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第115話、エピソード6、『運命の【闇(エクゼリオ)】サイド』



Girls Side




ハナ・サントスールの朝は早い。

それもこれも、何故だか物心つくくらいの頃からメイドさん的立ち位置で側にいてくれるミィカが。

その都度趣向を凝らして『サプライズ』を仕掛けつつ起こしてくれるからだ。



例えば、起きるその瞬間だけ冷っこい魔法の氷玉を背中に投入とか。

例えば、起きる直前の夢が、必ず高所から落っこちるものになる歌を聞かされたりとか。

例えば、目を覚ますよりも早く枕がスライムさんに変えられて夏は快適だけど、冬は勘弁して欲しかったりとか。

例えば、いつまでも寝ていると、ぬるっと夢の世界に入り込んできてお茶会が始まったりとか。



ごくまれに一緒になって寝坊してしまうこともあるけれど。

そんな悪戯にもちゃんと意味があったから。

ミィカが側にいなかった頃の、正直しんどかった、ついてない日々を忘れさせてくれるものだったから。



なんとはなしに体感で大分陽が上がってきたと分かるくらいには暖かくなってきたことで。


今日はどうしたんだろう。

珍しく何も起こりそうもないなぁ。

それもたまにはいいかと、何も起こらずただただ惰眠を貪って遅刻してしまうのがサプライズなのかと思い立ったところで。



ここ最近ではとんと見ない、ハナの父が擁するレギオン同士の演習……戦争めいたやりとりで知恵熱が出たらしく。

ふらっと倒れそうになって。

ほとんど無意識のままにかけつけたハナの草花やむしが入り込んでもおかしくなさそうなくらいにスペースのある髪の中へ突っ込んできたミィカのことを思い出した。




「……はっ、そうだ、ミィカっ! 念のためにってお家の魔王城に戻ってるんだった!」


ハナとミィカに宛てがわれし、スクール内の寮の一室にてまろび転がるようにして起き上がったハナは。

こんな時のためにミィカは普段、あんまり朝の準備、着替えなどを手伝ってくれずに生暖かく見守っていたのかと納得しつつ。

それでもミィカがやってきてくれる前までは自分のことは自分でやってたのだと自分にいいわけしながら。

爆発している髪に悪戦苦闘しつつも(髪を梳くのだけはミィカがやってくれるのだ)準備を整え部屋を飛び出すハナ。




向かうのは、思わずついてでた勇者めいた存在のホームとも言える、このユーライジア・スクールの敷地内に何故か存在している魔王城と呼ばれる場所。


そこは、ユーライジア四王家のひとつ、『エクゼリオ』家の居城にして、かつての理事長の住まいでもあり。ミィカの実家でもある。



ユーライジア・スクールの敷地はスクール擁する同名の大陸の六分の一程になるとも言われているが。

幸いにも、魔王城などと呼ばれる場所は、ひそめることもなく寮棟の間、中庭めいた場所に座していて。

ひとりのハナにしては珍しく、何事も起こることもなくその敷地へ入ることに成功する。




「おぉ~。やっぱり空気感がちがうなぁ。ま、いきなり夜になっちゃうから当たり前なんだけど」


ハナは気づいているのかいないのか。

少なくともスクールの敷地内であるのならば、セザール家御用達の『破邪結界』なるものがいたるところに貼られているので。

ついてない出来事に見舞われることはないはずなのだが。



ある意味でこの魔王城の敷地だけは治外法権(やりたい放題)なところがあって。

ふんだんなる【エクゼリオ】の魔力を駆使して、その名にふさわしく常に闇……月夜が広がっていた。


おどろおどろしい風が巻いて、油断すると色々なものが降ってきそうな雰囲気。

犬も歩けばではないが、ひとりで出歩くとそれが当たり前であったハナは。

びくびくしながら……ある意味ロケーションに相応しい振る舞いで。

理事長室のある時計棟が漆黒の赤に塗りたくられていくつもくっついているような。

むしろ、クロやマーズ(ヒトダマバージョン)の棲み家っぽいお城の、巨大に過ぎる扉の前までやってくる。



「でっかいなぁ。キマグレさん通れそうだな。ミィカたちにはぜったい必要ないと思うけど」


頑張って飛び跳ねても、届きそうにないところにベル変わりのくつわをくわえたドラゴンの姿。

もし現実にいたのならば何が何でもゲットしたいひと? だなぁなんて思っていると。



どこからか中の人が見ていたのか。

そんなことを思っていたからなのか。

それでも外にいるハナが弾かれて飛んでいかないように考慮されているのか。

地響きを立て、内側に向けて開け放たれる、観音扉。

それにもおぉぅと圧倒されつつスライムのように弾き飛ばされなくて良かった、なんて安堵するよりも早く。




「はーなーちゅぅわぁぁぁんーっ!!」

「そげぶぅっ!?」



ミィカの普段のテンションを100倍にしたかのような。

だけどほとんどそのものに近い少女の、ハナを呼ぶ声。


続くことばがあったのだろうが。

勢い込んで飛びつくみたいに抱きつき締められて。

衝撃を逃がすこともできずにハナは目の前に夜空の星が回っているのを確認できたけれど。



それと同時に。

ミィカより、少しばかり年下な。

デレ度100パーセント増し増しな少女の笑顔が見えて。



久方ぶりな『厄呪』の始まりの一矢にしては。

随分とかわいいなぁ、なんて思っていて……。



   (第116話につづく)









次回は、8月30日更新予定です。

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