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第126話、いざ魔王城へ、魔法少女のいれものとマスコットがゆく



 SIDE:マーズ

  



「はっはぁ、久方ぶりのしゃばだぜぇぇっ!!」


その場を湛える靄を、蒼と白に強めて。

冬の訪れを告げるかのように冷たい風が、そんなあえての偽悪的な声とともに吹きすさんでくる。

突然のことに中の人となっているマニカは驚きの声を上げていたが。

マーズとしては、正に久方ぶりにツッコミたくて仕方がない、ある意味でさいごの過保護なひとりの登場である。



「久方ぶりのしゃばって、今日日きかねぇな。ってかルキおじさん、その言い方だと今までこっちにいなかったみたいに聞こえるけど」

「かぁーっ! おじさん呼ぶなぁぁぁあっ!! こまけぇことは気にすんじゃねぇぇっ」

「いやいや、だって。ルキおさん、ずっとスクール内の……リヴァおじさんちに居座ってるんじゃなかった?」


それなのに、どうしてわざわざ他の世界……あるいは、黄泉の世界からやってきたかのごとく演出をするのか。

おじさん? あんなにも可愛らしい御姿ですのに、なんて少しばかりズレたマニカの初対面の感想をスルーしつつ、結局マーズはそんな風にツッコんでしまう。



ルフローズ・レッキーノ】の小悪魔的魔精霊であるルッキーことルキおじさんは。

二人の両親の代まではユーライジア家に文字通り憑いていて。

主に小間使い兼マスコットのごとくうろちょろしていたのは、父の妹の一人である叔母のもとであったが。

二人の母とも、時には背中を合わせて戦うような、悪友的存在だったらしい。



あの時の母さんたちは、魔法少女と悪魔的マスコットのコンビで勇ま可愛かったなぁと。

そんなオヤジの台詞を思い出し。

あのこまっしゃくれた小さい悪ガキめいたのがかわいいとはマニカにはやっぱりうちの血が流れているらしいと複雑な思いをマーズが抱いていると。

享楽的でお祭りごとが大好きなルキおじさんは、相変わらずおじさん呼ばわりされていることすらおいて、おお、そうだったと声を上げる。



「おぉ、そうだそうだ! マーズ坊に朗報だぜ! マーズ坊ってば『レスト族』の『分離』、『剥離』を行使してぇっつてたろ? そのために手っ取り早いのは、勝てないかもしれない相手と死闘を演じることだ。とはいえ、今や異世界からの侵略者を除けばこの世界は平和もいいとこだ。そうそうそんなやべぇやつらが転がってるもんじゃねぇ。そんなわけでオレさまはな、そんなこともあろうかとやべぇ強者のこと、目ェつけてたんだ。分かるだろう? マーズ坊を満足させるようなやつは、それこそ根源クラスくらいなものだってな」

「……っ」

(兄さま?)



魔精霊であるがゆえに、人族とは時間の進みが違うのか、ルッキー独特の感性なのか。

マーズが物心つく頃というか、ユーライジアのヴァーレスト邸で過ごすようになってからと言うもの、彼の姿を見る機会はほとんどなかった。


故に、ルッキー自身にそのようなお願いをした機会などなかったわけだが。

少なくとも両親、祖父母の頃くらいにはルッキーはそこにいて、『レスト族』の事情を知っていたからこその発言だろう。



だが、何だか得意げにしているルッキーが今屯し棲みついている、根源クラスがいるであろう場所を考えて。

マーズははっと息をのみ、思わず揺れる体内の魔力。

それに気づいたマニカが声をかけたことで、衝動的に溢れかけた魔力をなんとか抑えることに成功したマーズは。

楽しいことがとにかく大好きで、悪戯好きな小悪魔そのものでありながらも、根っこは見た目にそぐわないお人好しであることも思い出す。



「根源っていうと、スクールの元理事長と校長先生のことですか?」

「あぁ、りじちょー……マイカの、エクゼリオ家にずっと棲まうドラゴンの話さ。

正式名は、エクゼリオ・ドラゴン。龍種の中でも災厄級を誇る全身金色のやつで、『レスト族』みたいに普段はエクゼリオ家の娘の内なる世界で過ごしている。それが、何らかのきっかけで……あぁ、そのへんは『レスト』族が入れかわるのといっしょだな。今まではそんな気配全然なかったんだけど、きょうの朝だな。魔王城でだらだらしてたら急にその気配を感じてよぉ。こりゃぁ今このタイミングしかねぇと思って、そこから逃げられんようにオレさまの世界、結界を張っといたからよ。さっそく向かうと良いぜ」



過保護で、考えなしで、どこかずれてはいるけど悪気はない。

浮上しかけた、怒りめいたものが萎んでいくかわりに、マーズは大きくひとつ息を吐くと。

あぁっとマニカが声を上げるよりも早く、そんなルッキーより確実に大きいたなごころをくわっと開いて迫っていって……。



「えっ? ちょっ、なに? 褒美ならそう、妹ちゃん呼び出してくれよ。オレさまが専属の使い魔になってやるからよ」

(え? 私ですか?)


そのドヤ顔がどうにもイラっときたから。

そのままアイアンクローならぬ、全身包んでばっきばっきにしてやろうかと思いつつも。


憧れの魔法少女のマスコット的存在に、少なからず期待抱いている風のマニカの手前と。

そんな目に遭うだなんて露にも思っていない、何だかんだで純粋なルキおじさんを目の当たりにして。

改めてマーズは、深く深くひとつ息を吐いて。



「とりあえず、魔王城に行くぞマニカ! 【ルフローズ・レッキーノ】の環境魔法、解除しといてくださいよルキおさん!」

(はいっ、兄さまっ)

「ぎょへぇっ!?」


マーズは、それでも鬱憤を晴らせよとばかりに。

ルッキーをわしり、むんずと掴み取りつつそう叫んで。

ヴァーレスト】の魔力を纏い、そのまま空を駆る勢いで駆け出していくのであった……。


SIDEOUT



     (第127話につづく)









次回は、11月2日更新予定です。

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