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第113話、一度はみんな夢見ている、憧れのわざをせっかくだからとうってみる



それから。

リアータがらしくなく、だけど血の争えないらしい感じで詰め寄ってきたことで、何故だか両親ともにほろりとしかけたところで。


いい加減しびれを切らせた、とばかりに儚い洞穴から飛び出してくる大型の魔物たち。

そこに、当然のようについてきたマリアや、ハナたちを始めとした最早同じ目的を共有せし仲良し組と。

魔物たちの出現に備えて各地に待機していた、セザール近衛兵団の少女たちをも巻き込んで、スタンピードめいた乱戦が始まろうとしていた。




しかも、見た目の奇抜さ……ユーライジアの世界ではあまりお目にかかることが少なそうな魔物たちばかりである。

なんでも、マリア曰く故郷の創作の世界から飛び出してきた、『妖怪』と呼ばれる種で。

特に、結構な深さのあるのにも関わらず、砂地を見えなくするほどの大きさの、蟻地獄のごとき場所から這い出してくる大仰な魔物たちは、マリアが契約している『カグチ』や『ズゥミィ』を始めとする『式神』たちと、遠からずな存在らしい。





「うおぉっ、でっかい! キマさんよりもでっかくないかっ!?」

「あー、でもキマグレインさん頭部だけだったからなぁ。全てが揃えばあのムカデ? と引けはとらなそうだけど」

「そうなのですか? だからキマグレインさんはこちらの呼びかけに応じてはくださらなかったのですね」

「契約お願いしてもうんともすんとも言ってくれなかったしなぁ。すべての身体が集まって合体すれば復活するんだな」

「いつの日かパーツ(からだ)を求めて冒険の旅に出たいものですが。しかして姫さま、契約してもらえそうな方はいらっしゃいますかね」

「うーん。そうだなぁ。いっぱいで目移りしちゃうなぁ。美少女なよーかいさん、いるかなぁ」

「いやぁ、たぶんだけど野良の妖怪じゃぁないっぽいよ。他の契約者がいるんじゃないかな」


 

魔物たちの大群の気配と、両親がその前線にいることに気づいたリアータが先に翼もないのに飛んでいってしまうという出来事はあったが。

それは私、ミィカでもできますと。

魔精霊の血を持つものならば、いわゆる精霊パワーで飛べるのだと。

あるいはマニカのように【ヴァーレスト】の魔法で同じことができると。

それじゃあみんなでリアータを追わねばとなって。


僕たちの出番を奪わんでくださいとばかりに鳴いて主張してくる悲しきさだめののりものポ……白桃ドラゴンに再び乗り込んで。

 


何だか珍しい感じで、どこかの主人公を彷彿とさせるくらいには熱くなっているリアータと。

によによほっこりしている彼女の両親のもと……最前線にて眼下を見下ろせる砦のような場所へと辿り着かんとする、まさにそのタイミングであった。




「きゅっ?」

「……これはっ」


初めにそれに気づいたのは、それほど縁がなさそうに見えて修行時代に結構ウマがあって仲良くなっていたらしいカグチと。

そんなカグチに一番手を取られて? ちょっと悔しい妹ちゃんなマニカであった。

 


「【エクゼリオ】と、【カムラル】の魔力。ありそうでないから、わかりやすいよね」

「マニカさんはここにいるわけだし。……まぁ、そう言うことよね。ついてきているとは思ってたけど、はぁ」


実のところ、そうは言ってもそのような魔力の組み合わせの魔物がいないでもなかった。

ちょうど、暗い七色の洞から出てくる、車輪に炎を纏ったかのような魔物がそれだ。

しかし、そういったロマン、機械めいたものに目がないムロガでなければ気づかないくらいに大きな、

エクゼリオ】と【カムラル】の重ね合わせたかのような魔力が。

魑魅魍魎めいた魔物たちで塞がれた砂地の更に下の方から、突如として溢れ世界を支配していくのが分かる。

 


それを知らなければ。

……といっても、それを知らないのはそれを間髪を置かず向けられているであろう此度のお邪魔虫とかのものに従えられし魔物たちくらいのものだろうが。

いよいよもって世界を揺るがしかねない、世界の頂点ともされる根源にも届きうるナニカが現れたのかと戦々恐々するところであっただろうが。

 


物語を始まらせない、なんとはなしにはた迷惑な気がしなくもない、泣かない赤オニの出現に。

自分でも結構焦っていたというか、今の今まで聞かされていなかったラルシータの現況に、様々な意味合いをもってダメージを受けていたこころが。

虹の迷い子として、自身は存在していいのかと悩んでいた時と同じように。

包まれ暖められて解かされ解され癒されていく感覚をおぼえたリアータは。

一転して、もう既に安堵したかのよな、呆れたかのようなため息を吐く。



「うーむ。やはり侮れん。なんなのその無駄な信頼感。パパちょっと泣きそう」

「そんなの今更でしょ、ってほんとに泣くことないでしょにセンパイったら」

「残念だけどもう手遅れよ。……それよりも、アリオは大丈夫かしら」

「ぬぅわんだってぇ!? ま、まさかアリオまでもがっ? そんな、遭ったばかりだというのに!?」


聖おっさん師匠は大分勘違い(であることを願っている)をしているようであったが。

ここまでの魔力の奔流を鑑みるに、いくら魔導人形のより優られし身体を言えど持たないのは自明の理であろう。


そう言った意味ではやはり、レスト族の器となりえるのはしかるべき存在。

マーズを受け止め受け入れられるのはマニカしかありえないのかもしれない。

 

それを、どうマニカ本人に伝えるべきなのか。

やはり、初心に帰って『剥離』や『分離』などと呼ばれている『レスト族』に伝わる秘伝、酷薄なる使命に倣うしかないのだろうかと思っていると。


そんな凶悪なる、世界の終わりでも告げそうな魔力の波に、魑魅魍魎たちが蜂の巣をつついたようになっている中。

マリアは偶然にも、どくんと心の臓が震える感覚とともに、金色めいた【エクゼリオ】の魔力が、僅かばかり増大していくのが分かってしまって。

思わず何かあったのかと、駆け寄ろうとして。


 


「……ん? どうかしたのか、ミィカ? おなかでもへったのか?」


それにちゃんと気づいたハナが。

それでも少しズレた感じに心配しているのが見えて。



 


まさに、その瞬間であった。



世界を構成せしひとつ、火を司る根源……『カムラル』。

その名前が。


その一文字一文字を、知らしめるかのように。

これから身に受ける愚かなるものに対する終焉のカウントダウンであるかのように。


どう聞いてもきいたことのあるその声色で。

何故だか少しばかり、珍しくも照れのようなものが入りながら。

 


きっと、世界中に響き渡っていって……。



    (第114話につづく)









次回は、8月20日更新予定です。

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