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第121話、本来在るはずであったエピソード、その代わりにではないけれど



Girls Side




不意の突然に、悪たれを叱りつけるような声が聞こえてきて。

ハナの目にさいごの三人目の姿が見えてくるよりも早く。

何やら100と数字が横っぱらに書かれている、巨大な太鼓とも見まごう、金色に染め上げられた金づちが、大きかった『クリア・ピッグ』のとっしんと同じような音立てて近づいてくるものだからたまらない。


それが、『厄呪ダークサイド』に引っ張られてハナのもとへやってきているというよりも。

軽い感じのダークエルフの少年と、黒光りムキムキ少年を問答無用でとりあえず折檻する目的で近づいてきていることが、何故だか分かってしまって。



これは違うのだ、と。

いじめられて意地悪されて泣きそうになったわけではないのだと。

むしろ、何だか素敵に褒められてしまって。

両親を思い出して、嬉しくて泣きそうになってしまった……だなんて、恥ずかしくて言えるわけないじゃないかと躊躇ったのがまずかったらしい。


100の後にある古代文字の『t』の意味すら分からないままに。

まるで見えない早さで、それでもなんとかたちはだかったハナをそれこそ幽鬼のごとくぬるりとすり抜けて、二人の何の罪もない少年の脳天にそれぞれぶち当たってしまう。



がぃん、どぐしゃぁと景気が良すぎて引くしかない音が響き渡って。

ダークエルフの少年は耳下あたりまで地面に埋まり、黒光りムキムキ少年は、バストアップ……分かっていて腕組みしていたのが幸いしたのか、脇下のあたりで止まっていて。



「おごごっ……」

「まぁ、そもそもボクのせいではあるし、連帯責任であるのは認めるがね。どうせならもう少し躍動する筋肉を見せてもらいたいところダネ」

「あわわわっ。いっ、いきなりどうしたのだいいんちょっ!?」

「どうしたもこうしたも、ハナさんこそ大丈夫なの? 今僕が、ハナさんを傷つけるよこしまを成敗してあげるからね?」

「うぐぐぐぅ」

「きっかりシッカリ叩きつけられてなお続けるのかい? それでもう少し肉付きが良かったらなぁ」

「ちょまっ、ご乱心っ!? いいんちょってそんなにすごかったのだ?」

「あぁ、これ? ギャグ補正……じゃなかった。見た目よりは軽いんだよ。それに彼ら専用の道具だし」

「あわわわっ」


よく見ると、そうさせる何かがあったのか(自覚なし)何だか瞳がぐるぐるしているようにも見えて。

ハナ10人分じゃくだらない大きさの金づちをぶんぶん振り回しているムロガに。

ついにはハナは同じような悲鳴あげつつも、恥ずかしいなどと言っている場合ではないと。

それこそ涙をのんで、抱きついていく勢いで事の顛末を説明する羽目になってしまって。




「……なぁんだ。ハナさんってば。普段あんまり褒められたことないからってうるっときちゃったんだ。かわいーい。そうならそうで言ってくれればよかったのに。こう見えてもひとを、可愛い子を褒めるのは得意なんだよ?」

「あ、はいなのだ。ま、またそのうちお願いするのだ……」



やっぱり、ラルシータスクールへのみんなでの小冒険がきっかけで変わってしまったのか。

何か思うところがあったのか。

それまでは少年らしい雰囲気をまとった少年のようないいんちょであったのに、ハナにはあっさり路線変更してしまっているようにも見えて。

もしかしなくても、こうして戯れ合い(それにしては随分と派手に過激であったが)するくらい仲の良い、それこそ悪友のごとき間柄であるからして、ムロガも素の自分をさらけ出せるのだろうと自分を納得させつつハナはとりあえずそう頷いていて。




「フム。ムロガこそそれくらいにしておき給えよ。ハナくん、キミの荒々しくも好ましい素に腰が引けているじゃぁないか」

「そうだそうだー。ハナちゅわん、そこにおわすお方は実はむちゃくちゃおっかないんだ。気をつけた方がいげぶぅっ」

「あはは。ごめんねハナさん。ハナさんがたいへんなことになってるかと思ってちょっと羽目を外しちゃったみたいだ」

「そ、そうですか」

「ぶひん」



誤魔化し笑いつつもダークエルフさんが髪あたりまで埋まっちゃってるのを目の当たりにして。

これ以上その辺りをつつくのは得策ではないと判断し、ハナはハナと同じように危機を察したらしく足元まで寄ってきてくれていた、すっかり小さくなってしまった『クリア・ピッグ』を抱え上げつつ、さっそく名前を考えなければと思い立ったところで。

そもそもが、もとの飼い主と言うかマスターである少年たちの名前すら聞いていないことに気づいて。



「え、えとあのその。アピさん……ええと、ぶたさんの名前なんだけど。契約させてもらうのはありがたいのだ。けど、マスターのあにきさんと埋まってるひとの名前、聞いてなかったのだ。いいんちょ、お友達……なのだ?」

「いやぁ、友達……うん。友達なのかなぁ。二人ともマーズと仲が良くてね。たいてい隣のクラスで一緒にいたからその流れで仲良くなったんだ」

「……おぶっ。……ああ! オレ様としたことが自己紹介が遅れたね。オレ様はミエルフ。ミエルフ・ローズだよ。よろしく~」

「ボクはオクレイ・クマラ。その呼び方はステキだね。嬉しいネ。カワイイ筋肉の彼は、良い名前をもらったようだ」

「ぶひひん」


聞けば、何とはなしに予想していた通り、みんなマーズと仲良しらしい。

頭から持ち上げられたのに平然とカッコつけているミエルフと名乗った少年もいろいろな意味ですごいが、埋まったままで何やらポーズを取っているオクレイと名乗った少年も、やっぱり今までに会ったことのないタイプであることは確かで。



「ええと、あ。そうだったのだ。ムロガにようがあったのだ」

「ん? そうだったの? マーズにじゃなくて? なら、ちょうどよかったねぇ」



とりあえずのところ話はまとまって落ち着いたから。

ハナはここにきてようやっと、運がいいのか悪いのか。

ムロガに用があったことを思い出したのだった……。



      (第122話につづく)








次回は、10月1日更新予定です。

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