第135話、昨日の敵は今日も友って古いことばを歌いたくて
SIDE:ハナ
ハナは、人知れず身代わりとなるために……ではなく。
どこぞの世界の至宝のように、自分の一番を取られそうになって。
すねた挙句その場から逃げ出す際に見とがめられないように気配を消すためにとその黒もや……
普段からだだ漏れであった『厄呪』を無理くり押さえ込んでいたわけだが。
そう言えばと自覚した途端反動がぶわっときて。
辛抱たまらなくなって開放したら、その効果は正にばつぐん。
故郷であるサントスール王城の敷地内では比較的よく耳にしていた、ハナにとってみれば従霊道士の契約もできなかったし、上手く仲良しになれなかった、ハナ的に言えば『やみのぐんだん』の気配がして。
「「「カカカカッ!」」
「うどわぁっ!? そんな気はしてたけどっ、してたけど!」
どこから声を発しているのか。
いかにもらしい、そんな骨を打ち鳴らすかのごとき声が複数聞こえてきて。
案の定どこからともなく現れたのは、故郷に屯していたものとは違い、『厄呪』によく似た闇色のもやだけをまとわせた裸一貫なスケルトンたちであった。
「ぬっ、うちにいたのとちょっと違う? ほねの色もちょっと黒いし、よろいすら着てないし。何だかなかーまっぽいもやだしてるし。これはもしかしなくとも、まとめて契約でき」
「「「カカカカカァッ!!」」」
「ぎょわぁっ、もんどむよ、無理ぃぃっ!!」
『やみのぐんだん』。
ハナの父ですら仲間としたのはかつての戦いで散った、『ブレイブ・ハート』などと呼ばれるたったひとりの雄なる戦士しか仲間にしたことのない、生ける屍やがい骨に生まれたての【闇】の魔精霊がとりついたといわれる魔物たちの総称である。
ハナとしては、見た目や衛生的な観点以上に、生まれたての子供だからなのか、話が通じないのが契約できなかった最たるもので。
ほんの一瞬だけ期待したけれど、ハナ自身とよく似たいかした闇色のヴェールだけをまとったセンスに期待していたけれど。
さすがに無手ではなかったらしく、正直触っても大変なことになりそうなそれぞれの得物を問答無用で振り下ろしてくるから。
ハナはまろび転がりつつもそんな声上げて、見た目以上の速さで彼らと反対側へと駆け出していく。
「「「カカカカッッ!!」」」
「うわぁっ、はやっ! みんなでよってたかってはずるいのだっ。こうなったらこっちも! アピ、バイ、ルーミっ! みんな助けてぇーっ!」
本来ならば、召喚される側の都合もあるので、呼ばれた契約者はいったん魔精球に待機してもらって、準備オーケーならばそこから出てきてもらうのが、従霊道士の召喚バトルとしてのルールではあったのだが。
普段からそんなルールもろくに守ってなかったどころか、従属魔精霊や魔物同士のバトルですらろくにしたことのなかったハナは。
魔精球を手に持つことすらなく、手に入れたばかりの月型の杖をぶんぶん振り回しつつそう叫んだ。
気が急いていたこともあって、大分焦ったハナの、色々と適当になってしまった言わば従霊道士の詠唱とも言えるそれ。
呼ばれた方としては、呼ばれて飛び出そうにもおかげで出口が見当たらない様子だったのかもしれない。
「ぬぅおっ!? お、おもぉっ!」
しかしそれも一瞬のことで。
ただでさえボリューム過多な亜麻色の髪に纏められし魔力の通った紐がばちんと弾けとんだかと思うと。
いにしえの魔物魔精霊の終の棲家であるというモンスターバッグのように、どう見てもハナには支えきれない大きさの契約済みモンスターたちが次々と飛び出してくる。
「ぶひっ」
「ヒヒィーン!」
「……すぴすぴ」
正しく呼ばれた順に、『クリア・ピッグ』のアピ。
『エクゼ・バイコーン』と成ったバイに、気づけば『アルミラージ・ヴルック』と成っていたルーミの三体。
飛び出してきたのが、ハナの髪からだったこともあって、特にバイの大きに過ぎる黒い身体に半ば潰される形でアピにもルーミにもじゃれつかれてまとわりつかれる始末。
「ちょい、ちょおっ、嬉しいけどそれどころじゃないんだって! ばとる! きみにきめたってやつなのだぁ!」
「ヒヒィン!」
「ぶぶひっ」
「すぴっ」
ばたばたもふもふしながら、従霊道士としての命令をなんとかこなすハナ。
ルーミ……うさぎさんってそんな鳴き声だったのかと今更ちょっと感心しつつも、それぞれが任せろ! とばかりにすぐにハナとのじゃれあいをやめて。
対戦相手? らしき気配が近づいて来ることに気づき、ハナの前に立ちはだかるようにと、可愛らしくも凛々しく(あくまでハナ視点)戦いの準備を整えて。
それに合わせるみたいに、聴こえてくるのはハナのものとは違うらしい闇もやをまとったスケルトンたちの行軍……骨の軋むような音。
「おぉっ、なんだろう。なんだかとってもわくわくするのだ」
仲間になった魔物魔精霊プラスアルファと、相手となる『敵』役との『ばとる』。
父が従霊道士の頂点、万魔の王などと呼ばれていたのにも関わらず必要に駆られない限り戦いの際には自ら戦っていたこともあって、
それを実際にハナは見たことがほとんどなかった(父は『ばとる』が苦手というか好きではなくて、むしろ母の方がよくその代わりにみんなと模擬戦などをしていた)から。
思わず気勢上がって楽しくなってくるのが止められないハナである。
そういった意味でハナは、母親似なのだろう。
ツッコミ兼視点役なマーズがいれば、むしろ万魔なハレム王こそが乙女で姫様っぽいんだよなぁ、なんて解説が入るところだろうが。
「……っ!? ぐへぇっ。こ、今度はなんなのだぁ、めっさ重いぃぃぃ」
そんなフラグを立ててしまったのがいけなかったのか。
やはり、従霊道士としてのルール、詠唱がうまくいってなかったからなのか。
ずぐんと、音が鳴るみたいに二つ。
ハナの頭が大きく重く痛みのようなものに軋んでいって……。
(第136話につづく)
次回は、12月25日更新予定です。