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第132話、鬼と姫の居ぬ間に、物語はクライマックスへ



Girls Side



魔王城の威容に相応しき、【エクゼリオ】の魔力纏わせた黄金の龍。

故とタイミングがあってかけつけることのできた少女たちとの決戦……力試しは。

金色のドラゴン……ミィカの親御さんによる授業参観のごとき生暖かい見守りによって、そのまま自然消滅しかけたが。

 

ミィカママ、マイカの僅かばかり苛立ちのようなものを含んだ呟きとともに。

内側から見ると、それまではほとんどその存在を主張してはいなかったスクール内を覆う薄桃色の結界が揺らぎ撓むのが分かって。

その瞬間確かに、白けて凍える外気が入ってくるのを、ドラゴンなミィカは感じていた。



(うぅ、寒い。身体が大きくなったせいでしょうか。ドラゴンが【ルフローズ・レッキーノ】、寒さに弱いのはやっぱり世界共通なのですかね)


内心ではそう呟きつつも、龍の唸り声を漏らし顔を上げると。

風が吹きすさぶ方向から、ひとりの人物が文字通り結界を抜けて飛び込んでくるのが見えた。



「マーズ! ……って、あれ違う? マニカさん? それにしてはちょっと雰囲気が」

「そんな気はしてたけど、ルキおじさまもいるわね」

『ふぅむ? カムラル家に長らく仕えていたと言われる最上級の魔精霊さんですか。小さすぎて気づきませんでしたよ』


ルッキー本人の言によると、彼はこうしていたずらに白き世界を創りだすまでは、魔王城内にて引きこもりをしていたらしい。

その割には彼の姿を見たことがなかったのは、ここ最近ミィカが寮にずっといて帰っていなかったせいもあるだろうが。

大きに過ぎる碧の瞳でまじまじ見れば、どこをとってもひとをくって陥れるのが好きそうな小悪魔な佇まいである。

両親の話題にも上った事がなかったから、ついて出るその言葉のほとんどがホラであると判断してもいいのだろう。


それより何より、そんな小悪魔なおじさんを肩に乗せて、翼もないのに風を纏ってこちらに向かってくる少女の存在である。

夜に『ナイト』として現れ、後によりにもよってマーズの妹と名乗る美少女、マニカ。

いつぞやのように仮面とマントを身につけてはおらず、スクールの制服(しっかり女子用)を着ているせいなのか、確かに印象より幼く見えて。



「おらぁぁぁーっ、ちょいと邪魔するぜえぇぇっ! ゆくのだぁ、マニカよっ!」

「えっ? わ、私ですか? って、あれっ? なんで外に出て……って、きゃぁぁっ!?」

「うごおぉわぁっ!?」

『……あら? もしかしなくともマニカさん、出てきてるのにお気づきになってない?』



本当はこうやって突っ込んでいく意味はもうないのだけど。

ノリと勢いだけでやってきました、とばかりのルッキーに。

ミィカの言葉通り、いつの間にやら身体の主導権を得ていた……マーズが離れてしまっていることに気づいたらしい。


生身であると自覚した瞬間。

それまで巧みに操っているようにも見えた【ヴァーレスト】の魔力、そのコントロールを失ってしまって。

そこに更にミィカのはない……ドラゴンブレスに圧されて墜落していってしまって。

 



「わ、わわっとと」

「むがふっ」

「危ない! ……って、あら? ハナさんは?」

『……えっ? ひ、姫さま? 一体どこへ?』



弾丸のように弾け飛んできたルッキーをムロガが。

初めは動揺し悲鳴上げていたけど、すぐに気を取り直して風を纏い直したマニカが向かってきたので注意を促すためにリアータが声を掛けようとして。

そこで初めて、目まぐるしく展開するも、そう時間は経っていない間にハナの姿がないことに気づかされる。

 


突然現れたマニカたちに、そこにいる皆が注目してしまっていた、僅かな隙。

それでも、終始見守っていた両親ならば何が起きているのか分かっていたはず。

そう思い、身体を折り曲げてなんとかそちらを見やると、巨人族のごとき父が、子どものような母を包むように抱きしめ……ではなく、暴れて今にも飛び出していきかねない様子の母を羽交い締めにして引き止めているのが見えて。

ちょうど今の今までのミィカのように、【エクゼリオ】の魔力が暴発して『もうひとりの自分』へ変わろうとしているようにも見えて。




「いいから、はーな~せーっ!」

「駄目だ。ミィカと違って意識すら飛ぶだろ、ここから出たら」

「ちょっとちょっと、母さま、父さま、二人がいて姫さまから目を離すとは一体どういう了見ですかっ!」


かっとなって何かのスイッチが入ったらしく。

自身でも気づかないままに元の姿に戻ることができたミィカは。

同じように落っこちていきつつ、転がり受け身を取ると。

なんだかんだでこんな時でも仲睦まじく見えなくもない両親にくってかかる。



「……っ、ハナちゃん? いない? ま、まさかっ。きゃつの視線に気づいてっ!?」

「母さまも気づいてなかったのですか? 彼奴とは?」


かと思ったら、母中心な父はともかくとして。

母マイカにとって忘失し暴走しかけるくらいの何かがあった。

正しくはかったかのように、結界にほころびが生まれた瞬間、我を忘れるほどの存在……既にこの世にいないはずの不倶戴天に気づいたようで。




「……ルッキーよ。これがお前がしたかった事なのか。さすがに、悪戯ではすまされんぞ」


ミィカがそんな父に答え求めんと問いかければ。

久方ぶりに見る、父の時をも凍る厳しい表情と言葉。



「わ、わわっ」


皆に注目されて。

偶然抱え込むこととなったムロガが狼狽えて腕の力を緩めると。

鼻息に弾き飛ばされたことなど端からなかったかのように。

負けじと不敵な笑みを浮かべて、再度ゆらりと飛び上がる氷の小悪魔がそこにいて……。



   (第133話につづく)








次回は、12月8日更新予定です。

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