第122話、万魔を従えるというよりは、かのものすべてに惹かれついてきているだけ
Girls Side
『クリア・ピッグ』のアピさんと、正式に契約するためにと。
とりあえずのところ、空いていた魔精球に入っていてもらうことになって。
従霊道士の先輩として、少なく見積もっても151……いや、200は必要であろうと。
過保護に父に持たされた、召喚と『げっと』のために必要なそれは。
相手が良いと言ってくれれば夢幻の可能性が広がっていると言われる中へと入ってもらえると、その際に正式に契約もできる仕様になっていた。
実はそれ、国宝級のマジックアイテムだったりするわけだが。
案の定マーズの友だち三人組は、三者三様でたいそう驚いていた。
「そう言えばうちにもそれ注文入ってたっけ。ヴルックさんちだけじゃ、手が足りないからって。珍しく泣きつかれたって父さん言ってたよ」
「国のトレジャーを大量生産してくれって言うムチャなあれかい? 世の中には豪快なヒトがいるものダネ」
「え? もしかしてハナちゅわん、それたくさん持っていたりするの?」
「あ、はいなのだ。たくさんあるからちゃんとは数えたことはないけど」
「それって、魔精霊とか人族とか、お構いなしな感じ?」
「中の世界へ入れるかってことなのだ? たぶん大丈夫だと思うのだ。魔精球を使うとお呼び出しもできるから」
「うわ、それってやっぱり最上級品じゃないか。さすがハナさん、大国のお姫様だね」
「フム、なんとも剛毅なことか。これもアイか」
「ほーん。そりゃすごい。ちなみに、いくつか売ってもらえないかなって言ったら売ってくれたりする? 言い値で払っちゃうよ~」
実際問題、重要で有用なアイテムであるからして、みだりに使い方、性能などの話をしたり、見せびらかしたりするものではないのだが。
悪意や敵意を吸い寄せばら撒いていたりするハナからしてみれば、彼らの人の良さは一目瞭然で。
ミエルフに、誤魔化すことなく真っ直ぐにそう言われて。
ハナは少しばかり考え込むこととなった。
服や身の回りの普段使いするものは、母から譲り受けたものだが。
(冒険や戦闘用の防具などは、いただいたがいわゆる職業が違うのでどうにも似合わずタンスの肥やしとなっていたりする)
スクールへ向かう際に、父からもらったのはこの魔精球(×200)だけであった。
とりあえずのところははそれで200人の軍を。
は~れむめんばーをつくるのだとミィカ経由で解釈していたハナは。
それ以上の軍勢を従える父に少しでも近づくために肌身離さず持っていたいと思うのは確かであったが。
『―――ハナちゃんが、思うように使えばいいんだよ』
だけど、そうも父に言われたことを思い出し、同時にミィカに『さいしょのいっぱいいっぱいの数は151と決まっているのです』、なんて言われていて。
少し余っているのも確かだったから。
ひとつ頷いて、色があまり好みじゃなかったから、黄色いフチ取りの黒色コーティングされた球をいくつか取り出したところで。
またしてもムロガがあぁーっと大声をあげたではないか。
「こ、こんどはどうしたのだ?」
「駄目だよっ、それいいやつなんだから! うわさでは頑張れば『神型』の魔精霊さんたちも求めに応じてくれるかもしれないんだから、取っておかないと!」
「と言うかミーよ。どうせキミのことだからハナクンのように純粋に魔物たちに挑んで捕獲するわけではないのだろう?」
「そうだそうだ! ハナさん、ミエルフのやつに渡しちゃ駄目だよっ。下手すると犯罪の教唆、手助けをしたってことで『風紀』の人に捕まっちゃうよ!」
「おいおいっ、何だよみんなして。人聞きの悪い。いろんな種族の可愛い子を『ゲット』できるかもしれない……なんてこれっぽっちも思ってないぞ?」
どうやら、ミエルフも世界をまたにかけて『は~れむめんばー』をつくりたいらしい。
だけど、ムロガもオクレイもあまりいい顔はしていなくて。
ハナには単純にそれが疑問だった。
故にストレートにそれを口にする。
「んん? 『げっと』しちゃいけないのか? ふーきのひとにつかまっちゃう?」
「ああ、ハナさんなら大丈夫だよ。心配しないで。ミエルフのことだから。それを悪用して、女の人を捕まえる……迷惑をかけたりしそうだからさ。釘さしておかないとねって」
「ん? つかまえる? ああ、それこそ心配いらないのだ。魔精球は『げっと』されてもいいって、契約してもいいってひとじゃないと入れないのだ」
「ほほう。ナルホド。よくできているネェ。だったら良いんじゃないかな? 勿論、ハナクンが良いと言えばだが、その中に入り、かつ懐に抱かれても良いと思える程に、心を通じ合わせると言うことなのだろう? ミーならそういうこと、得意じゃあないか?」
「なんだよちきしょーっ。それじゃあいつもとかわんねーじゃねぇかっ。……ってか、ミーって言うなぁ!!」
ちなみに、ミエルフが物心ついて女の子を『げっと』しようと行動して、少なくともこの世界で成功したことは一度もなかったりする。
何故ならば、ミエルフがこれはっとなって動こうとした時には、既にその女の子の隣は空いておらず。
その心は既に持って行かれているからである。
そんな、慟哭めいた叫びとともに。
改めてミエルフは。
最愛を求めるのならば。
ここではない異世界に求めるべきであるのだと、つくづく思い知るのであった……。
(第123話につづく)
次回は、10月8日更新予定です。