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第108話、真に夢が現実としてやってきているからこそ、吐く程に甘く




SIDE:マーズ



ラルシータ大陸、ラルシータスクールの敷地外……その最も近い場所には。

かつて、トウエイと呼ばれる町があった。

 

リアータの母たちと、この世界でも異世界においても血のつながった妹と。

スクールに通いながらも、後に様々な異世界を巡り、英雄ステューデンツと成った者達が暮らしていた……そんな町が。



しかし、今となってはその場に、かつての町の面影はない。

虹泉トラベルゲート】や、時渡りの魔法を扱える【リヴァ】や、召喚魔法を好む【アーヴァイン】の根源魔精霊により、異世界へ行き来することが常態化してしまって。

いわゆるゲートが開いたままの状態になり、異世界と繋がってしまって。


トウエイと呼ばれる場所が、特異点となり。

その環境が、世界が大きく変容してしまったからだ。 

 




「着いた……よ。取り敢えずあの人の所へ行きましょう」

「かぁっ」


カムラル家御用達の幻を見せ、声を発したり踊ったりするへんてこ魔法、【フレア・ミラージュ】は。

言葉を発するにしても、あらかじめ準備が必要なため、会話としては実は十全に扱うことはまだ、マーズにしてはむつかしく。

なんとか、リアママ姉の言葉に鳴き声で返すも、胸に抱かれたかと思ったら、彼女が言うところの目的地へ着いたようで。

マーズは、ほうけて目を白黒させるていることしかできていなかったが。



(ん? ここってヴルックの……ムロガんちの実家の『ラボ』っぽい場所か? いや、待てよ。俺ってばここ、来たことあるじゃねぇか)


ラルシータスクール校長にして、大聖人なリアパパにある時半ば強引に修行……『バイト』だなどと言われて。

連れ去られたのがこのトウエイ町改め、トウエイ砦城である。




ユーライジアでも、大陸ひとつ分離れているのにも関わらず、それなりの頻度でやってくる異世界からの来訪者。

実は元を辿り返せば、その大半がここいら辺りからやってくるのだと知らされていた。


マーズが、お邪魔虫扱いしているように、その来訪者は必ずしも善良な者達ばかりとは限らなかった。

ラルシータ校長は、トウエイ砦城付近でいくつも発見された、所謂時の扉をそれぞれぶち抜いて、一つの大きなものとして。

大地を深く穿って、そこに止め置き、その目前に堅牢なる砦を建てることで、監視、対策にあたるようにしたのだ。



リアママ姉が言うように、聖おっさん師匠は大事な用事を泣く泣く諦めてここの指揮を執っているのだろう。

スマートで、抜き身のナイフのごとき雰囲気を醸し出しているのと裏腹に、マーズを抱えたまま離そうとしない彼女の、砦の頂きまで駆けていく様は、随分と軽快で踊っているようにも見えた。



そのほぼ全てが、【ヴルック】の魔力を宿し、さながら鈍色の要塞のごとくで変わり果ててしまっているとはいえ、それまで暮らしていた町の人々は、今現在異世界を飛び回っているであろう彼女の妹たち世代を除けば、そのほとんどがこの砦と化した場所へと詰めている。



どんなに様変わりしようとも、故郷は故郷だからと。

きっと里帰り的な感覚で嬉しいのだろうなぁと。

まったくもって逃げられないままに、マーズが現実逃避をしていると。

分かってはいたけれど、きっと色々な意味で一番会いたくなかった白金の、膝ほどまでありそうな長い髪が映える後ろ姿が見えて。




「……どう? 本日の状況としては」

「のわぁっ!? な、なんだ。母さんか。脅かすなよ……ってか、マリアとリアータのおもてなししてるんじゃなかったか?」

「ええ。みんなもそのうちこっちへ来るだろうから」

「なにィ!? まだ早いって。危ないだろう?」

「大丈夫だと思うわよ。頼もしいお友達も一緒だし。……いい加減、リアータのこと信じてあげてもいいんじゃないかしら」

「ぐぬぅ。そう言われてしまえばぐぅの音も出んな。まぁ、今は私もこうしてここにいるし、母さんがそう言うのなら……って、ちょっと! それ、どっ、どこから捕まえて、さらってきちゃったのよ!?」



きりりと、一国の代表らしく何やら魔法をも駆使してセザール近衛兵団に、巧みに指示を送る様は。

さすがにかっこいいな、さすが聖おっさん師匠だなぁとマーズがしみじみ思ったのはほんの一瞬のことで。


マーズが思わず目を背けたくなるほどにでろっと崩れ……じゃなかった、やさしい顔になる聖おっさん師匠。

その口調すら砕け散り、言葉回しは普通のはずなのに、砂糖を吐き出したくなるほどで。



「失礼ね。……さらってはいない、わよ? クロくんはこの度私の使い魔さん第一号になってくれました」

「おおぉ。そ、そうなのか。……いや、本人が良いってんのなら構わないが。良かったじゃぁないか母さん。生まれて初めての使い魔だな」

「か、かぁっ!?」

「ふふ。良いでしょう」



現実逃避はもうできそうもないらしい。

やはりリアママ姉は、初めて契約できてしまった使い魔の自慢を夫に、聖おっさん師匠にしにはるばる仕事場まで来ただけなようだ。


それなりの間、聖おっさん師匠と目がばっちり合ってしまって。

マーズには及びもつかないくらいかしこさが天元突破している聖おっさん師匠のことだからきっと。

そんな何故か契約できてしまった使い魔がマーズであることくらい気づいているのだろう。

気づいた上できっと、そんな風にどぎついプレッシャーを掛け続けているのに違いなくて。



マーズが、動けないままに冷や汗だらだらでいると。

天の助けか、物語の急展開か。

遥か眼下にて忙しなく緻密に活動していたセザール近衛兵団のひとりにして、団長でもある、

今度こそ本当のリアータの姉である、リオ・セザールが変わらぬ血相のまま、近くに舞い降り立って。




「母様、来ていらしたのですね。ちょうど良かったです。父様、たった今、未確認アンノウンの大物が出現しました。簡易識別によれば、魔王クラスの力があると算出されています」

「……っ」

「ふぅむ。きっかけは上々といったところか。よし、分かった。母さんはここでマリアたちを待っていてくれ。その後のことは任せる。……で、その子ちょっと借りるよ?」

「かかぁっ!?」



素直に頷くリアママ姉に。

引き離される瞬間の、聖おっさん師匠のなんだかコワイ表情に。


マーズはただただ驚きとどまっている鳴き声を上げるしかなくて……。




       (第109話につづく)









次回は、7月26日更新予定です。

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