表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

136/199

第136話、一度は言ってみたかった台詞に夢中で、時既に遅きに喫していることに気づけない



SIDE:ハナ



「ぐふっほぅ!?」


人より頭も大きくて、髪の毛もボリューミーで。

それ故に重いものを支えるのに、ハナの首は慣れている……

バイほどの大きさの魔物ならばともかく、ルーミやアピ程度の大きさならば容易に支えられる算段だったわけだが。

右左両側から髪の毛を引っ張られるどころか、持って行かれそうな重みを感じて。

ハナはいつものように面白い悲鳴を上げて、地べたに這いつくばるような体勢になってしまう。



「おーもーいぃぃぃっ!?」


今更ながらハナが思い出すのは、従霊道士が契約相手を召喚する際の細かで厳格なルールであった。

呼ぶ相手の都合を常に考え、呼ぶ時は魔精球などの経由地をつくること。

特にハナの父が頂点となる【アーヴァイン】の従霊道士が召喚を行う場合、まるで術者本人から生まれるかのようで。

とはいえ、恥ずかしいからとのことでハナは父が契約せし仲間たちを召喚するところが見たことがなかったから。

ハナは名を呼ばれ先んじて飛び出してきたバイたちと同じように、『みんな』の部分に反応して。

偶然か必然か、召喚に応じることのできた……出番がなくて暇を持て余していた『二人』が。

ハナから……正しくマジックバックのようにあめちゃんとかのお菓子を収納できたりする髪の中から飛び出してくることなど予想もできなかったことだろう。




「……むっ、この身軽さが取り柄な我に向かって重いとは、最も遠い言葉だとは思わないかね。あいぼーよっ」

「確かに、イリィアさんは羽のように軽いですが。呼ばれたのは私たちだけのようですし、緊急故に仕方なかったのでしょう。あ、ごめんなさい。ハナさん。今どきますね」

「普通に流されて褒められたな。相棒であること否定されなかったのは嬉しいが……って、すまない。常に上に立つものとしての自覚を持てとは言われているが、ひとさまを足蹴にする趣味はないのでな」

「イリィアさん、クルーシュトさんっ!」


契約はもちろん済んではいたけれど。

呼んでないはずなのにどうしてこのタイミングで出てきてくれたのか。

従霊同士のルールその2で、召喚する際は術者本人も精神的にも身体的にも余裕のある時に、といったものを失念していて。


名を口にしたバイたちだけでは心ともない……自分だけでは何もできないことをここ最近身にしみてよく分かっていたハナが、『みんな』へ助けを呼んだことが今の結果であるのだろう。




「ふむ。いきなり呼ばれて得物を手にする程度しか猶予はなかったがな。ハナ姫ひとりか?」

「あ、うん。呼んだみんなはいるのだ。ほらっ」

「ふふ。さすがハナさん。いつの間にかあんな可愛い子たちたくさんと契約できたのですね」


若干『かわいい』という表現でいいのかどうか疑問が残るものもいるが。

召喚主であるハナが次の召喚のために手が離せないことを察したらしく。

それぞれが勇ましく鳴き声を上げながら、すぐそこまできていた闇の衣纏いしスケルトンの群れと、一定の間隔を持って相対しているのが見える。



「ほう、闇のヴェールを着込んだスケルトンとな。上位種か。彼らだけでは荷が重かろう。そのために来たわけだし、助太刀する」

「イリィアさん余裕そうですね」

「まぁ、うちで見慣れている者たちだからな。そう言うあいぼーこそ、久方ぶりの実戦ではないのか?」

「そうですね。私の周りにも過保護な方が多くて。せっかくの機会で実はけっこう興奮しています」



ほとんどろくに準備もできずに呼ばれて、申し訳なくも状況判断するのにも大変であろうかと思いきや、

召喚に応じた契約者は、ある程度現状が共有、把握できるらしい。

妄執につかれ、死して尚その相手を追い求める声と、野良の『虹泉トラベル・ゲート』に引かれてどことも知れぬ場所へやってきて。


所在を把握するよりも早く、既に誰と契約を終えていて契約のできそうもない魔物たちとの遭遇。

この状況を打破するためには、場所を把握するのはもちろん、呼び出してきたその声の主を探し求める必要があるだろう。



「うむ、今こそここで宣言しよう。ここはわれらに任せて先にゆけっ」

「何か成し遂げたいことがおありでしたら、先を急がれるのをオススメいたしますわ。いつぞやの私のように消化不良にならないうちに、ね」

「ヒヒィンッ!」

「ぶひぃーっ」

「ぴすぴすっ!」

 


一度口にしてみたかった台詞の上位。

口にできて満足したのか、イリィアが先頭を切って駆け出していくことで文字通り戦いの火蓋が切って落とされるのが分かって。

 

せっかく呼んでそれに応えてもらったのに、ひとりで向かうのかと。

従霊道士の感覚的に、神型を相手にするレベルのやばそうな相手のところへ向かうのだからみんなについてきて欲しいんですけど、なんてとても言えない空気が漂って。



「おぉぅっ、わっ、わかったのだ!」


クルーシュトの言葉の意味を。

ひとりで先に急かす意味を然と理解できぬままに。


ハナは、大物の気配をなんとか辿りつつ。

月型の杖をふりふりどこへともなく駆け出していくのであった……。



     (第137話につづく)








次回は、12月30日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ