表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

130/199

第130話、真白に覆われし結界は、死してなお愛に狂うモノのために



SIDE:マーズ



マーズは駆ける。

妹のマニカを内に抱きながらも、小悪魔のごとき見た目をした【ルフローズ・レッキーノ】の魔精霊を追い越し置き去りにして。

目的の地は、マーズたちにとってホームであるはずの、スクール内にある魔王城へと。




「おっ、おいちょっと待てって! どうせなら乗っけてけっての!」


白銀の道筋が指し示すその場所。

おかげで迷うことはないからと。

そうと決まったらとばかりにマーズはそんな風に肩乗りマスコットを主張してくるルッキーを。

半ば無視する形で『ヴァーレスト』の魔力をまとわせ、遠目からでもはっきり見えてきた『エクゼリオ』のドラゴンのもとへと向かう。



『兄さま……怒ってます? ルキおじさま置いていってしまうのですか?』

「はは。やっぱりマニカには筒抜けだよな。いや、俺の……俺たちのためにルキおじさんが労を割いてくれて色々用意してくれたのは分かってるんだ。だけど、俺以外が、みんなが傷つくようなことはちょっと我慢できない。自分でも少し前に似たようなことしかけてたから余計にさ」



後は単純に、ふところマスコットのごときの扱いをおじさん相手にしたくないというのもあっただろう。

ここ最近は、カムラル邸やヴァーレスト家にもよりつかず、ずっと魔王城に……エクゼリオさん家に引き篭っていたルッキー。


実は根源のひとりであるからして、世界の維持のため、黄泉の世界へと戻っていただなんて、嘘か本当か聞かされていたが。

蓋を開けてみれば、レスト族の『剥離』、『分離』について、父や叔母と同じように悩んでいたマーズのことを鑑みて。

親世代からの修行に明け暮れすぎて、もはやそれらを促してくれる脅威、強者が近くにはいなくなってしまっていたからと。

マーズの危機感に届きうる存在を探していたのだろう。


『やはり、あの闇色のドラゴンさんは……ミィカさん、なのですか? そのおっしゃりようですと、まさかルキおじさまがきっかけだと?』

「どうだろうな。あそこにはミィカの両親もいるわけだし。……いや、ルキおじさんは同期で仲が良いって言うし、その油断をついたのかも」



ミィカを、あるいは『厄呪ダークサイド』持ちのハナをそれとなく焚きつけて、ミィカの内なる世界に眠る【エクゼリオ】を呼び起こす。

ミィカの内に眠る『もうひとりの自分』が覚醒しかけたのは、ラルシータでの始まりの魔導人形に憑きしマーズの姿を垣間見たことであると。

ラルシータから帰還してすぐにカムラル邸に向かっていたマーズたちには気づけようもなく。

故に、快楽主義でほとんど見た目通りの小悪魔なルキおじさんならばやりかねないと二人で思い立ったわけだが。



「おいおいおいおーぅいっ!! 人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇぞおおぉっ!」

「うおっ」


自由奔放に見えて、スクールの周り、魔王城へと続く通学路を真白の世界へ変えてしまった責任感があったからなのか。

なんだかんだでさすが師匠のひとり、あっという間にマーズたちへと追いついてきてぐるぐる旋回しながら抗議の声を上げるルッキー。


常に喋っていなくては儚くなってしまう勢いで語るところによると。

ヴァーレスト家のお目付け役を自称するルッキーは、レスト族が抱える問題を解決に導くために、マブダチで切っても切れない縁を持っているという、ミィカの両親にマーズを揉んでやってくれと頼んでいたのだと言う。


「いやいや。揉むも何も、元理事長と校長先生には時間が空けば鍛えてもらってたけども。まぁ、スクールに通うようになってからは大分機会も減ってはいたけどさ」

「何っ!? そ、そうだったのか。ってか誰彼構わず師匠にしてねぇ? もしかして親世代全員とは言わねーよな?」

「全員かどうかは。会ったことのない人もいるだろうし」

「かぁーっ! おめぇさては剥離分離を……いや、結局のところ妹ちゃんを独り立ちさせる気ねぇだろう?」

(えっ? そ、そうなのですか? それはその、嬉しいですけれども……)



引きこもって姿を見せなかったとはいえ、魔王城にはいたはずなのだからその辺りの事情は知っていておかしくなさそうだったのに。

ルッキーは、初めて聞いたとばかりに誤魔化しつつ話題を逸らして、痛いところをついてくる。

もしかして、引きこもって城内にいたというのはブラフで。

冗談として一笑に付されている本当は根源魔精霊だから云々が真実だったのか、なんて過ぎったけれど。

逸らした話題が、この先を考えるにいい方向に進んでいきそうだったから。

とりあえず、世界の根幹に関わるようなことは置いておいて、マーズはマニカへ向けて話しかける。



「ぶっちゃけてしまえばそりゃそうだよ。大切な妹が、マニカが世界の礎となるくらいなら俺が変わりたいさ。無垢なる乙女じゃなきゃ駄目ってんなら、俺がそう変わればいい」

(兄さま……)


あるいは、わがままを言えば今みたいにずっと自身の内なる世界で安寧に過ごして欲しい。

そしてたまには、夜の世界でストレスを発散してもらえればいい。


祖母の時のように、代わりを務めることとなったセザール家やアーヴァイン家の人たちに苦労をかけるくらいなら、それこそ冗談めいた性転換の魔法でもなんでも、異世界へ行ってでも探しに行く腹積もりはあったが。



感極まりつつも、守られ内なる世界に篭っているだけではいけないといった、マニカの苦悩も伝わって来る。

故にこそ、やはり口にすることはないが。

むしろこの身体はマニカに返して、いつぞや試したように、マーズの方がマニカから離れるつもりでいて。



「あーもー、まどろっこしぃぃっ! これだけはやりたくなかったが、背に腹はかえられねぇってかァ!!」


そんな内心に気づいたのかそうでないのか。

うちうちでいちゃいちゃしてんじゃねぇぇぞ! とばかりにいがいがと暴れ出したルッキーは。


二人のやりとりの隙をつくようにして先行するように蝙蝠羽を使って飛び出して。

スクールとスクール下町の境。

よくよく目を凝らせば薄く薄く貼られている、桃色の『破魔結界』めがけて突貫していって……。




      (第131話につづく)








次回は、11月27日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ