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第139話、それは自分のことじゃなくて、オニのように相手に強要すること


SIDE:マーズ



思えば、『げっと』される、従属魔精霊となることがステータスであるとされる魔物魔精霊界隈において期待の若手従霊道士のひとりであるハナ。

自らがマスターとなり、固定されたメンバー、自らが創り出した『式神』をもって戦うもうひとりの期待の若手、リアータと異なり、よくも悪くもハナは注目される立場であったことだろう。


そんな中、いち早く次代の根源魔精霊候補とも目される闇色の黄金竜ミィカが一人目として選ばれて。

プライドが高くてわがままで(あくまでも一般的な印象です)面白いことが大好きで、マスターであるハナをからかうのを生きがいとしていたミィカによって、ハナにつき従いし召喚獣の条件として、意思疎通のできる『人型』以上の強き存在……ではなく。

ハナの父である万魔のハレム王にならって、ハナというよりもミィカの好み、美しくて可愛くて面白いところがある美少女たちに限定されてしまった。


何だかんだで初めての友だちであるミィカに甘いというか大好きなハナであったから。

何だかよくわからないけれどミィカが楽しそうならそれでいいと、言われるがままだったわけだけど。

そんなミィカにとって誤算であったのは、傍から見れば『人型』以上の見目麗しい女性ばかりを周りに侍らせている王の中の王のようでいて、ハナの父が実は一部の例外人外を除いて男性が苦手なところがあっただけで。

一般的にイメージされるようなかわいい召喚獣……魔物魔精霊たちがともに過ごし家族となることで成長しレベルアップして、今の状況を作り上げたということだろう。


当然、そんな父の姿を見ていたハナにとってみれば。

悪気もなにもなく、実はそう呼ばれることすら嫌がっていたはーれむの王の解釈を勘違いしている部分は確かにあって。


ルーミやアピ、クロ(は狙っていたけど早い者勝ち勝負に負けて『げっと』はできなかった)はミィカ的にも可愛いから特に流されるまま違和感を覚えてはいなかったが。

真逆の意味で無垢なる乙女にしか懐かないバイあたりと、鼻息が荒いのにもかかわらずもふもふ仲良しでいるハナとの認識のズレに、ミィカは気づくべきだったのだ。

もうとっくの間に出会ったその瞬間から、ミィカとハナは友だちに……契約を終えていて。

闇色のドラゴンとなっている暇があったのならば、同じような状況に陥っているであろう存在にも。





(……そういやぁ、ハナたち自分で言ってたもんな。『まずは手始めにマーズ・カムラルをはーれむメンバーの一員に加える』って)


身体をマニカに任せておいて。

魂だけの存在……生まれたての魔精霊にも等しい存在となっていたマーズは。

ひとたび命を失った時、物や人につくことによってそのものの存在レベルを引き上げるといった、魔精霊の本能のようなものに従って、実際のところ真の魔精霊でもないのにハナの持つ月型の杖へとお邪魔したところまではよかったのだが。


その際勢いあまってハナが足を滑らせて海へ真っ逆さまコースだったから。

ハナやミィカの勘違い……実際はマニカを仲間にしたかったんだろう、なんてことは後回しにして。

勘違いとはいえ契約できていたから。

マーズはそんなことを呟きつつも、ちょっと失礼するぜとばかりに杖をつたってハナの内なる世界へとお邪魔して。



「【ウィル・オ・ナックル】っ!」


ちょっとだけ身体の主導権をお借りすると、ハナの父の必殺技、代名詞でもあった煌々と光り唸り大抵のものを粉砕する拳魔法……【セザール】魔法を繰り出した。

ハナの父は、それすら滅多に見せてくれることがなくて、あの変人怪人なマーズの父ですらお手上げで扱いに困っていたといった逸話を受けて大いに感心していた技のひとつである。


マーズ自身は属性が合わないこともあって使ってみたかったけど使えなかったから。

姫さまの内なる世界へとお邪魔してしまうことになってしまった罪悪感以上にわくてかしていたのは確かで。


文字通り光めいた速さで島の断崖へと突き刺さった光の小さな拳は。

轟音立てるもハナの拳をひとつも傷つけることなく、ちょうどハナが通れるくらいの穴を開けることに成功する。



(……むっ、流石に俺にも聞こえてきたな)


マーズ立ちが今いる『ショウヘイバ』と呼ばれる絶海の孤島。

その内部には、諸悪の根源が世界を滅さんとした魔導機械の眠るダンジョンが広がっている。


それを知っているのは、恐らくは実際それに相対した親世代の英雄たちを除けば限られているだろう。

当時この場所が戦場として活性化していた頃、ハナの母もいたそうだが、ただでさえ過保護な彼女らが大事な娘にそんな話をするとは思えなかった。


故にハナは、ここにきてようやくマーズにも聞こえてきた悍ましくも妬ましい、愛に溺れた呼び声に気づきここへとやってきたのだろう。


その方法まではわからなかったが。

その呼び声が求める相手はカムラルの、世界の至宝とされる存在である。

何がやりきれないって、その存在がその声の主が本来あるべき場所、『死の世界』へとかえってしまっていることで。

情念に歪む彼が、その事実にすら気づいていない、と言うことで。



(かといって、分かるとは言えねぇよな。マニカにはその顔すら見せたくねえし)


もう誰でもいい、というわけではないのだろうが。

生ける屍となっても感情に囚われ続ける魔人族の彼は、同じ種族であるカムラル家の少女たちをいつだって狙っている。

その分かりやすい魔力の波動が、少しでも漏れることがあれば、何度でも蘇って求めようとするだろう。


ハナはきっと、真っ先にそれに気づいて。

代わりになる……というよりは、何だかめっちゃ強そうだから『げっと』しに行こうくらいの心づもりでここへ来たのかもしれない。



(ふっふっふ。しかーし残念だったなぁ。そんな悲劇のヒロインムーブしてるから俺に気づかれとっつかれるのよ)



表向きの意味合いはともかくとして。

ハナとしては決死の思いだったのだろう。


しかし、そんな健気で悲愴な物語は始まらない。

何故ならばハナは。

世界から大いにズレている、ヒロインたちを悲しませないといった意味での『泣かない赤オニ』に取り憑かれてしまったのだから。


SIDEOUT



       (第140話につづく)









次回は、1月15日更新予定です。

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