第127話、すべてをおいて、踵返し闇竜顕現しうる魔王城へ
Girls SIDE
ちょうどユーライジア・スクールの周りを覆う形となっていた、雪の世界。
その白い世界の跡は、カムラル邸まで続いているようであったが。
よくよく見ると、その範囲は思ったより広くはなく。
メインとなる(校舎棟や、寮棟、魔王城など)スクールの敷地をぐるりと覆っているようには見えたが。
それ以外は、リアータの言う【氷】のおじさん……小悪魔めいた存在が通りすぎた証拠であるかのように白が点々としていて。
「とりあえずのところ、目的地は一緒みたいだし、行けば会えるのかな。いや、まぁ。僕としては会ってどうってわけでもないんだけど」
「えー、ボクとしては【氷】のひとと契約したいなー。だって、根源さんなんでしょ?」
「そう言い張っているのは本人だけなんだけどね。私としては、その見た目はともかく嘘じゃないとは思っているわ」
状況に流されて、ハナとしては目的が徐々にすり替わっていっている自覚はあったが。
リアータがそう言うのならば、きっとそうなのだろう。
ムロガは、それだと世界は狭いというか、近くに根源さんばっかりになってしまわないかなと半信半疑な様子だったけれど。
元よりカムラル邸に用があったから、もののついでだと三人揃って向かわんとして。
まさしくそれを引き止めるみたいに。
雪白の世界に閉じ込められしその向こうから、凄まじい魔力の奔流が……
逃げ場所を求めるかのように、天へ天へと上がっていくのを背中にびりりと感じて。
だけどその【闇】の魔力が、ハナにとってみればいつも近くに在ったものだったから。
それに気づいて振り向いたのは、誰よりも早かった。
「……ミィカ?」
「え? 何あれ。次から次へと何が起きてるの?」
「魔力の開放? いえ、あれはどこかで見たことが……って、ハナさんっ!?」
翻って天からの闇色のスポットライトのようなそれ。
続くのは、どこかはかり知れない、魂の震える咆哮。
人知超えうるそれに、ムロガは飛び上がり、リアータは何故だか両親……母が怖い方のお母さんに『かわった』時のことを思い出していて。
その名を呼び、引き寄せられるように踵返して駆け出していってしまうハナに少しばかり遅れをとってしまう。
「ちょっ、ハナさんっ!? 急にどうしたのっ?」
「ミィカなのだっ、ミィカが呼んでるっ! あれはミィカの声なのだっ。ボクが側にいないからっ、直ぐに戻らないとっ」
「……っ、待って! 何かが、何かが出て来るわっ!」
そう言いつつもまろび転がる勢いで引き返すハナが止まりそうにないのは分かったから。
すぐさま二人してその後を追いかけつつ、闇色の天柱立ち上るその下から生まれ飛び立たんとしている存在を指し示す。
「……黄金の、竜っ!? あ、あれってもしかして伝説の……ほらっ、大昔の『建学祭』の時のドラゴンっ!?」
「【闇】の根源、大事なひとが失われたことによって生まれた怒れる竜、だったかしら。……って、ハナさん聞いてないしっ」
「急がなきゃ、急がないとっ。あんなにも目立っちゃったら、退治されちゃうっ」
この世界、ユーライジアは。
12の根源魔精霊と、その下につくとりどりの魔精霊たちによって創られているとされる。
それは誇張でもなんでもなく、12の根源は生と死の世界、二手に分かれて時折入れ替わりながら管理しているのだ。
一年に一度、同属性ならば六年に一度根源は在る場所を変えていく。
それにあわせて、スクールでは毎年『建学祭』と呼ばれる神事を行っていた。
それは、六年ぶりに顕現する根源を盛大に出迎える意味合いもあったが。
その時その瞬間こそが、根源の存在を脅かされかねない危険な瞬間であり、世界を破滅に導かんとする邪なるものが満を辞して動き出すタイミングでもあって。
かつて、【時】の根源がユーライジアへと降り立った時。
その命を狙い、世界の滅亡を目論んだ魔人族がいた。
しかしそれは、先んじて世界に降り立ち、世界に溶け込んでいた【闇】の根源により止められることとなる。
だが、その代償は大きく。
世界の至宝と呼ばれた大切な存在を失ったことで、世界を震撼させるほどの怒りをかったのだ。
今も昔も、そのドラゴンは退治されるような諸悪ではなかったが。
何故だかハナには、どこかでその昔語りを聞いたことがあったからなのか、言い知れぬ恐怖心があって。
追いかけてついてきてくれている二人の存在もどこかへいってしまいつつも歩みは止まることはなく。
そのままどこまでも突っ込んでいってしまいそうなハナをフォローすべく。
二人は頷きあってその後を追いかけていって……。
(第128話につづく)
次回は、11月8日更新予定です。