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第137話、【月(アーヴァイン)】の形をしているから、それはきっと確定の茶番劇



SIDE:ハナ




「……あれっ? 声がまた聞こえてくるのだ」


勢い込んで背中押される形で飛び出していって。

ハナは、このどことも知れぬ場所に来てからというもの何故か聞こえなくなった誰かを呼ぶ声が、再び聞こえてきたのに気づかされる。



「呼ばれてきたのはいいけど、闇スケさんたちと遊んでいたからしびれを切らせたのかな」


一人飛び出したのはいいけれど、あても何もなかったから。

明らかにさっきまでのおどろおどろしい声とは違うとわかっていたのに。

ハナ以外の誰かを呼んでいたはずなのに、明らかにハナを呼んでいると気づいていたけれど。

ハナはお構いなしなのだぁ、とばかりにこれ幸いとその声の方へと駆け出していく。




始めの声は。

未だハナが知ることのない深く粘着性の高い感情……それを愛と呼んでいいものかどうかと思ってしまうくらいに真に迫っていたけれど。


今聴こえてくる声は、おどろおどろしさはあるものの、怖さがないというか、何だか聞いたことのある声で。

加えて、呼ばれてもいないのに割り込みするみたいに応えてしまった始めの声と違い、明らかにハナを求め呼んでいるので、何だかむずむずして恥ずかしい気持ちにもなって。

それを取り急ぎ解消するためにと、結局自らの足で背の高いヤブをかきわけぽてぽて向かうと。



「こっちなのだ、こっちから……って、うひゃぁっ!?」


それまでハナの背丈くらいあった緑色が、急に開けたかと思うと。

ハナの視界一面に広がる青と白。

陽の光を反射し波打つ海と。

風強く動きの早い雲たゆたう空が広がっていて。


その先は地面のない、崖であることに気づいたのはハナにとってみれば運が良かったとしか言いようがなかった。

面白リアクションする余裕もなく、悲鳴あげてすんでのところでたたら踏んで留まるハナ。



「おぉー、これがぜっかいのことーってやつなのかー。落ちたら痛そう。ううむ、でもよく考えたら、ここってお船で上陸はできなそうだな」


先ほどの野生の『虹泉トラベル・ゲート』なしではいけない、隠しステージ……ボスの潜んでいそうな孤島。

それすなわちハナにとってみれば、神型をも超えるともいわれる根源……『伝説』クラスの魔物魔精霊なにがしが、ハナに『げっと』されるためにと待ち構えているようなもので。



「でんせつの魔物はどこかな? こっちから聞こえたってことは、下かな」


間違えても落っこちないように、恐る恐る崖下を確認するも、島内ダンジョンへ続くであろう横穴のようなものは見当たらない。

ハナとしては、藪や森、岩山そびえる島の部分はいわばガワで。

内部にダンジョンがあるのだと予想、判断していた。


いつかどこかで耳にしたからなのか。

隠しステージのあるある、お約束だからなのか。

実際それは正しかったわけだが。

それを知る由もないハナは、ここではないどこかに横穴があるのだろうとそのまま外周を回ってみることにして。



「ん? なんだ、雲が急に黒く……いやっ、あれは!? なんてぢゃあくな闇色なんだっ」


空が、世界の空気、雰囲気が変わったのはその瞬間であった。

それまでピーカンに晴れ渡っていた世界に突如として生まれる黒い雷雲。

そこから、島にいたスケルトンたちのそれともまた一線を画す闇色の靄が、雲から千切れ出でて。

黒雷を纏いつつ、その勢いをもって島の方……ハナの方へと近づいて来るのが分かる。


当然、いきなりのことにハナは驚いてはいたが。

自然か必然か、勢い増すばかりで近づいてくるそれに対し、逃げようと言う気持ちは少しも起こらなかった。



「相手にとって不足なし! 受けてたとう、なのだぁっ!」


その代わりにと、意気揚々とそう叫び改めて『げっと』のための戦いの準備。

まさにこのために紆余曲折あったようななかったようなで手に入れた月型の杖を空に向かって掲げ上げる。


すると、その声に叫びに応えるようにして。

雷を吹き散らし、おどろおどろしい幽鬼の炎……やっぱりどこかで見たことのある姿へと変貌した闇色が。

もれなく直撃コース、寄り道することなくハナへ向かって……掲げ示してみせた魂の器へと。

一瞬、全ての音を置き去りにするかのごとき轟音上げて飛び込んでいく。



「ぬぅぐぉぉっ!? とばっ、飛ばされるぅぅっ。負けん、まけんぞぉぉっ!」


ぴしりと。

その時いやーな音が聞こえてきたが。

それがレプリカで本物を手に入れるまでの間に合わせ出会ったのはよくわかっていたから。

いざとなったら、炎の姫さまのように自らのからだを貸し差し出す心意気心持ちで。


とりあえず今は聞こえなかったことにして。

ハナは、月型の杖を両手で握り抱え直し踏ん張りをきかそうと地面に差し入れんとする。



「って、ぐわっ。しまった! じめんなかったああぁぁぁーっ!!」



しかし、そんな前のめりな姿勢がまずかったのか。

杖の先端は文字通り空を切って。

ハナは、もんどりうって月型の杖を。

大きに過ぎる頭を巻き込むように丸まりつつ。

激しく波打つ奈落の海へと落ちていってしまって……。



      (第138話につづく)








次回は、1月4日更新予定です。

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