表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/199

第119話、知らない方がよかったなんて、おかげさまで一度もなく



Girls Side



みるみるうちに迫ってくるピンク色に近い肌を持つ大型の獣、あるいは魔物。

イノシシ似ているが角はなく、ハナはすぐにそれの正体に気づいてしまった。

ハナの知るものと比べると、随分と大きいが、サントスール王国にもたくさんいて。

白黒の大人しいウシや、赤白の早朝に鳴くトリとともに飼われていたのを思い出す。




「よくよくみたらぶたさんじゃぁないか。こんなにおっきくてもかわいいな。……向かってくるというのならば、しかたないしかたない。『げっと』してしまおうじゃないか」



それは、ハナの母より女性らしい万魔の王、ハナの父による教え。

世界には、『げっと』……テイム、あるいは契約ができない魔物がいる。


世界に12人しかいないからだとか、人に従うのをよしとしないから、などではなく。

彼らには、役割があるからだそうで。



ある意味、ひどく人間よがりな勝手な考えで。

生けとし生けるもの全てと友達になりたいといって憚らないハナパパが。

その理不尽な運命に涙していたのをよく覚えていた。


彼ら毛のないイノシシ型の魔物たちは、たとえばこのユーライジアスクールやサントスールのあるユーライジア大陸では、従えることのできる魔物辞典には載っていないらしい。

大陸ごとに住み分け、役割分担ができていて(それも人の勝手なのだが)。

別の大陸では、『クリア・ピッグ』などと呼ばれていて。

その代わりに、ユーライジア大陸で普通に『げっと』できる魔物が登録されてはいないとのことで。



ハナにはいまいちピンと来ない部分もあったが。

それでも従霊道士として、人として知っておいて欲しいとうるうるで父に訴えられたので。

ハナは忘れずにそのことを覚えていたわけだが。


そんな世界を知るための学びも、ハナ自身が健やかでいなければ意味を成さない。

まさか、契約げっとできないとされる魔物にいきなり襲いかかられるだなんて。

厄呪ダークサイド』の溜まりに溜まった威力ときたら半端ないなぁ、なんて思いつつ。



未だ用意できていない得物の代わりに、従霊道士の武器とも言える『魔精球』を取り出した。

黒いユニコーンことバイコーンのバイや、ほれぼれする刀使いのクルーシュト。

変形する槍を扱わせたら世界で三番目くらい(あくまでも自称)らしいイリィアにお願いしようか。

いっそのこと、最終手段としてマーズにでもお願いしてみようか。


なんて、うんうむ悩み込んでいるうちに。

ブヒィィィと咆哮響かせるぶたさんがすぐそばまで迫ってきているのが分かって。



「……っ」


それにより、よくよく見える、やっぱり可愛い顔つき。

そのつぶらな瞳には、生を渇望する輝きがしっかりはっきり見えて。

厄呪ダークサイド』に引っ張られ操られ混乱した上での哀れな犠牲者でないことはよくわかったから。



「ふむ。こちらへ来たのは偶然なのかな。どうやら何かに追われているようだ」


箱入りで、お顔が子どものようにちょっと大きくて。

ミィカに面白がられいじられるのが常な、ちんまいハナであったが。

ミィカが専属のおもしろメイドになるまでは、普段から『厄呪ダークサイド』の責め不幸に鍛えられていたし、両親ともども、特に母は幽鬼のごとく触れられぬ格闘術を扱いし達人、英雄……ステューデンツの一人である。


そんな二人の血を色濃くついでいるハナは、えらぶってそんなことを呟きつつ。

ピンク色の魔物に触れるかどうかのタイミングでひらりとかわし、そのまま体重を感じさせずにふわりと浮き上がってすれ違うように流されていって。





「おぉーい! 大丈夫かぁっ! かわゆいおじょーさーん!」


その時、ピンク色の魔物がやってきた方向から駆け出してきたのは。

大木のごとき剣、斬馬刀と呼ばれる類の武器を担いだ、一見すると魔人族……ではなく、【ピアドリーム】の一子とされるエルフ、ダークエルフの少年であった。




「……あの子をどうする気なのだ? もしかして、きょうのおゆはんにする気なのか?」

「ぬわっ、めっちゃ警戒されとるぅっ。……って、よく見たらハナちゅわんじゃないのっ。大丈夫だから落ち着いて! マーズに怒られるしっ」



どうやら、マーズ経由でハナのことは知っているらしい。

そうであるのならば、悪い人ではないどころかここの生徒なのだろうが。

ハナの言葉を否定することもなかったから。


それが、どうしようもない仕方のないことだと分かっていても。

立ちはだかるように守って、どさくさに紛れて、禁断の『げっと』できればいいなぁと思いつつ。

両手を広げ、意外とさまになっている構えを取っていると。




「HAHAHA~! ごめ~んなさいネぇ。うちのコがメイワクをかけちゃったみたいねーん」


困ったように髪をかき上げるダークエルフの少年に気を取られすぎていたからなのか。

いつの間にやら、ぶたさんが駆けていった方向から。

そんな、ハイテンションで独特に過ぎる甲高い声が聞こえてきて……。



  (第120話につづく)









次回は、9月21日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ