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第14話、相棒の座……と言うよりも、居場所を守るという覚悟




「よし、ここいらは終わったか。……後は二件だな」

「いつもいつも思うけど、よくもまぁわれにゃいもんだ」

「そりゃ、そう言う手加減的な意味合いのある訓練だからな」

「相変わらず訓練バカにゃのね。あつくるしー」

「そう思うなら自分の足で歩いてくれてもいいんだが」



訓練、鍛錬、修行は嫌いじゃないが、日頃いろいろな意味で溜まるストレスを発散する意味もあったりするのだ。

お前のせいでもあるんだぞと抗議するも、ウィーカは尻尾でばしばしマーズの後頭部を叩いてくるばかりで、一向に離れようとしないのが性質が悪かった。


まぁ、最後の一軒はウィーカの本来の飼い主……契約相手の所と決まっているので。

一緒にいるのはマーズとしても構わないと言うか、懐いてくれている事自体悪い気分ではないわけだが。



「ガイアットさん家に寄ったら、一旦クルーシュトんとこへ帰れよ。彼女だって心配してるだろ」

「ないないね。どっちかちゆーと、いまごろハンカチかんでるところじゃない」



キリリ、清廉としたクルーシュトのそんな姿は想像もつかないが、ウィーカが言うならそうなんろう。

一度見てみたいぜ、なんて一人ごちつつ、マーズはスクール内にある『移動転移部屋』へとやってきた。


そこは、ユーライジア・スクールに通う者の中で許可を受けた者(依頼内容に含まれる)だけが入室を許される場所で、世界各地の主要国と繋がる虹泉トラベルゲートがいくつもある場所でもあった。




今この部屋で虹泉が駆動しているのは七つ。

七色の水は、行き先によって多少色合いが違っており、今回マーズが使用するのは、橙緑の色合いが強いものだった。

それを潜ることにより、ユーミール大陸のガイアット王国へと移動する事ができる。



「よくよく考えたらまーずみたいなキケン変へんたい人物にほいほい使わせちゃいけにゃいものだとおもうんだけど、どうにょ?」

「ふん。いけなかったら潜った先でとっくにどうにかなってるだろうぜ」



必ずしも変態や悪者だから、と言うわけではないが。

虹泉と虹泉をつなぐ空間には虹泉を守る怪物がいて、入り込んだものを喰らうことがあるらしい。


喰らわれたその先は、ここではない異世界と言うのがミソで。

覚悟とともに『その体験』を思い出し、マーズがしみじみとそう返すと、ウィーカは分かってないにゃあとばかりに肉球で頬を叩いてくる。



「そいゆーいみじゃないにゃ。まーずのようなおどるわいせつ物を重要な国々の中枢にほいほいいかせていいにょかってこと。どこの国もマーズには歓迎むーどで正直はらたつにゃ。もうちょっとちゃんとしにゃいから毒牙にかかる子がたくさん……ふぎゅっ」



卑猥で新しげな言葉を捏造するな、とばかりにマーズはウィーカの猫持ちポイントをぐむっと掴み、ぶらんぶらんさせる。

痛くはないのか、ほわーっと気の抜けた顔をするウィーカ。


日々是余計な口出しをするウィーカを止めるのに、実は一番だったりするわけだが。

傍から見れば確かにまぁ、あまり外聞のよろしくない光景かもしれない。




「ったく、オレといる時に限ってこれだよ」


下世話というかなんというか、それだけ気を許していると言われれば悪い気分ではないが、

こう見えてマーズは人の悪口にそのままダメージを受けるタイプなのだ。

あんまりいじめないでくれよ、ただでさえ虹扉の間って怖いんだから……などと思いつつぶらぶらさせたまま、マーズは虹扉トラベルゲート用の部屋を抜け、ある一点を目指す。




「おはようございます、今日もお勤めご苦労様です」

「おはようマーズくん。ウィーカさんも。ついさっきまで姫様もここにいたんだけどね」


『虹泉』の間を出てすぐにその入口を守護していた軽鎧の女兵士からの気さくな挨拶が降ってくる。


「うにゃん」

「あ、そうなんですか。タイミング悪かったかな」


人見知りで喋らなくなったウィーカを肩に乗せつつ、珍しい事もあるものだとぼやいてみせる。



「恐らく、虹の泉に関する寝物語を聞いて怖くなったんでしょう。マーズは大丈夫かなって心配してたんだけどね」


早く会いに行ってあげてと、警戒するばかりか確かにむしろ歓迎ムードが漂っている。

マーズは分かりましたと頷き、牛乳の入った保冷バッグを抱え直し、そのまま目的地へと向かう。



「警戒心がたりんのにゃ、しかもあのかっこ、ぜったいマーズをさそってるのにゃ」

「いやいや、ここの兵士さんはみんないつもあんな感じだろ。それに警戒していないわけじゃないさ。オレという人物に対しての信頼の証だね」

「ふとももガン見してたくせによくゆうにゃ」

「キラキラしてて目に入るんだよ、しょうがないだろ、うん」


今、マーズ達のいるガイアットと呼ばれる国は、その住人の大半がその身に宝石を一つくっつけた状態で生まれてくるという、『イシュテイル』と呼ばれる【地】の魔精霊(人型)達だ。


ガイアット国虹扉番のトリエさんは、右太もも付け根にルビーのような宝石を埋め込む形でくっつけているため、必然的に腿を出したスタイルになってしまう。


「ガン見なんてしてないし、チラっと見てトリエさんの健康状態を確認しただけだし」

「だったらおっちゃんのもかくにんするにょか?」

「何を馬鹿な、ありえないね」


……なんてツッコミと言いわけの応酬をしつつ、やってきたのはガイアット王城の最上階、見晴らしの良いところに構える一室。

ガイアットの姫の一人、イリィア・ガイアットの一室だ。



「イリィアいるか? 牛乳配達に来たぞ」

「……にゃ」


いつものように、きっちりノック。

だけどウィーカは、それから起こる事に警戒したのか、ぐっと身を縮めていて……。



    (第15話につづく)









次回は、6月10日更新予定です。

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