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第120話、泣かない赤オニが絡んでいる時点で、別の意味での涙が出るのは決まっていて



Girls Side



いにしえの魔人族めいた少しばかり軽そうな少年と。

いつの間にそこにいたのか、ハナからすれば小山のような『クリア・ピッグ』にも引けを取らないどころか、マーズやミィカパパにもタメを張れるであろう……だけど、ふたりと違ってその黒光りするムキムキに過ぎる肉体を隠そうともしない少年に囲まれる形となってしまったハナ。

もうひとりいたのならば、クラスにやってきたばかりの頃の悪戯っ子三人組を思い出すところである。

 


だが、スクールにやってきて『げっと』……あるいは『厄呪ダークサイド』に関わらず付き合ってくれる友達を探すためにたくさんの人たちを観察する機会があったこともあって。

ハナから見ても、それこそ『厄呪ダークサイド』に導かれるようにしてやってきた少年二人は。

同じクラスの悪ガキ三人組と比べても雲泥の差(単純に強さ的な意味で)があろうことは明確で。



クラスの悪ガキ三人組のように、『厄呪ダークサイド』が発する、色をつけるとするのならば黒い靄的なものにあてられて。

敵意持って襲いかかってくる可能性(あくまでもハナから見た可能性)もあったわけだが。


黒光りしているようにも見える、あまりにインパクトの強すぎる少年の登場に、けっこうハナはテンパっていたらしい。

『ゲット』できる対象であるかどうかもよく分からない、ハナ自身はじめての遭うタイプ。

観察しようにもなんだかてかてかしていて目がしぱしぱする。

なにか言っていたけれど、敢えて作っているような甲高さであんまり耳に入ってこなくて。

ハナは、自分の身がどうこうよりも、ハナとすれ違うようにして逃げようとしていた『クリア・ピッグ』が。

黒いムキムキ少年に片腕で鼻柱を抑えるようにして止められていることに気づいて。




「あぁっ、食べちゃだめなのだっ!」


思わずハナはそんなことを言って駆け出していた。

そんな事を言いつつも、大きく肥え太った彼がどんな存在で。

契約のできない、逃れられない運命を負わされていることを、ハナ自身よく分かっているはずだった。


でもそれでも、こうして出会ってしまったのならば何だかいやだって。

そんなわがままを押し通すようにして、ハナは転がるようにして駆け出していく。




「……参ったねぇ。運がいいというかなんというか。これも運命ってやつなのかな」

「ハハッ。いいね! 実にイイ。見たところ筋肉はまだまだ成長の余地があるようだけれど、その心意気はスバラシイ。そこまで言われたのならば、汲んであげなくちゃぁネ」



テンパってわぁぁーとなっているハナを脇目に。

呆れたような感心したような、特には何も起こらなそうなやり取りが聞こえてきて。



「ふんぬらばっ、マッスル魔法、【トラク・アーヴァ】ッッ!!」

「何だよマッスル魔法って勝手に捏造してんじゃねっての」

「ああぁっ、ぶたさーんっ!!」


その時その瞬間、ハナにとってみれば黒い弾丸のごとき少年の手のひらが巨大化したように見えたことだろう。

その大仰な手のひらの握られる姿を幻視して、思わず悲鳴あげてそのままたいあたりを敢行するハナであったが。


サントスールにもいた黒光りする鎧をまとった虫をイメージしてしまうような肉体であるのに。

その硬そうな衝撃は全くないどころか、こわれ物を扱うように丁寧であるのを通り越して。

大きくなっているようでなっていない逆のたなごころにて、ほとんど触れるか触れないか……つまむような勢いでぽいと間合いを離されて。

 



「わぁぁー……って、あれ?」

「ぶひぃ」


気づけば、尻餅をつくでもなく座り込んでいたハナの腕の中へともふっと下ろされる、小さな小さなぶたさん。

しっぽをぶんぶん、耳をぴこぴこさせるから。

あらゆるところから彼が生きているぬくもりが伝わってくる。



「……こ、これはいったい? どういうことなのだ?」

「いやね、このコは元々ウチで飼っていたのだけど。何かに引っぱられるみたいに飛び出していっちゃったのヨ」

「十中八九きゃわゆいハナちゃん、従霊道士のハナちゃんに惹かれたんだろうな。話には聞いていたけど、なるほど、うん。まさに従霊道士になるために生まれてきたってことなんだね」

「え? えっ?」

「ぶひぶひ」

「そんなわけでネ、これも何かの縁だし、ハナちゃんの召喚お仲間にこのコ、くわえてもらえないかしらん。きっと間違いなく、ハナちゃんみたいに無限の可能性を秘めているはずだから」



マーズの悪友と書いてマブダチであるということを、分かった時点で気づくべきであったのだ。

厄呪ダークサイド』から湧き出る、特に異性の悪意を誘発するそれを。

あるいはマーズと同じように、彼らがこなれてきてしまっていることを。

そもそもが、マーズに負けぬほどの、どうしようもないくらいのお人好しであるということを。


恐らくは。

腕の中で確かに生きている彼は、儚き定められた運命があったはずで。

だけどハナがそれを知ってわがままに泣きそうになったというだけで、変えてしまったのだ。



くわえて、『厄呪ダークサイド』が巣食っていることを分かっている上での褒め殺しにも近い二人の態度。

助からないはずの命が助かってしまった安堵と言う名のぬくもりと。

そんな二人のやさしさに、ミィカと出会うまではいつでも部屋にこもって丸まって、誰にも見つからないように流していたものすら流れ出してしまう始末。




「……ぐすっ」

「ちょっ!? ちょいちょーい! そりゃあかんって!」

「フフ、それこそ悪手でしょうに。フラグがビンビンよ」

「ぶひ」


不思議そうに見上げてくるぶたさんに。

勢い込んで狼狽える軽そうなダークエルフさんと。

もはや何か諦めて達観している風の黒いムキムキ少年。


それによりハナは。

いろいろとありがとうと口にする前に、みんなの名前すらまだ知らないことに気づいて。

まずは自己紹介だと顔を上げるか上げないかのところで。




「こらぁぁぁーーーっ!!」


まさしく、足りていなかったさいごの三人目を埋めるかのごとく。

黒光りムキムキな彼の『フラグ』が立ったことを証明するがごとく。

だけど、しっかり聞いたことのある声が聞こえてきて……。



   (第121話につづく)








次回は、9月26日更新予定です。

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