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第134話、それは身代わりの冒険心などではなく、思わず逃げ出したくなるほどの



SIDE:ハナ




「……はうわっ、ボクのいないところでミィカが面白いめにあってる気配っ」


一方その頃のハナは。

氷の小悪魔とその相棒である世界の至宝と呼ばれる火の姫さまが、闇の龍と相対せんとど派手に登場したことをいいことに、こっそりひっそり抜け出したつもりであったが。


そんなハナがいないと言うことにあっさり気づかれていたなどとは思いもよらず。

その代わりに、自分がいない間に面白大好きな、ミィカ自身がその憂き目にあっていることを感じ取ってがばっと起き上がる。



「んっ? って、あれ? ここってどこなのだ? ボク、何してたんだっけ」


一体いつの間にやら寝こけていたのか。

ボリュームのありすぎる亜麻色の髪をばっさばっさと振って土埃やら葉っぱやら、虹色の残滓やらを振り払い落とすと。

改めてハナは、どことも知れぬフィールド……森茂る野っ原を見渡してみる。



「虹色……いや、十二色の水のようなもの、か」


ハナ自身、今立っている場所がどこであるのかは分からなかったが。

偶然か必然か、水のようでそうではない、『虹泉トラベルゲート』内を流れる色とりどりなかけらを見つけ手に取り触っていくうちに儚く消えていくのを目の当たりにして。

自分が何者かの『声』に呼ばれ導かれるようにして、抜け出したその先にいわゆる野良の『虹泉トラベル・ゲート』がふわふわ浮かんでいたことを思い出す。


 

「のらの虹泉って初めてみたのだ。ダンジョンとかにあるって聞いてたけども」



見つけたと。

会いたいと。

助けて欲しいと。

もう一度、笑って欲しいと。

 

言われたのはきっと間違いなくハナではなかったが。

ハナが『げっと』するつもりだった闇色のドラゴンはどうやら火の姫さまに取られてしまいそうだったので。


それじゃあその代わりというわけでもないけれど。

間断なく聴こえてくるその言葉が、言葉面の良さげな割に、危険なものを感じたのは確かで。


ドラゴンの子どもを『げっと』するためには危険を冒してでもドラゴンが棲むダンジョンへ潜るべきだという父……ではなく。

冒険家で商人で魔法使いになりたかったかつての世界の至宝の格言にならって。

今度こそは一番乗りだと、ボクが『げっと』するのだと、溢れにじみ出るハナの気配……『厄呪ダークサイド』を、無理やり押さえつけてでも一人飛び出したわけだ。




「うーん。呼び声に従ってたら虹泉がぽっかり空いてたんだっけ」


今度こそ一番やりだと、取るもの取って飛び込んでいったのははっきりと思い出せる。

普段使いしている、入口と出口が屋根のある小屋や教室になっているいつもの『虹泉トラベル・ゲート』とは違ったからなのか、すぐさまぐるぐるになって意識を失ってしまい、そのまま弾き出されて今に至ると言うわけである。



「やってきた虹泉さんは……いないか。どれくらい寝てたのやら」


虹色……12色の残滓も風にさらされ消えていってしまったから。

退路は絶たれ、髪の毛まとめて逃げ出すこともできない。

ついでに、あんなにも強い感情を持って呼び出していたはずの声も何故だか聞こえなくなっていて。


こうなったら仕方がないと、何をするにも動きづらくなる髪を、冒険するつもりでもってきていたマジックバックから結び紐を取り出し結い上げて。

更にいつでも投げられるように『魔精球』を三つほど。

こんなこともあろうかとというか、カムラル邸に可愛い杖をもらいに行ったけど目的が達せなくて。

装備なしでミィカ……闇のドラゴンに挑むのも忍びないとムロガからいただいた、フレンツ家謹製の魔法杖を取り出す。



「お月さまがとっついてる。なかなかに、いいね」


父方の家名でもある『アーヴァイン』の教会架をイメージしたものとのことだけど。

それどころじゃなくて割愛されてしまったが、ハナ自身よりもリアータが欲しがっていたのが印象的だった。


なんでも、祖父母の馴れ初めな品に、よく似たものがあったらしい。

『月の器』などと呼ばれるそれは、『魔精球』に近しい力を秘めていて。

魔精霊をその内に留めることで、最上級の武器へと昇華することができたのだとか。

ムロガ曰く、杖として魔力の伝導率向上以外に獣型よりも幼い、生まれたての魂のごとき存在ならば留めるくらいはできるだろうとのことで。


 

ハナは、紐付き魔精球をバックにひっつけてぶら下げつつ。

利き手に月型の宝珠のついた杖を装備して。

それをくるくる、ぶんぶんと振り回し上下させながら改めて今いる場所がどこであるのかを把握するためにと歩き出す。

その際、息を止めるようにして何もしてなくても漏れ出ていた『厄呪ダークサイド』のもや的なやつをぷはぁっと解放するハナ。


ハナとしてはやむにやまれずで。

辛抱たまらんとばかりに、ミィカがいない状態での普段通りに戻しただけだったのだが。



正しく、それがスイッチとなったのだろう。

それまでは、虫や鳥の気配すらしないくらい静寂に包まれていたのに。


がしゃり、がしゃりと。

外気に晒されて甲高く軋む、そんな骨と骨がぶつかり合うような音が聞こえてきて……。



     (第135話につづく)








次回は、12月19日更新予定です。

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