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第109話、憧れの妖怪退治冒険活劇の主役になれると聞いて、わくてかぁと鳴く




SIDE:マーズ



「……で? 何だい、今日は。そんな可愛らしい格好をして。いや、使い魔の身体を間借りしているのかな? まさか見た目の威容さを克服し、娘たちだけじゃぁ飽き足らず、母さんまで狙う気じゃぁないだろうね」

「……かぁっ」



案の定、あっさりバレて。

そんな気なんてないことくらいお互い分かった上での、師匠と弟子とは思えないくらいの気の置けないやりとり。


自由に喋ることができたのならば、聖おっさん師匠が不在なのが悪いとか。

幼い感じの娘が好きなのはどうあっても師匠の教えの賜物ですとか。

色々ツッコんだりボケたりしていきながら、訓練組手と言う名の子供のようなけんかが始まっていくわけだが。

本来のマーズの身体でないこともあって、聖おっさん師匠は片手でカラスなマーズを抱え込みつつ胴回りを少しばかりぐにぐにする程度で済んで。




「総司令! 事前の兆候なしに、ワールドタイプ『フェイクファー』行きのゲートにてAクラス以上の魔物が複数体送り込まれています! まもなくユーライジア世界に具現化予定です!」

「いや、兆候はあったよ。物語の始まり、引き鉄を引くものがここにいるからね」

「かぅっ」



軽めとはいえ手のひらでばしっとされて思わず空気の抜けたような声を上げてしまうマーズ。

なんとはなしに予想はしていたが、やはりここまでの数々、刹那に散っていったお邪魔虫たちはマーズがそこに在ることが、やってきた理由であったらしい。



リオと聖おっさん師匠に連れられるようにして、正しく蟻地獄の逆さ富士……最下層付近にて。

タクトがモデルであるはずなのに、セザール近衛兵団の副長であるらしい彼女は、幼さなど微塵も感じさせないキリっとした雰囲気で状況を伝えてくる。



「あぁ、科学と妖怪が面白い感じに融合しちゃってる世界だね。サキちゃんたちが出向しているはずだけど、そっちの世界は大分魔物たちが元気らしい。……いや、魔物でなく妖怪か。何せこっちに赤オニさんがいるくらいだものなぁ」



青オニさんとか呼び寄せたのならば赤オニさんに押し付けて逃げるからねぼかぁ、なんて。

思ってもいないボケを残しつつも、実に簡潔に聖おっさん師匠はマーズに説明してくれる。




しっかりと整備された【虹泉トラベル・ゲート】とは違い、輪郭が曖昧な七色に濁った火口のごとき虚ろの向こうは。

よくよく見ると水底奥で事細かに細分化されているようで、そのうちのどこからこの世のものではない敵性がやって来るかどうかが分かるらしい。



此度の異世界からの侵入者は、リアータの叔母にあたる人物とその世代の英雄たち(その中にはマーズにとっての叔母……あるいは叔父もいる)が出向している世界のようだ。


科学と妖怪、演劇と魔法。

マーズにとってみれば、異世界旅行ができるのならばいつか行ってみたい世界のひとつではあるが。



マーズが泣かない赤オニだなんて呼ばれているような呼ばれていないような……だからではないだろうが。

妖怪と呼ばれる、ユーライジアにおいてもはるか太古の昔には存在していたと言われる、魔物魔精霊の原種、近種のものたち。

聖おっさん師匠の言う、相棒的存在な青オニなどは、魔物のレベルとしては最上級(AAAクラス)、この世界で言うのならば【神型】の魔精霊や魔王レベルとのことで。

やりとりを聞く限りでは、それに近い存在が、しかも複数体やってくるらしい。

開き直って逆にわくてかしつつかぁかぁ言いながらどんなやつらなのかを聞いてみると。




「大ムカデ、AAクラス。海ボウズ、Aクラス。ダイダラボッチAAAクラス。いやはや。これまた随分と幅を取るやつらばかりだなぁ。きみのレベル、本来のサイズに合わせているのかな。……その大きさに隠れて他にもいそうだけれど、メインどころはこのあたりだろう。ふむ。我が軍総動員ならばやってやれないこともないが、我が相棒は不在であるしなぁ。リオ、クーテ。まだ少しばかり時間に余裕はあるね?」

「はい。出現時間は半刻あたりかと」

「よし、十分だ。人たら弟子よ。その身体じゃぁ窮屈であろう? というか召喚契約が重複しているじゃないか。これなら母さんにもいいわけが聞くだろう。本当は忸怩たるものがないではないが、眠ったままであるのも忍びないと思っていたんだ。……娘の身体を借りて久方ぶりに私と背中合わせで戦う、修行する気はないかい?」



何だか、いつの間にやら師匠たちの間で浸透してしまっているらしい、そのなんとも言えない呼び名に対してツッコミたかったけれど。

それより何より聖なるおっさん師匠の、唯一無二の相棒について触れよう。



ガイゼル】第二位の神型の魔精霊にして、ヴァーレスト家とも深く関わりのある人物。

というか叔母のつれあいであったから、師匠と言う間柄ではないけれどマーズにとってみればよくよく遊んでもらった人物でもある。

それこそ、『フェイクファー』なる妖怪蔓延る異世界ならば、『雷獣王』などと呼ばれてもおかしくない憧れ深い人でもあって。



「……かぁぁっ!!」


続くマーズの鳴き声は。

今までの中でも、とみに鋭くヤル気満載に響き渡ったことだろう……。


 

    (第110話につづく)








次回は、7月31日更新予定です。

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