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第114話、初心にかえって、泣かない赤オニは白い嘘をつく



SIDE:マーズ



アリオとこの世界で呼ばれていた2番目の魔導人形の少女。

親世代の英雄ステューデンツとして名を連ねていてもおかしくない実力を持ち合わせていたが。

そんな彼女であっても、憧れの夢幻の英雄の、いわゆる『必殺技』を繰り出したい意欲には勝てなかったらしい。

 

彼女が、父との共闘をすることなく前線も最前線に向かったのは。

そこに此度のお邪魔虫……名のある妖怪たちを召喚せしめた異世界の呪術師の存在をマーズがキャッチしたこともあるだろうが。

すぐさま変らずのはずの身体がマーズの魂に合わせて変化していったせいもあったのだろう。

 


それは、マーズから言わせれば自身が女性であったとして、理想を体現した姿であった。

自らの身体ひとつで、夢幻の世界の住人の御技を扱いありとあらゆる障害を排除し、護るべき存在を何が何でも守りぬく『母』のあるべき姿。

 

マーズの母が聞いたら、理想のお母さんは私じゃないのとへそを曲げてぷんすこするところだろう。

そうなってくると、色々と都合が悪いし、アリオとしても元よりそのようなタイプと真逆なところがあって。

正直恥ずかしいからと、お邪魔虫……異世界の生ける屍のごとき呪術師の出番は、今までの中でも最短であっただろう。



自分を中心に世界が回っているかのような。

自身の敗北など微塵も疑っていない主人公であるかのような呪術師に対して。

オラつきつつ現れたまさにその瞬間の、開幕ぶっぱ。

『カムラル波』と呼ばれる、マーズである時には色々と気が引けて使ったことのなかった憧れの決め技。

その時その瞬間の、お邪魔虫の呆気に取られた顔ときたら、申し訳なくも中々に面白かった。


……そんな風に思ってしまって。

アリオだけでなく、他の誰かとも共有したいだなんて思ったからなのだろうか。

短くも貴重で得難い時間はあっという間に終わってしまって。

弾き出されるように、おどろおどろしい黒炎のごときマーズの魂はアリオから離れていって。





いつものように、久方ぶりのある家族の団欒を見守ることもなく。

気づけばマーズは元の鞘にかえって……

マニカのもとへと帰っていくのかと思いきや、いわゆるところの二人だけの世界、夜のカムラル邸のサロンへと落ち着いていて。




「ちょっと、兄さま! あの方が理想ってどういうことなんですかっ!? 私じゃダメってことですかっ。

……確かに私は少しばかり小さいといいますか、筋肉には自信がないですけれど」

「ぅおっ、ちょっ!? 開口一番なによっ。ってかやっぱり記憶っていうか共有してるのね」



理想と言うか憧れと言うか。

あくまでもどうしようもない自分が女性だったらの話であって。

肉体言語を駆使して敵をちぎっては投げ、必殺のビームを打ち込んでみたかっただけであって。


それとこれとは話は別なのである。

母に言うのはちょっとはばかられるけれども、むしろマニカは女の子としての別の意味で理想なのは間違いなくて。



「オヤジとおんなじだと思うとあれだけど、むしろマニカみたいなちっちゃくて儚くてカワイイに過ぎる娘がタイプです」

「えっ、ええっ!? い、いきなり何を言い出すんですか兄さま!」

「何って、本音さ。だけど俺たちはきょうだいであるどころか、身体まで共有しちゃっている。ここまでいろいろなところへ行って、どうにかならんものかなって可能性を探ってきたけれど、結局は青い鳥のごとく初心に返ってくるわけなんだなぁ」

「……初心、ですか」


様々な可能性と言うか、『おぷしょん』や魔導人形、それらのエネルギーのもととなるイシュテイルの輝石などについて追ってみたけれど。

制約も多いし、そんなことを言いつつも何だかんだできょうだいでなくなってしまう、他人になってしまうことに一抹の寂しさを覚えていたのは確かで。

 


「ああ、ヴァーレストっていうか、レスト族の方にある『おぷしょん』みたいな救済措置だな。オヤジも含めて、複数の人格、魂をひとつの身体に棲まわせることはやっぱり負担が大きいらしい。それで身体にガタが来るか、命の危機が迫った時に、勝手に肉体が分かたれるらしいぞ。『分離』とか『剥離』とか言ってたっけな。それを成すために一番手っ取り早い方法は、やっぱり結局『クリッター』に、ギルルさんに特攻仕掛けるしかないんだろうよ」

「ギルルさんに? そうは言いますけれど兄さま、あのようなもふもふ具合ではそんな展開、起こりえないと思いますが」

「いや、たいあたり仕掛けるってのは言葉の綾でな。【虹泉トラベル・ゲート】の中で遭遇すると喰われるって噂の真実っていうか……ギルルさんには、あらゆる世界の悲しみを止めるための英雄を様々な世界に送り届ける能力があるんだよ。その際、ばっくりいかれないといけないからおかしな感じで広まっていったんだな」

「それは……この世界から離れると言うことですか? せっかく、みなさんと仲良くしていただいていますのに」


わかりやすく、しゅんとするマニカ。

その言いようだと、彼女は当然いっしょについてくること、疑ってはいないのだろう。



かつてマーズの父がそうしたように、『クリッター』に文字通り喰らわれることで『分離』が起こり、

内なる魂がユーライジアと、どことも知れぬ異世界に分けられることなどまったくもって気づいていない様子で。


 


「あぁ、それなら大丈夫さ。喰らわれるふりをするだけで、レスト族の身体が勝手に危機を感じ取って分かれることができるはずだから」

「なんだ、そうなんですか? だから初心ってことなんですね。それなら早速、ギルルさんに会いに行きましょう」



打って変わって一安心だと。

嬉しそうな、安堵の笑みを浮かべるマニカ。

 

相手のためを、愛しき妹を思う白い嘘だから問題ないなんて。


そんなことあるわけないだろうと。

否定するみたいに。



その時その瞬間。


マーズは確かにズキリズキリと魂が軋み痛むのを感じていて……。



   (第115話につづく)










次回は、8月25日更新予定です。

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