
無詠唱で闇色の魔力の塊、【ゼリオ・ボム】をばら撒き向かってくるゴーストたちを吹き散らすの忘れない。
ムロガはムロガで、ハナの居場所を黒の本で検知しつつもちゃっかりついてきてくれていたクロに露払いをお願いしていて。
ムロガやハナのように召喚獣(彼女的には『式神』ではあるが)を呼び出すべきか、イリィアのように家に代々伝わる投槍をとって戦うか迷っていたところで。
無防備にもぶひぶひ言いつつ逃げ回っていたアピを捕まえ抱き上げたリアータは、
そのふわふわな感触とそれぞれの攻撃により道が開かれ、その隙ををついて距離をつめてきたクルーシュトの顔を見て。
そう言えばと、何故かこの場にいないというかいろいろあってすっかり忘れていて後でにゃんにゃん怒られそうねぇなどと思いつつも彼女に声をかける。
「クルーシュトさん! ごめんなさいっ、みんながいるのだからウィーカも呼ばれてるでしょうに、姿が見えないのっ」
「……っ。私もちょうど同じ事を思っていたのです。ここは私や彼女にとっては因縁深き場所ですから。ウィーならば勝手知ったるとひとり先行してこの島の中枢部、地下へ向かっている可能性はあるかと」
「地下! そうか。そういうことかっ。何だか妙に【金】の匂いがしていると思ってたんだ。
ここには、人の手によって作られた基地、ダンジョンのようなものがあるってことだね」
「つまり、そこに姫さまもいるということですねっ!?」
「ヒヒィンッ!!」
「ぴすぴすっ」
ウィーカがここに来ている可能性は高いだろうが。
お互いが失念していたのは、スクールまでの道のりが彼女の毛なみと同じ白一色の世界で。
みなが外に出ている時でも、自宅のぬくぬくで丸くなって寝こけていたからなのだろう。
一応呼び出しの際は、相手の意思、許可は必要とのことだが。
猫らしく夢の世界にいたウィーカにしてみればその辺りは曖昧だったかもしれない。
はっと目を覚ましたら、両親になるべく近づかないように口酸っぱく言われていた場所へと放り出されて戸惑っている可能性もある。
そう、それは戦乱の世。
過保護な親世代がまだ若かった、クルーシュトたちと同じくらいの年頃な時分。
この場を塒とし、国落としとも言われる覆滅の魔法器、魔導機械をもって世界を滅ぼさんとする魔人族の存在があった。
オカリー族……ウィーカの一族に成り代わり、世界の至宝の全てを狙い、果てにはクルーシュトの母やハナの母の命を一度害したとされる悪辣。
その場にいたクルーシュトの父曰く。
仲間たちとともに、怒りを込めた闇の雷と月の器もってその巨悪を討った、とのことだが。
妄執に歪むそれは、魔人族にして生ける屍、死霊の類であり、何度でも蘇るらしい。
その姿は正に、死霊の王。
ガシャと呼ばれる、この『ショウヘイバ』島のすべてをもってしても足らぬほどの……あるいはそのものとも言える髑髏で。
「よし、地下だなっ。ここは【地】の雄たる私に任せたまえ、【イアット・モール】っ!」
そこまでクルーシュトが考え込んで思い出したその時であった。
得意げに胸を反らしたイリィアが、手にした七色の派手に過ぎる槍を両手で振りかぶり、【地】の魔力を纏わせつつ回転を生んで。
ドリルめいたものを創り出しつつ、迫り来るスケルトンごと激しい掘削音を立てて吹き散らしたのは。
その瞬間、確かに地下に続いていたのか、破られたことで噴き出してくる地下の空気。
そこには、様々な色の違いもった闇色のもやが混ざっていて。
その中には、怖気そそるかの死霊の王らしい気配も確かにあったが。
何だかんだで結局いつもそばにあったまっくろな気配と。
『厄呪』と呼ばれるらしい、ハナの存在感をも確かに感じることができて。
「ハナ姫さま、見つけましたっ、今すぐこのわたくしめが参りますからっ!」
「ぐわっ、しまったァ。やりすぎたっ、地面が抜けてしまったぁぁぁーっ!!」
悪辣で蒙昧で巨大な髑髏が、一度目覚めたのならばこの封印の地でもある島ごと崩れかねないと。
クルーシュトが声を上げ呼び止める暇もあらばこそ。
ミィカを筆頭に周りの魔物たちごと、崩れ去った地面の下へと落ちていってしまって……。
(第144話につづく)
次回は、2月6日更新予定です。