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第131話、かつての不倶戴天な仇敵ですら、過保護のために



SIDE:マーズ



ユーライジア・スクールの敷地内の中でも、特段重要とされる場所を覆い守っているとも言われる、セザール家御用達の破邪……あるいは、破魔とも呼ばれる、限りなく透けて見えるほどの薄さがウリの結界。

邪なるものを通さず、選別し弾き、あるいは内に閉じ込めるもの。



親世代が学生の時分、現役の英雄ステューデンツだった頃には。

スクール自体が戦場となることもあって、度々活躍の機会があったシロモノである。


平和となった今であっても(連日様々な事件は起きているが、それこそふと気を抜けば魔物が襲ってくるような当時に比べれば温いとはルッキーの弁)、その効果と使用途に変わったところはなく、魔精霊で言うのならば神型クラスの存在ですら拒み、『クリッター』ですら易易と侵入することは叶わないものではあるが。

それを維持し、または展開し発動する存在がいることは、その当時味方にすら知らされてはいなかったという。



開発者のひとりとされている、リアータの父ならば知っていたのだろうが。

当然そのような事など知る由もないマーズにとってみれば、爆発しろーなどと氷の魔精霊のくせに訳のわからない言葉を呟きつつ、突然羽ばたきを強くして、よくよく目を凝らしてみれば見える薄桃色の結界に向かって突貫していくルッキーの行動には。

内なる世界でモニターしているマニカとともに、ただただいきなり何をと見守ることしかできなかったが。



「おらァ! ルフロオォォズ・ミサイルゥゥゥッ!!」


ルフローズ・レッキーノ】……蒼銀色の魔力を沸き立たせて、白の世界を吹き散らして。

拳ひとつを前面に押し出して、弾丸となって突っ込んでいく様は、ここ最近の小悪魔的マスコットなイメージを払拭するくらいにかっこよかった。

派手なパフォーマンスが大好きな種族であるからして、ただ結界を破るためだけにこのような行動を取ったのだと言われても、まぁ納得できるところはあったのだが。


「ぐげっ!? ぐうぅおおっ」


ガイーン! とその見た目に反して随分と硬いものと硬い者同士がぶつかる音がして。

あえなく弾き飛ばされたルッキーは、見た目で想像できそうな潰れた悲鳴を上げつつもんどりうって悶え転げまわる。


(わわ、すごく。痛そうです……)

「うーん。ルキおじさんのことだからあんな風に体張ってまでのリアクションはしないと思うんだが」


目立ちたがり屋だけど、どこかヘタレなところのある彼だから。

ああして、体全体使って突っ込んだからには、結界を打ち破れる自身があったのだろう。

それが、何故だかよこしまなるもの判定されてしまったらしく、弾かれてしまった。

 

……そこまで考えて、マーズはどうしてわざわざ結界を破る必要があるのだろうと、ルッキー的には本末転倒なことを考えてしまう。

まるで、何かに合図を送っているかのような、派手に過ぎる行動と相まって、何か意味があるのだろうと考えて。


(それじゃぁどうして、あのような行動を? あの薄桃色の膜って普通に通過できますよね? 私が外に出て『ナイト』として寮にお邪魔した時も、特に問題なかったと思いますが……)

「それはマニカ自身が邪とはまったくもって縁遠い存在だったからだな、うむ」


『夜を駆けるもの』の格好をしていい感じの夜更けとかに女子寮に潜入だなんてけしからん。

……ではなく、純粋に友だちのもとへ遊びに行こうと思い立ったマニカでなければ、きっと目前のルッキーのように、ひどいことになっていたはずで。


そう考えると、やっぱり見た目よろしく、ルッキーは何やら邪な悪巧みをしているのだろうか、なんて思い立っていると。

二人して、ほとんどジト目で(マニカはきっと、きらきらの瞳であっただろうが)見ていたのにルッキーは気づいたらしい。

それまでごろごろ転がっていたのがなかった……とまではいかず、ふんぬらばと歯を食いしばって起き上がり、諦めるわけにはゆかぬ、とばかりに再度翼をばたつかせて、薄桃色結界に突貫していって……。




「うおおーいっ! 開けろ、開けてくれぇ! 開けてくださいお願いしまーすっ!!」


先ほどマニカが言ったように、そんな風に恥も外聞もプライドもかなぐり捨ててジャンピング土下座しなくとも結界を素通りできるはずなのに。

(たとえ、小悪魔モードなルッキーが入れなくとも置いていけばいいのではとは言ってはいけない)


惚れ惚れするくらいに慣れた仕草、作法を見せるルッキーに。

そんな疑問が浮かぶよりも早くやっぱりきょうだい揃って感心していると。

それが功を奏したのか、ルッキーが低頭しているすぐそばの結界が蠕動して。

ぴしりと亀裂が入り、それはちょうど扉のような形を取りつつ、ルッキーの声に応えるように開かれていくのが分かって。



『ほらほらーっ、わいしょーかわいいみなさん。かかってらっしゃーい』

「ひぃぃっ、怒んなよマイカーっ! これも必要なことなんだって!」

(わっ、これがドラゴンの歌声ですか。魔力的な力もありそうですね)



その瞬間、どことなくイラっとしなくもないドラゴンの咆哮とともに、そんなひとをくったようなミィカの言葉が内側の空気とともに流れてくるのが分かったが。


何故だかルッキーもマニカも、そんなほっぺた両側伸ばしの刑にしたくなるミィカの声は聞こえていないようで。



その理由はよく分からなかったけれど。

聞いていたより、ミィカの方は問題なさそうなのかとマーズが判断したその時だった。




―――ミツケタ。ヨウヤク……ッッ!!




「……っ!?」


ぞくりと、背中に氷を落とし込まれたかのような。

悍ましい舌に舐め上げられたかのような、妄執に狂う声が聞こえてきて……。



   (第132話につづく)








次回は、12月2日更新予定です。

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